今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第40回 2006/08

国民病であるがんの医療を身近な医療にしていくために

「先進がん治療の共同利用センター」設立=東京ベイ・メディカルフロンティア構想を目指して、2004年に専門医や研究者などが中心となって作られたNPO法人東京地域チーム医療推進協議会(略称TeamNET)が、その実現に向けて新たに「事業企画会社」を設立しました。今回はTeamNETスタート当初からの中心メンバーである阿曽沼元博さんに、計画の概要をうかがいました。

国際医療福祉大学 教授(国際医療福祉総合研究所)
(株)医療福祉経営審査機構 常務執行役
順天堂大学 客員教授 NPO法人東京地域チーム医療推進協議会 理事
阿曽沼 元博 氏

国際医療福祉大学
NPO法人東京地域チーム医療推進協議会

がんは国民病であり全身病

私たちがこういう構想を抱いたそもそもの理由は、日本のがん医療は国際基準に照らして遜色のない状況にあるのかと、疑問を持つ多くの先生方がいらしたことにあります。そしてそういう先生方との議論の中で、例えば日本には腫瘍内科医が非常に少ないとか、患者さんの声としてはがん難民がいるとか、欧米に比して日本は放射線治療に対してまだまだ理解が足りない、放射線治療を増やそうとしても肝心の放射線治療医がいない、放射線治療をする上で非常に重要なスタッフである医学物理士という人たちもいないということがわかってきました。

一方、これから国民の3人に1人はなんらかの形でがんにかかる時代なわけです。国民の3人に1人ということは、実は家族単位で考えると100%全ての国民ががんに身近に接するといえます。つまり、がんは国民病といえるんですね。それとともに、がんには必ず転移があって原発巣と違った臓器が侵されますから、全身病でもあるということができます。また、高齢になればなるほどがん患者は増えていくわけで、そうなった時に果たしてがん医療は私たちにとって身近でやさしい医療でしょうか。残念ながらそうではないのが現状です。

局所療法と全身をケアする治療法が必要

では身近な医療にしていくためにはどうしたらいいのか。これは実は民間だけで考えられることではなくて、国も考えなくてはいけないわけですし、実際に多くの試みがされています。その中で、私たちは今後発展が期待されている放射線治療というものと、がんが全身病だということに注目しました。

放射線治療は欧米では50%以上の人が受けている治療なのに、日本では20%くらいしか選択肢となっていません。放射線治療そのものは患者さんに対するダメージも少なく、適切な時期に適切な治療をすれば、外科手術と同じもしくはそれ以上の効果を出しているということが明らかになっています。
それから、手術とか放射線治療は局所療法です。ピンポイントでがんを治していきます。しかしがんには必ず転移があり全身病です。では全身をケアする、より良い状態に導いていくのは何かということが出てきます。現在は抗がん剤治療が主流ですが、多くの患者さんが抗がん剤でいろんなダメージを受けて苦しんでいます。抗がん剤を悪いものだとは決して思いませんし、効果があることも事実ですが、何かそれを補完するような治療、もしくは局所の療法をした上で全身のケアもしていく、そういうことがこれから重要になってくるのではないかと考えたわけです。

重粒子線と免疫細胞治療に着目

私たちは最初、有志の先生方を中心に議論をしていましたが、参加する人が多くなり2004年にNPO法人になった時には20人くらいのスタッフの方が、熱い思いで参画してくださいました。それを癌研有明病院の武藤院長や順天堂の佐藤潔先生、元国立がんセンター東病院長の海老原先生をはじめとする多くの先生方が支えてくださったんですね。また、東大病院の放射線治療の中川先生は次の時代の新たながん治療の方向性を示してくださり、最近では順天堂大学の唐澤先生等多くの若手の放射線がん治療の先生にも議論に加わっていただいて、少しずつ議論に厚みが出てきたと思っています。

そういう中で、一つひとつの医療機関が経営努力して装備することができるものは、改めて私たちがやる必要はないのではないかと考えたわけです。例えば放射線治療も定位放射線治療とか最近ではIMRTなど、放射線治療そのものも進化してきていますが、それは各病院が自らの努力で必要機器を整備できることです。ですから私たちは、設備の問題、スペースの問題、経済的な理由などいろいろな問題で一つの医療機関ではなかなかできないもの、そして医療界の先生方がこれは必要だというもの、その中でも私たちは重粒子線治療というものに着目をしたわけです。さらに、それはピンポイントの治療ですから、それらと組み合わせて、全身療法である免疫細胞療法にも着目したわけです。

