今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第39回 2006/07

医療情報技師に期待する、今後の医療界での活躍

病院や企業で、医療情報技師(Healthcare IT)という資格の取得を目指す人たちが増えてきました。今回は、医療のIT化が進行するなか、蓄積される医療情報をよりよい医療につなげていくためには、医療情報技師の育成が欠かせないとして人材育成に力を注ぐ、渡邉亮一さんにおうかがいしました。

自治医科大学看護学部 教授
日本医療情報学会医療情報技師育成部会研修委員会 副委員長
渡邉 亮一 氏

自治医科大学
日本医療情報学会
医療情報技師育成事業

急増する医療情報技師能力検定試験の受験者

医療情報技師という資格は、日本医療情報学会が能力検定試験を行って認定する資格です。毎年8月の第3日曜日に全国9会場で能力検定試験を行っており、昨年3回目を行ったところです。
医療情報技師の能力検定試験は、医学・医療系、情報処理技術系、医療情報システム系の3つの科目があり、全部パスしないと合格しません。ただ、現在は、医師・看護師などの医療系の資格をもつ人は医学・医療系の試験を、情報処理技術者やシステムアナリストなどの資格をもつ人は情報処理技術系の試験を免除する制度があります。ただし、免除制は2007年度から廃止されます。また、試験も3つの系に分けてということではなく、1つの試験にまとめることになるかも知れません。
医療情報技師は、診療情報管理士に比べて資格取得へのインセンティブが低いと思われるのですが、昨年の受験者数は全国で4,000人を超え、私たちも驚くほど受験者数が増えています。特に企業のなかには、医療情報技師の資格を取得すると給料に反映させるという仕組みをとっておられるところもあるようで、情報処理関係の企業の方々にかなり支えられて受験者数が増えているのではないかと思っています。国立大学病院、今は独立行政法人ですが、のなかには、「病院情報システムを受注する業者は、医療情報技師の資格を有するシステムエンジニアを有していること」という条件を課して入札を行っているところもあると聞きますので、そのようなことも関係しているかも知れません。
能力検定試験をお受けになる方は、情報処理関係の企業の方以外に、病院のなかで情報処理を担当される方、医療情報に関係する学部・学科のある大学の学生さんや卒業生の方などがおられます。ただ、学生さんにとっては、能力検定試験はかなり難しいようですね。特に、3つの系のなかの医療情報システム系では、医療情報システムを導入し、運用していくなかで、トラブルが起こったときにどう対処するかというような出題もされるものですから、現場でそういった経験があれば比較的簡単だと思うのですが、机上の勉強をしただけの学生さんにとっては、かなり難しいのかなと思います。
合格率は30~40%くらいですので、難しいと感じる人が多いようです。医師や看護師、あるいは薬剤師などの国家資格の合格率は、悪くても8割前後、よければ90%を超えているわけですが、これらの資格は、4年制の大学や短期大学、専門学校などで、一定程度きちんとした教育が行われているという背景があります。しかし、医療情報技師については、自分で勉強して受けていただくということで、能力を測る材料が能力検定試験そのものしかありませんから、多少ハードルを高く設定してあることは事実です。

蓄積される情報からいかに役立つ情報を引き出すかが大事

医療情報技師を目指す方に最初に申し上げたいことは、情報システムを作る時に、病院のなかで情報システムを使って仕事をされる方々と、情報システムを作る業者との橋渡し、いわば通訳のような役割を果たして、なるべくよい情報システムを作ってほしいということです。
医療情報技師育成の目的は、できるだけよい病院情報システムを作るのに役立つ人材を育てることです。さらに言えば、ただ単に情報システムを作るというだけではなくて、そのなかに蓄積される情報から有用な情報を引き出して、医療の効率化や医療の安全、医療の質の向上につなげていける人材を育成することです。そういう意味では、ただ単に日常業務をこなすだけではなくて、少しでも医療をよくしたいという意欲をもって、情報技術を使って情報の有効利用を自分で考えられる、あるいは他の人達と協力してそういうことをやっていける人材を育てたいと思っています。
最近では、国立大学も独立行政法人になり、自ら経営を考えなければいけなくなり、情報処理部門が経営企画部門の役割も果たしているところが徐々に増えつつあります。そういう場でも医療情報技師の活躍を期待したいところです。医療情報部門は、今では、以前のように病院に情報システムを導入するというだけでは存在価値がなく、経営に関与し、企画も行い、さらには医療安全などにも関与する部門になってきていますから、病院の運営管理の頭脳にあたる部門であると私は思っています。

