今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第143回 2015/03

「患者さんの子ども」にも目を向けて。ヤングケアラーを交えたケアの展開を。(後編)

「ヤングケアラー」とは、家族の介護や世話を行う、18歳未満の子どものことを指します。この分野の研究が進むイギリスでは、子どもが担うケアの受け手は親が多いとされてきましたが、日本では、高齢化が進むにつれ、孫が祖父母をケアするケースも多くなっているようです。前編に引き続き、成蹊大学の澁谷智子先生に、ヤングケアラーの現状と医療・介護職がヤングケアラーを支援するためにアプローチできることについてお話をうかがいました。

成蹊大学文学部 現代社会学科 講師
澁谷 智子 氏

成蹊大学
澁谷智子氏ホームページ

子どもであり介護者でもあるヤングケアラー

前編では、多くの子どもが家族の介護やケアを実際に行っている現実があることをお伝えしました。しかし、そうした子どもたちは、介護の方針を相談し合う場にいないことも多々あります。そのような場には、医療や福祉の専門職と患者さん、その「ご家族」が集まりますが、そこに子どもを入れることは、あまり想定されていないのかもしれません。病院で治療に関する説明がなされる時にも、患者さんと同居していない親戚が「ご家族」として説明を聞くことがある一方で、実際にケアに関わっている子どもが、そうした情報にふれていないということもあるようです。
 
実際、ヤングケアラーは、家族の病状に関する医療的な知識や福祉サービスなどについての情報をもたないまま、日々のケアをしている場合があります。もちろん、身近な大人から間接的に説明は聞いていると思いますが、それでも、重要な情報が、子どもが理解できる形で伝わっていないこともあります。この先どうなっていくのか、このケアの仕方でいいのか、そのような子どもの疑問や不安に対して、医療や福祉に関わる人々が意識して対応していくことは大切だと思います。
 
ケアを担っている子どもの話に専門職が耳を傾けるということも、進めていただきたい事柄です。仕事をもつ大人と子どもの両方が関わって患者さんのケアをまわしている場合、それぞれが患者さんに接する時間帯は異なり、大人が気付かない患者さんの変化に子どもが気付くこともあります。こうした気付きは、治療やケアの方針を考えていく上でも役立つ情報だと思います。未成年の子どもだから医療や福祉の専門職と話す機会がなくて当たり前なのではなく、子どもが実際に介護やケアを行っているのであれば、そのことにきちんと注意を払って、その話を聞く姿勢をつくっていければと思います。
 
もちろん、子どもの成熟度への配慮は大切です。患者さんも、子どもが受けるショックを考えて、自分の病気についてどう子どもに伝えればいいのか、悩むことがあるようです。しかし、現実にケアに関わっている子どもは、子どもであると同時に、介護者でもあります。子どもであるから、ということで、情報がないままケアだけ担う状況に置かれるのは、子どもにとってもつらいところがあります。医療や福祉に関わる人々は、その子が子どもであることに配慮しつつも、その子の介護者としてのニーズにも目を向けていくことが大切です。病院や訪問看護先で子どもと会った時には、その子どもが介護者である可能性も意識して、接していただきたいと思います。

子どもの話を聞こうとする姿勢を

介護疲れはあらゆる年代の介護者について言えることですが、ヤングケアラーの場合も、ケアを担う期間が長期化してくると、いつも疲れている、睡眠がとれない、学校の勉強にあてる時間が少ない、友達と遊ぶ機会が減り孤立しがち、といった問題が出てくることがあります。子どもがこうした悩みを抱えている時には、家族も同じ問題を別の立場で経験していることが多いため、家庭の中ではこのようなことを話しにくかったり、話しても解決につながらなかったりしてしまいがちです。そうした状況では、医療や介護の専門家としての知識をもった人が、子どもや家族の話を聞くということが、大きな意味をもってくると思います。
 