免疫細胞療法はまだまだエビデンスが少ないと言われる側面もありますが、東京大学医学部の22世紀プロジェクトなど、多くの医療機関が研究をスタートしていますから、そういうものの成果を患者さんにフィードバックするような施設ができればいいと思ったわけです。免疫細胞療法は非常に厳しくクォリティコントロールされた、セルプロセシングセンターという無菌の装備が非常に重要です。一つの医療機関がそういう装備を持って、クォリティコントロールをしながらやっていくというのは採算性の問題もありたいへんです。私たちは、そういう装備も共同利用できる、ピンポイントと全身療法を併用してやれる施設ということに的を絞ったわけです。

また、がん医療と共同利用に、共通して言えることは患者さんのデータをいかにきちっと共有していくかということです。がんは先ほど言ったように全身病ですから、一つの臓器に止まらないことが多いわけです。また、がんにおいてはセカンドオピニオンがたいへん重要です。基本的にがんの患者さんは病院の中でもいくつかの診療科をまたがりますし、共同利用という意味では複数の医療機関にまたがることになります。したがって、患者さんの情報を共有していかなくてはいけないわけです。

つまり、がんの共同利用センターというのは、実は電子カルテのネットワークがないとやっていけない施設です。ですから私たちはがんの患者さんにフォーカスした、健康情報ネットワークというものを併せて作っていくということで進めています。

PPPPをコンセプトとする事業企画会社

私たちは、PPPPという4つのPをコンセプトに、すべてを公的資金でやるのではなくて、公的資金と民間資金を融合させていくことをプロジェクトのベースにしています。通常はPPP、Public Private Partnershipということが多いのですが、私たちの場合、最初にPrivate がきてPrivate Public Partnership for Patient とか for People で、PPPPということをコンセプトにしているのです。私的な機関、民間がしっかりと事業をひっぱっていき、それを公的ないろいろな人たちが人的、資金的にサポートしていく、そういうパートナーシップをとっていきたいと考えたのです。

今後、実際の医療は医療法人がやらなくてはなりません。それは私たち自身が作っていきますが、具体的な事業計画がきちんと市場の理解を得た上で資金調達をしていかなければなりません。これはNPO活動だけでは限界があるんですね。企業もNPOの会員という立場でできることと、自分たちがちゃんと出資をして責任を持ってやるというのでは、情報の開示などいろんな面で違ってきます。
また、今はパブリックなお金も当然採算性を重視します。ですから事業をたちあげることも重要ですが、事業を継続して続けられるということがたいへん重要になってきます。このようなことから、事業性を厳密に見ていく、きちっと手順を踏んで焦らずに腰をすえてやるために、事業企画会社を作って段階を踏んでいくという方針をたてたわけです。

全ての機関の知恵を結集して、がん医療を身近なものに

現在、川崎商工会議所殿が、羽田空港の隣接地である「神奈川口」に私たちの構想を具現化する土地等の提案をしてくれています。2009年に羽田空港が国際化しますので、その時期に合わせて資金が集まれば、2009年度には免疫細胞療法とそれに関連する施設、もしくはクリニックを開業・スタートし、その後、第2フェーズとして重粒子線の治療センターをと考えています。

私たちの作る施設は共同利用ですから、基本的に全ての医療機関に対してオープンです。患者さんのベースとしては神奈川県内、東京都、埼玉県くらいと考えています。ただ、羽田空港の隣接地が本当に確保できれば、患者さんにとっては非常に利便性が増し、北は北海道から南は九州・沖縄まで、そして東南アジアの患者さんも受け入れることができます。これは実は事業性を考えた時には非常に重要なことになります。

ところでがん治療は高額な治療です。重粒子線治療は今、314万円かかります。通常の抗がん剤と放射線治療、手術など、一つのがんを治療していくためには、入院を含めると200万~300万の自己負担がざらになってきました。
そこで、行政の方々や金融界の方々にお願いしたいと思っているのは、がん治療に対する融資制度の創設です。今、住宅ローンでも親孝行ローンというのがありますが、例えば、私はがんの治療にも親孝行ローンみたいなものがあっていいと思うんですね。保険会社の保険、自治体の融資・支援、銀行の融資、全ての中にがん治療のためのサービススキームができてくれば、非常に多くの人が恩恵を受けることができるようになると思います。そういう意味で、行政の方の知恵、金融機関の知恵、保険会社の知恵を結集してもらいたいとも思っております。

阿曽沼 元博 氏
1952年生まれ。東京都出身。1974年慶應義塾大学商学部卒。同年富士通㈱入社。一貫して医療ビジネスを担当し、2000年同社医療統括営業部長。1989年医療情報学会理事就任。2002年4月より現職。現在、順天堂大学の客員教授を勤める傍ら、総務省『政策評価・独立行政法人評価委員会』臨時委員、内閣府『規制改革民間開放推進会議』医療WG専門委員、三重県議会『県立病院民営化検討委員会』委員を務める等、活躍の場が多岐にわたっている。著書は『医療とマルチメディア(マルチメディアオムニバス)』(共著、東洋経済新報社、'99年)他、共著・論文等多数。
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