今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第36回 2006/04

患者中心の開かれた医療の実現を目指して

医療の高度化・複雑化が進む中、医療事故が絶えず、患者側は医療不信を医療側は患者不信を募らせているようです。今回は医療を消費者の目で捉え、対立するのではなく医療側・患者側の対話による良好な関係を作り出そうと活動を続けている、NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(コムル)の山口育子さんに、活動の一端をおうかがいしました。

NPO法人ささえあい医療人権センターCOML
専務理事兼事務局長
山口 育子 氏

NPO法人 ささえあい医療人権センターCOML

最初は、医療を消費と捉えることに猛反発

COML(以下、コムル)は、現理事長の辻本好子が'90年にスタートさせました。知り合いの弁護士が主催する市民グループに関わったのがきっかけになっています。当時はスモンとか森永砒素ミルクなど悲惨な事件があった頃で、薬害の被害者の会や医療訴訟を起こす人とたちと関わることになったのです。

辻本はそういう活動に携わる中で、医療訴訟や社会問題にするような内容だけで、本当に医療は変わるのだろうか。いろいろ電話相談を受けて話を聞いていると、ぐちレベルのお話をされる方がけっこう多い。こういう方の意識を変えていかないと、実は日本の医療は変わらないのではないかと考えるようになり、コムルを立ち上げたのです。
当初、医療を消費と捉えるということに対して、非常に反発をされる医療者の方もいらして、「医療を冒涜するのか」というような電話がありました。ところが新聞にインフォームドコンセントという言葉が初めて登場したのが同じ'90年で、患者の権利についての記事が掲載されるようになりました。そのような時代の流れの中で、グループ名に消費者(consumer)という概念を入れたことが、日本で初めてだったらしくマスコミが注目してくれました。ようやく日本でも、医療はおまかせではいけない、患者ももっと意識を高めようという時代の流れになり、その流れに後押しされるかのように仲間が増えてきました。

活動のキーワードはコミュニケーション

医療側には「私たちはこういう医療を求めたい」ということをお伝えし、逆に同じ患者の立場には、「私たちも甘えていてはいけない、もっと自立しましょう」と両方に言っていくバランス感覚を大切にしています。

活動のキーワードがコミュニケーションということは、本当に理解されにくかったですね。'90年頃の患者の立場の団体というと、ほとんどが患者会か被害者の団体でした。私たちは被害者になる前に、より良いコミュニケーションを進めていけばそこまで発展することもないし、患者ももっと自立することができるとお伝えしたかったのですが、なかなか分かっていただけませんでした。医療側からは、「自分たちのことを糾弾するのではないか」と受け取られ、患者側の団体からは、「患者側の団体なのに対立しないとは」とご批判をいただいたりしました。
被害にあわれた方は対立せざるを得ないと思いますが、一般の患者は別に被害者ではないわけです。患者=被害者ではありません。発足して10年ぐらいたった頃から、加害者・被害者という対立構造だけでは変わらないと考える方も増えてきて、ようやく私たちのスタンスが理解されるようになってきました。

患者の立場で調査する病院探検隊

私たちの活動の一つに病院探検隊というのがあります。基本的に10人ぐらいが3つのグループに分かれて探検します。グループはそれぞれ役割を持っていて、一つは病院の管理職の方に案内していただく普通の見学者。そばに病院の方がいるので、とにかく徹底的に質問をするという役割を担っています。もう一つのグループは自由見学。例えば患者さんの流れや職員の対応を見たり、掲示板にどんな情報が貼ってありそれがわかりやすいかどうか、外来患者さんや入院患者さんにインタビューするなど自由に見学します。

最後が、これはあくまで病院側の要望で行なうのですが、他の患者さんに混じって受診する役割。ほとんどの病院が希望され、現場には知らせませんので、抜き打ち調査みたいになります。私たちもだますことが目的ではないですから、実際の症状や持病を持っているメンバーが受診します。受付を通り、待合い、診察室、検査、最後は会計でお金を払ってという一連の行動をしますので、かなりいろんな問題点が見えてきます。

今まで52ヵ所を探検しました。最近では公的な病院の依頼も増え、私たちが思ってもみなかった、国立の大学病院からも依頼がありました。時代が変わってきたなと思いますね。探検隊を呼んでくださった病院が、私たちの提案によって少しでも改善してくださればと思い一生懸命やっています。

