今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第50回 2007/06

認知障害者と向き合うスウェーデンの現状

認知症の発症や介護度が上がる、80歳以上の高齢化率が5.2%に達しているスウェーデン。世界に先駆け、いろいろな対策を講じています。今回は、スウェーデンがいま力を入れている認知障害者の問題について、おうかがいしました。

スウェーデン福祉研究所所長
株式会社 日本スウェーデン福祉研究所 取締役
グスタフ ストレンデル Gustav Strandell 氏

Swedish Care Institute
日本スウェーデン福祉研究所

大規模施設から小規模施設へ

スウェーデンでも1970年代以前まで、高齢者のための大規模な施設をたくさん作りました。大規模施設はまだたくさんありますし、それが悪いということではありません。問題は中身ですから。 ただ、認知症についてはスウェーデンでも60年頃まではあまり知られていなくて、認知症の人は療養型病院か精神病院に収容されていたのです。70年代に入って療養型病院はやめ、他の疾患と区別して認知症患者だけをケアする施設、ナーシングホームができました。80年代前半に、ユニット型ナーシングホームやグループホームが少しずつ始まったのです。

しかしその頃から、施設よりも家という考え方が出てきて、施設ではなく、『特別住宅』とか『特別な住まい』という言い方が入って来ました。介護がかなり必要になってきたり認知症が入ってきたりすると、特別な家が必要だとされたわけです。それは、従来のユニット型ナーシングホームの進化型です。

エーデル改革による在宅ケアへの流れ

90年代に入ると、施設は作らないで在宅ケアをということになりました。というのは、スウェーデンでも日本でも共通の問題ですが、施設はどんなに作っても足りません。そういう現実的なことがわかってきたからです。92年の大きな改革、いわゆるエーデル改革から現在まで、施設はほとんど作られていません。

政策的には、2つの柱がありました。1つはそんなにたくさんのホームは作れないので、ホームに入る段階を遅らせる政策。
これはお金の面もそうですが、利用者の意見を聞いてみると、医療でも介護でも「自分の家がいい」という人がほとんどだという理由によります。それもまた、もちろん無料ではできないし、新しい仕組みが必要です。その仕組みをどんどん作ってきました。

超高齢化率世界一のスウェーデン

それに対して政策のもう1つの柱は、認知障害者への一人暮らしの支援です。世界の標準では高齢者というのは65歳以上の人たちです。しかし65歳になってもすべての人が介護が必要なわけではなく、その必要のない人がほとんどです。80歳を超えると介護度が上がり、認知症が発生して介護が必要になることが多いわけです。

その、80歳以上の超高齢化率がスウェーデンは世界一で、現在、人口の5.2%が80歳以上です。日本は3.0%くらいでしょうか。そこで、80歳以上の人たちの住まいは、どういうものが良いのか、どういう介護が必要なのかということになってきます。現在、スウェーデンでは対象者が初期医療センターを受診、認知症と診断されると、認知症チーム、家族・親族、認知症協会と連携をとることになります。そしてニーズ査定主事が必要なケアを判定する仕組みを作っています。認知症のケアの現場では、認知症看護師が支援することになります。

認知障害者の一人暮らしの可能性を探る

スウェーデン福祉研究所の本部である国立スウェーデン障害研究所に、スマートラブ(smart lab)というところがあります。この中に認知障害のある人、高齢者だけではなくて若い人にも認知障害の人はいますから、そういう認知障害があっても、一人暮らしはできるのかという試みが2000年から始まりました。この答えは「できる」です。かなりの福祉用具が必要にはなるのですが。

そのための『特別な家』は、日本の人が見たら、一見、普通のアパートだと思うかもしれません。しかし、実際によく見てみると、中は福祉用具だらけなのです。例えばキッチン、リビング、ベッドルームというふうに普通にあるのですが、電話するため、ステレオを聴くためなど、全部の家具が、かなりの認知障害があっても使える、使いやすいものになっています。

開発されたさまざまな福祉用具

認知症の方が自分で薬を飲むということは、かなり劇的なことです。たいていは、訪問看護師が1時間かけて訪問しなくてはなりません。しかし、認知障害があっても自分で薬を飲むことができる器具が開発されています。 例えばランチの後、この器具に小さな穴が開きます。そこから専門家が入れておいた適切な量の薬が出てきます。小さな穴しか開かないので飲み過ぎることはありません。また、開けようとするとアラームがセンターにいくようになっています。

それでも忘れてしまう場合は、器具からケアスタッフに通報がなされます。そうするとケアスタッフがその方に電話して、薬を飲むよう促すのです。
ベッドから起きて転倒・骨折するのを防ぐ改良ベッド、今が夜か昼か混乱してわからないなどの症状がある場合、話しかけてくれるマットなどもあります。このマットは、「今は夜の2時、起きる時間ではありません」というように話しかけて、時間を教えてくれます。そういうさまざまな福祉用具と、なにかあったときのためにアラームボタンやセンサーがついているわけです。

