今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第56回 2007/12

円滑な地域医療連携で、患者さんが安心できる退院支援を

医療制度の改正により、急性期病院における在院日数の短縮が図られ、患者さんは治療が終われば速やかな退院が求められるようになりました。今回は治療を終えてもなんらかの継続的な医療が必要な患者さんが、安心して家庭や地域で暮らせるためのサポートについてうかがいました。

東京大学医学部附属病院
地域医療連携部 マネージャー (在宅医療コーディネーター)
柳澤 愛子 氏

東京大学医学部附属病院

国立大学で一番早く退院支援に着手した東大病院

1995年、当院の看護部が「継続看護」の視点からアンケートをとりましたところ、退院後も当院に通っていらっしゃる方が全退院患者さんの79.2%という数字が出ました。そのうちの31.8%の方が、管が入ったまま帰され困っている、生活していく上で不安を抱えているなどなんらかの支援を必要としていることがわかりました。

その結果を踏まえて、当時の松下正明病院長が、「社会が急激に変化しているのに、在宅医療にしても転院にしてもサポートなしに暮らしていくことはできない」という考えを打ち出され、東大病院として地域のソーシャルワーカーさんや緩和ケア専門の先生にきていただくなど、いろいろな形の勉強会を2年間行いました。そして97年に、現在の地域医療連携部の前身である医療社会福祉部が院内措置で設置されました。それが社会的にまだ珍しかったこともあり、文部科学省が目を留めてくださり、99年に文部科学省から正式に認可を受けて大きな活動に発展していったという経緯があります。社会的には認知度が低いのですが、国立大学病院42大学のうちで最初ということにも大きな意味がありますし、国として取り組む姿勢のきっかけとなったという点で、意義深いものがあると思っています。

地域完結型医療への転換で高まる退院支援の必要性

医療社会福祉部は「患者さんや家族に満足を提供し円滑な早期退院を図る」という目的を掲げ、その目的を遂げるための方法論として、3つの具体的な方法を考え出しました。

1つめは、退院困難な患者さんを入院した時から見守れるように抽出をして、早期に支援を開始する。2つ目は、担当者がばらばらで一人ひとりの患者さんにあたるのではなく、退院支援チームを組むこと。専任のドクター、専任ナース、ソーシャルワーカーという3つの職種がチームとなって情報を共有し、いろいろな角度から専門的に質の高い支援の実現を目指しました。もう1つは私たちがどういうことを行うかという院内への啓蒙。各医局や病棟フロアを順番に回り、介護保険や福祉サービス、訪問看護ステーションや訪問診療のことなどを説明し、患者さんを中心に地域のサポート体制を病院の先生がたや看護師の皆さんに知ってもらったわけです。そして合同カンファレンスと称して訪問看護師さんや保健師さん、往診医、ケアマネジャー、ケースワーカーさんに病院に出向いて頂きました。

06年の医療制度改革で、自己完結型医療から地域完結型医療の実現ということが打ち出されました。そして07年に患者さんが安全・安心で質の高い在宅医療の支援体制を構築するべく医療制度改革関連法が出されました。そのためには何をすればいいのか、あちこちの病院が考えて設置されていったのが地域医療連携室あるいは地域医療連携部です。
しかし、当院には医療社会福祉部という部が既にありましたので、それを少し改善し、医療と看護の連携の拠点としての位置づけをし、地域医療連携部に改組しました。私たちの行なっている退院支援は入院した患者さんが安心して帰れるようにする後方連携を担っていたわけですが、そこにもう1つの役割として前方連携が加わったのです。前方連携は受診支援と言えるでしょうか、地域と手を結ぶためにはなくてはならない機能です。紹介患者さんを地域のクリニックや病院の先生から受け入れて、速やかに大学病院としての役目につなぎ、退院した後には紹介してくださった地域の先生にお戻しするという、地域の医療連携の大きな核をここで担うという意味で拠点という位置づけになりました。
前方連携は、事務職が主に対応し後方連携の退院支援は専任の医師、看護師、ソーシャルワーカーが担うという形を整えました。

東大病院における退院支援の実際

在宅IVHの方、高濃度補液の方、ターミナル期の患者さんや認知症の方、幸いにも命はとりとめたものの重い障害が残った小さなお子さん、独居家族の方等、社会の高齢化、医療の高度化により退院困難な方はますます増える傾向にあり、サポートの必要性は増加する一方といえます。

この方々への東大病院における退院支援の具体的な手法は、2枚の書類作成から始まります。1枚は退院支援スコア票という、入院と同時に全患者さんをスクリーニングする票で、ナースが約30秒位で記入できるようになっています。これは東大老年病科に入院中の患者1552名の分析を基に作成したものですが、これによってリスクの高い人と低い人がセレクトできます。受け持ちナースやドクターはその時点で、容易には退院できない人がわかります。そうすると、入院と同時におおよその退院日がわかりますから、退院支援を依頼する時期を決め、2枚目の書類である退院支援依頼票が記入されます。