看護部門にも期待したい医療情報技師の活躍

私は、すべての看護師の方に医療情報技師の資格をとっていただく必要があるとは思っていません。しかしながら、病院の情報システムを作っていく時に、看護部門のシステムをはじめ、看護師さんが関与するシステムはかなり多いわけですので、看護師以外の人がシステムを考えるのではなく、看護師さん自身が「こういうシステムが必要だ」という意見をもっている必要があると思っています。ですから、そのなかに医療情報技師の資格をもった方がいるほうが望ましいと思います。
私は、看護教育に従事していますからよくわかるのですが、医師は臨床現場で発生するいろいろな情報を上手に使って研究を行っていることが多いのですが、看護師さんの場合は、自分たちの仕事をよい意味で楽にするとか、よりよい看護サービスを患者さんに提供するといったことのために、まだ上手に情報が使えていないように思います。たとえば、だいぶ以前から看護師さんは看護診断というものに興味をもち、看護診断名を登録する情報システムを作っています。しかし、看護診断名を登録するだけではあまり意味がないと思っています。なぜかと言うと、看護診断は、医師がつける病名に相当するものだからです。胃がんや糖尿病といった病名は、診療報酬請求などには必要な情報ですが、病名をつけるというだけではあまり意味がありません。胃がんという病名をつけたら、胃がんの症例を集めて、それに共通する性質や治療法を見いだすといったことが重要なのです。したがって、看護診断でも同様に、ある看護診断名がつけられたものには、どういう特性があるか、それに対してどのようなケアを提供すればよいのか、そういったことを明らかにするために使わなければ、ただ単に分類をするだけでは意味がないと思うわけです。
看護部門の方にとっては、そういう考え方はまだスタートしたばかりという感じがしますので、できればそういうことも踏まえて、情報を有効に活用できるような人材を育てていきたいと思っています。言い換えれば、このようなことを自ら考えられるような人材を育てたいと思っています。外国でやっているからということではなく、何のためにそうしなくてはならないのか、本質的な意味を考え、それをどう活かしていくのかを考えられる人材を育てていかなくてはいけないと思っています。

今後必要になる上級医療情報技師の役割と育成

現在、能力検定試験を行って養成している医療情報技師は、医療情報技師育成の全体プランのなかでは、初級に相当するものです。しかし、医療情報技師にはこれ以外に、上級の医療情報技師の資格もあります。上級の医療情報技師については、現在、能力検定試験の準備をしており、来年からその試験がスタートする予定です。
私たちは、病院であれば、医療情報部門などでスタッフとして働く方々を初級の医療情報技師、係長・課長・部長など役付きの方を上級の医療情報技師と考えています。企業であれば、主としてシステムエンジニアや技術系の営業の方々など、スタッフとして働く方々を初級の医療情報技師、プロジェクトのリーダーやマネージャーのような方々を上級医療情報技師と考えています。
さらに、医療情報技師育成の全体プランのなかでは、医療情報部門の管理者(HCIO)も想定しています。HCIOは、病院の経営に参画し、保健・医療・福祉の情報化の推進を総括的に担う人であると位置づけています。したがって、医療情報技師を目指す方は、当然のことながら、まず初級に相当する医療情報技師の資格をとっていただく必要があるのですが、上級の医療情報技師の資格もとり、さらにはHCIOの資格取得にも挑戦していただきたいと考えています。

渡邉 亮一 氏
自治医科大学看護学部 教授(保健学修士)

【略歴】
1982年、東京大学大学院医学系研究科保健学博士課程退学。1982年、日本大学医学部助手。1984年、東京大学医学部附属病院助手。1989年、自治医科大学総合医学第2講師。1995年、自治医科大学看護短期大学看護学科助教授。1998年、同教授。2002年より現職。2005年より自治医科大学情報センター教授を兼務。2006年より自治医科大学大学院看護学研究科教授を兼務。
【所属学会・役職】
日本医療情報学会(評議員)、日本病院管理学会(評議員)、日本診療録管理学会(評議員)、日本医療福祉設備学会(理事)、日本公衆衛生学会(評議員)、日本医事法学会。
【著書】
『看護過程へのアプローチ4 調査と研究(共著)』(学習研究社)、『公衆衛生学-その理論と実践-(共著)』(同文書院)、『看護MOOK No.14 外来看護とプライマリ・ケア(共著)』(金原出版)、『Towards New Hospital Information Systems(共著)』(North-Holland)、『医療情報 医学・医療編(第2版)(共著)』(篠原出版新社)、『新医療機器事典(共著)』(産業調査会事典出版センター)、『医療・病院管理用語事典(改訂第3版)(共著)』(エルゼビア・ジャパン)、『医業経営用語事典(新版)(共著)』(日本出版)、『情報学事典(共著)』(弘文堂)
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