しかし、実際のところ、子どもたちにとって、家族の担当医師や看護師、ケアマネジャーさんなどに自分の話をすることは、とてもハードルの高いものになっています。そうした専門職は、患者さんを中心に物事を見る立場にあり、介護やケアを担う子どもは、たとえ相談をしたいと思っても、「そういう雰囲気ではない」「場違いなのではないか」などと感じてしまうからです。また、子どもは、たとえ自分の生活に困難が生じていても、それが介護やケアのためなのか、自分ではわからないところもあります。子どもたちの話を聞くためには、子どもから声をかけてくれるのを待つのではなく、できれば、医療や福祉に関わる方々の側から、子どもが話しやすい環境をつくっていく必要があると思います。病院や訪問看護先で未成年の子どもに会ったなら、「最近、どう?」などと声をかけ、彼らがどのようなケアを行っているのか、不安を感じるのはどのような時か、これからどうしていきたいのかなどをぜひ聞いてみてください。
 
ただ、気をつけたいのは、子どもたちは、介護やケアを“負担”としてのみとらえているわけではないということです。大人の介護者同様、子どもの中にも、家族を思う気持ち、しんどいという気持ち、家族と一緒に住めなくなることを恐れる気持ち、自分の将来に対する不安、人から「大変ね」と言われたくない気持ち、頑張っていることを評価してもらいたい気持ちなど、いろいろな思いが同時に存在しています。子どもは必ずしも、ケア役割を放棄したいと思っているわけではありませんし、むしろ、介護やケアをしていることに自負をもっている場合もあります。
 
そのため、ヤングケアラーへの支援においては、まずはケアをしている子どもの話を丁寧に聞こうとする姿勢をもつこと、その子がまわりの理解や共感を得られるようにしてあげること、その子が家族に関わりたいという思いと自分の人生を両立させていけるように、その方法をともに考えていくことが大切になってくると思います。もちろん、子どもが行うケアの負担を減らすこともその方法の一つに入ってくるかもしれませんが、重要なのは、その子が安心できる要素を少しでも増やしていくことではないかと思います。

医療現場と教育現場、2方向からのサポートを

ここまで、ヤングケアラーの状況を述べてきましたが、実際にそうした子どもたちへの支援を展開していくためには、教育現場と医療現場の両方からアプローチしていくことが大切だと感じています。
 
教育現場の先生は、子どもの学校での様子についてはよく知っていても、子どもの家族の健康状態や介護の内容までは、なかなか把握できません。家族の病状がその子の生活にどう影響するのかを思い描ける度合いも、医療や福祉に関わる方よりずっと低いと思います。子どもたちも、介護やケアの話を学校でするのは恥ずかしくて、先生に相談しにくい時もあります。このような状況では、子どもがケアを担うということに対して、医療や福祉に関わる人々だからこそできるサポートはあると思います。
 
しかし、一方で、学校は、病院と違って、子どもたちにとって身近な場所です。子どもたちが毎日通うところであり、子どもを教え育てることを目的とした場所でもあります。子どもたちが日々とても長い時間を過ごす場所で、子どもが家族のケアを担うことへの理解が進んでいけば、ケアを行う子どもたちにとって、力強い支えになると思います。
 
このような観点から、現在、私は、日本ケアラー連盟ヤングケアラー・プロジェクトのメンバーとして、小・中学校の先生方にもヤングケアラーに関するアンケートを実施し、その結果を分析しています。医療ソーシャルワーカーへのアンケート調査に引き続いて、教育現場での調査を行うことは、医療や介護の分野と教育の分野をつなげてヤングケアラーを考えていく上で、大きな示唆を与えてくれると思います。今後も、医療や福祉、教育に関わるさまざまな人々とともに、ヤングケアラーについて考えていきたいと思います。

 

成蹊大学文学部 現代社会学科 講師
澁谷 智子 氏
 
【略歴】
1998年 東京大学 教養学部卒業
2000年 ロンドン大学ゴールドスミス校大学院 社会学部
Communication, Culture and Society学科 MA in Sociology 取得
2001年 東京大学大学院 総合文化研究科 超域文化科学専攻 修士号(学術)取得
2006年 埼玉県立大学 保健医療福祉学部ほか 非常勤講師
2008年 東京大学大学院 総合文化研究科 超域文化科学専攻 博士号(学術)取得
2012年 成蹊大学 文学部現代社会学科 講師
 
【所属学会】
日本社会学会、福祉社会学会、日本社会福祉学会、社会政策学会、障害学会、日本手話学会ほか
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