広がる模擬患者グループの活動

'93年に始めた模擬患者グループの活動もあります。さきほどの探検隊の場合は本当の症状で受診しますが、模擬患者は本当の症状ではなく、ある場面を設定して医学生やナースのコミュニケーショントレーニングの相手役をします。模擬患者は、名前、年齢、家族構成、性格、生活背景、生い立ち、現病歴など、どういう症状で病院に来た患者なのかという流れをきちっと設定します。
例えば、子宮がんの疑いがあって今日はその結果を聞きに来たという設定だとします。トレーニングなので、簡単に「ああそうですか」ですますといけないので、子宮がんだけれど、長年付き合ってきた彼とようやく結婚が認められ、今から孫を楽しみにされているなどの"生活上の背景"を入れ、「今、子宮を取ると困る」という状況を設定するわけです。

医学生たちとの模擬診察が終わった後、感じたこと気付いたことを伝えます。「あの一言で心を閉ざしてしまった」など、普通は自分の診察で患者がどう思っているか分からない部分を伝えるというのが役割です。
これは医学生だけではなく看護学生や研修医、ナースの場合は3年目、10年目などの卒後研修への派遣依頼もあります。今は非常に職種が広がってきて、鍼灸師、薬剤師、理学療法士など、いろんな職種からセミナーの依頼が届いています。

賢い患者を育てる、患者のためのコミュニケーション講座

医療者側だけではなく、患者側のコミュニケーション能力も高めなければということで、2001年から"患者のためのコミュニケーション講座"を始めました。ゲームやロールプレイ、ディスカッションなどを通して、自分のコミュニケーションのくせや問題点に気付いていくというものです。

日常のコミュニケーションがうまくできていないのに、診察室に行ったときだけ上手にコミュニケーションできる、などということはあり得ません。日常の中で、すっと質問したり、何か人に頼まれたときに、「あ、こういうことですね」と確認したりということが身についてはじめて、緊張する診察室の中でも質問ができ、確認もできるということだと思います。ですから、日常のコミュニケーションをいかに豊かにして、それを医療現場に持ち込むかということを訓練する講座なのです。
昨年でしたか、3ヵ所くらい医学生のサークルから依頼があって、医学生向けにアレンジした講座を行いました。そこでは、「医療面接と言うと勉強したマニュアルと考えていたが、講座をやってみて、日常のコミュニケーションの延長線上に医療現場のコミュニケーションがある、ということにはじめて気がつきました」という意見が飛び出して驚かされましたね。

時代の変遷が感じられる電話相談

私たちの活動の原点であり、メインは電話相談です。現在、月に300件前後の相談があり、これまでの相談総数が3万6千件を超えたところです。
最初の頃はぐちレベルの、ともかく誰かに聞いてもらいたくて電話して、どうどう巡りの話をするような方が多かったですね。ところがだんだん、相談自体が具体的な相談に変わってきて、'95年前後にかなり患者の権利意識が高まったと感じました。

実はこの時期、象徴的な事件が3つありました。一つは阪神淡路大震災。その時は、通っていた病院がつぶれて、例えば高血圧の薬を飲まないと血圧を維持できないのに、自分の飲んでいる薬の名前をご存じないという方が多かった。そこから、自分が飲んでいる薬ぐらいきちっと理解しておかないと、とんでもないことになるという意識が少し芽生えてきました。
同じ時期に起こったソリブジン事件は、抗がん剤と併用して副作用が出たというものです。これなどは、患者ががんと知らされていなくて、抗がん剤を服用していると自己申告できなかったことも原因の一つでした。突然副作用死してしまうという無念さを考えたら、例えがんであっても受け止めなければいけないと思い始めたきっかけにもなりました。

もう一つは薬害エイズの問題。信じていた権威や行政、研究者が実は情報を隠したりすることがあるのだということが分かって、自分の身は自分で守らなくてはということで患者の権利意識が高まってきました。

治療に大切な、良好な人間関係

今は、病院に不信感を持って行っている方が本当に多いなという印象があります。でも、患者の不信感は医療者にも伝わります。そうすると医療者もかまえてしまいます。治療というのは本来協働作業で、人間関係、信頼関係を築いてともに治療していく関係でないといけないのに、お互いに不信感を持っていたらそんなことが実現するはずがありません。

私たち患者ももう少し冷静になって、不信感を持つことが自分たちの治療にとって本当に幸せなのかどうか、少し考え直さなければいけない時期に来ているのかなと感じています。まずはお互い人間対人間であるという基本に立ち返って、冷静な人間関係、良好な信頼関係をつくることが大切だと思っています。

山口 育子 氏
大阪市生まれ。自らの患者体験から、患者の自立と主体的医療の必要性を痛感していた1991年11月、COMLと出会う。活動趣旨に共感し、1992年2月にCOMLのスタッフとなり、相談、編集、渉外などの担当責任者として今日に至る。2002年4月に法人化したNPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの専務理事兼事務局長。
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