認知症の介護家族をサポートするのが目的

これらは軽度の認知障害の方が、一人で住むことができるようにと開発されたのですが、それが理想ということではありません。
ほとんどの高齢者、特に認知症の場合は、たいてい夫婦で暮らします。ですから家族がサポートするという場合、ほとんどは奥さんあるいはだんなさんが支えることを意味します。
ずっと見ていないと何が起きるかわからないというのは、介護をしている家族の方にとってたいへんなストレスです。このような福祉用具が備わった住宅であれば、介護者が短期間外出しても支障がありません。そのような支援にかなり役立ちます。
介護が重度になったらそれも不可能になりますが、施設に入ることを遅らせることはできるのです。家族のない方や、みんな遠いところに住んでいるという方の場合は、これでもソリューションにならないのは事実ですが。

スウェーデンの高福祉はコストとの戦い

スウェーデンは、それこそ毎日戦っていると言っていいくらい、できるだけ安く高福祉をやろうとしているのですが、そこはけっこう誤解されていると思います。高福祉にはお金が必要です。逆に言うと、安くできれば税金が上がらない、もしくは高福祉を維持することができるわけです。

それというのも、スウェーデンも日本と同じで、介護のニーズは下がることはなく上がり続けます。ではさらに税金でやるのかというと、スウェーデンはこれ以上の税金はシステム的にとれないところにきています。
ですから、スウェーデンの福祉用具は世界一質の良いものだと思っていますが、その作り方もそうですし、それを使って"全体的に"いかに安くできるかということを考えているのです。一番簡単な例は、○○ITではなく、歩行器です。歩くことはいろんな予防的な機能もありますし、家に閉じこもることを防ぎます。

費用と時間、人手を省略するアクションプロジェクト

ICTを使って高福祉の在宅医療・介護をする、アクションプロジェクト(EUのプロジェクト)もそうです。スウェーデンは日本よりも距離がある国で、特に北のほうは非常に小さな村だったりします。しかし、大きなストックホルムも300人しか住んでいない村でも、福祉の標準は一緒です。

首都から遠く離れた小さな村でも高福祉を得る手段として、ICTは非常に威力を発揮します。医師か看護師が訪問しなければいけない状況をいかに防ぐか、ということですね。そうすればお金がかからない、時間がかからない、人手が要らない、ということになります。
よくこういう開発のモデル地域とか技術を作るときに、本人たちが結局使わないということがありますが、このプロジェクトの技術は使われています。なぜかというと、高齢者の方も開発に参加したからです。これはとても大切なことで、日本でもぜひやってほしいですね。

利用者の参加は普通のビジネスなら当たり前のこと。例えばメーカーが新しいテレビを作る時に、利用者がどういうものを必要としているのか、聞くのは当たり前でしょう。福祉業界はごく普通の業界であるのに、なぜかこれが遅れていると思います。

認知症分野の教育の重要性とITの活用

ITが重要になってくるのはもう一つ、認知症の教育の分野です。いま、医師、看護師、准看護師、介護士、すべてに認知症の分野での教育、情報、研修が必要になってきています。
スウェーデンでは、仕事をやり始めてから教育を受けるケースがたくさんあります。そして、仕事をしながら教育を受ける仕組みには、ITがたいへん便利なのです。

例えば、スウェーデンのシルヴィアホームが行なっているシルヴィアシスター教育は、選ばれた人たちが1年間仕事を休むか辞めて、研修を受けながら勉強するという形でした。しかし、現在のバージョンは自分の現場で仕事をしながら、2年間の通信教育で、いつでもシルヴィアシスターの教育が受けられるようになっています。
この教育は、スウェーデンにしては本当に珍しく有料なのですが、それでも受講生がそれまでの3倍以上に増加しています。ITによって、研修や教育がより受けやすくなった結果といえます。

Gustav Strandell グスタフ・ストランデル 氏
【略歴】

1974年生まれ。92年、早稲田高等学院にて交換留学。97年、北海道東海大学にて交換留学。98~99年高齢社会とについて修士論文作成(スウェーデン:リンショピンとストックホルムで調査、日本:札幌・東京・大阪・神戸で調査、日本指導教官:京都大学教授外山義)。この間、在日スウェーデン大使館にて研修生として勤務。スウェーデン貿易公団にてスウェーデン福祉研究所のプロジェクトメンバーを務める。2000年、ストックホルム大学卒業。2003年より現職。2005年からは、日本スウェーデン福祉研究所 取締役としても活躍中。
インタービューTOPへ
ページの先頭へ戻る