この退院支援依頼票が私たちの手元に届いた時点で、全責任を持って支援を開始することになります。この票には、たとえば介護保険はどうしているのか、キーパーソンは誰か、緩和ケアチームは介入しているかなどがわかるようになっており、支援の内容も自ずからそこに見えてくる仕組みになっています。
そこでまず担当者を決めて、患者さんやご家族の希望や考えをうかがう面接をします。そして情報収集を行いどういう方向性がいいかということを、当部の医師やソーシャルワーカーの意見を聞きながら検討します。その後、訪問看護師さんや往診の先生、ケアマネジャー、地域のケースワーカー、保健師さんと連絡をとり、患者さんをサポートする体制を創っていきます。

ベッドサイドに出向いて寄り添うことを大切に

近県や都内から入院された患者さんの場合には、当院の受け持ちチームと私たち退院支援部署に加え、地域のお医者さんや訪問看護師さん、ケアマネジャーに、患者さんのベッドサイドに来ていただいて、患者さん、ご家族を中心に皆で話し合って決めていきます。来院された先生や看護師さんからは、主治医に対して細かい質問があります。特に訪問看護師さんたちは、「この患者さんの場合、危機状態とはどういう状況を指しますか、心臓への負荷はどのくらいなら大丈夫ですか?」などと、専門的な観点から実に細かいところまで真剣に質問されます。自分たちの地域で、家庭でお守りすることへの責任感がとても強く感じられます。そうしますと、患者さんもご家族も自分のためにこういう人達が来てくれてサポートしてくれるということで安心なさるわけです。私たちの活動は、ベッドサイドに出向いて行って、患者さんに寄り添うということをとても大切にしています。

より良い地域医療連携のための提言

円滑に地域連携を行なうために、私はいくつかの提言をしたいと思います。1つは、医療依存度の高い人に限っては、医療・介護・福祉のネットワークを構築していくに当たって訪問看護師さんがリーダー役を担うほうが良いのではないかということ。介護が主に必要な人にとっては、ケアマネジャーが核ということも良いと思いますが、医療依存度の高い人は医療的に非常に難しい問題を抱えていますから、訪問看護師が核となって支援体制を作るほうが適切であると思うのです。

次に、地域にはたくさんの病院がありますがだんだん整理されていく方向にあります。これからは、病院そのものの役目として、病院が地域の連携強化の架け橋になっていけるようなシステム作りに乗り出すべきではないかということ。
3つ目は、地域の医療連携に関わる方々は、病院窓口となる退院調整を行なう専門部署と積極的に交流して、情報交換を行なっていくことが望ましいということです。このような交流によって、患者さんの支援がスムーズに行くということが私たちの実践からいえると思われます。
4つ目は、地域の連携体制が見てすぐわかるような、マップや冊子などによる情報提供です。そういうものがあちこちに置かれていれば、患者さんや家族の目に留まり、安心の近道が見えてくるのではないかと考えます。
最後に、円滑な連携が行なわれていくためには、顔と顔の見える関係を重視していくことが大切であると思います。現在私たちは、病棟のナースはもちろん、地元の訪問看護師さんやケアマネジャーさん、東大の地域看護学教室の教官、大学院生も共に集う「継続看護研究会」を2ヵ月に1回開いています。FAXだけで済ませる、電話1本でOKというのではなく、実際に顔と顔を合わせられる機会を増やすことが、地域に根ざした円滑な連携体制が構築されていくことにつながると私は強く感じております。

柳澤 愛子 氏
【略歴】

1967年、東大病院外科病棟に就職。77年から5年間、東大看護学校で専任臨床指導者として看護教育に携わる。85年、東大病院臨床現場に戻り、救急部・ICU主任副看護師長。消化器外科・脳神経外科看護師長を8年間務める。95年、外来師長となる。97年、医療社会福祉部師長を兼務し、病院と地域の橋渡し役として退院支援に取り組む。2000年、医療社会福祉部の専任師長となり在宅医療コーディネーターとして、医療・看護連携を基盤とした、地域ネットワークの構築に力を注ぐ。「地域医療連携と看護」をテーマに各地で講演・講義を行い啓蒙に努めている。
東京大学地域看護学教室非常勤講師。介護支援専門員。
【研究論文】
「特定機能病院における要介護高齢者への退院支援方策の作成」
(第6回訪問看護・在宅ケア研究助成事業―日本訪問看護振興財団)
「特定機能病院における在宅への退院支援に関する調査・研究」
(2003年度在宅助成報告書―財団法人在宅医療助成勇美記念財団)
【執筆】
「地域医療連携室の役割と課題」(『看護展望』2002.1.1 メジカルフレンド社)
「退院支援―東大病院医療社会福祉部の実践から」(2002.7.1 杏林書院)
「高齢患者の退院支援事例」(『治療学』2004.7.10 ライフ・サイエンス社)
「特定機能病院の退院支援」(『クリニカルプラクティス』2006.2.1 エルゼビア・ジャパン社)
「地域医療連携室における看護職の役割と課題」(『コミュニティケア』2006.3.1 日本看護協会出版会)
「医療依存度の高い高齢者」(『老年病ガイドブック』2006.6.20 メジカルビュー社)
「高齢者の退院支援と看護連携」(『老年医学』2006.8.1 ライフ・サイエンス社)
「東大病院における退院支援の現状と課題」(『病院』2007.5.1 医学書院)
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