今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第57回 2008/01

高齢者住宅は総量規制を廃止し、長期的視野で開設計画を

平成18年版高齢者白書によると、日本の65歳以上の高齢化率は20%を超え、2050年には35.7%になるとの予測がなされています。それに伴い、高齢者をとりまくさまざまな問題点が指摘されています。今回は高齢者住宅問題に関してさまざまな提言を行なったり、北欧の高齢者住宅事情にもお詳しい田村さんに、日本の高齢者住宅の現状や問題点などについておうかがいしました。

株式会社 タムラプランニング&オペレーティング 代表取締役
田村 明孝 氏

株式会社 タムラプランニング&オペレーティング

なぜ高齢者住宅が必要なのか

まず、なぜ高齢者住宅が必要なのかということですが、75歳以上の人口がこれから急激に増えていき、高齢者住宅に非常に大きなインパクトになってくるのです。自立向け高齢者住宅の平均入居年齢が74?75歳、要介護向けのホームの平均入居年齢が84歳くらいですから、まさにこの方たちが対象になってくるわけです。この層が毎年50万人くらいずつ、これから20年間にわたって増えていくわけですから、政府は高齢者住宅というものをもっと真剣に見て、どれだけの必要量があるのかというニーズ判断をしながら供給する必要があると私は思っています。

ちなみに北欧とアメリカを見ると、要介護者向け住宅は約10%前後くらい供給されているのにに対して日本は4.11%。約半分以下の供給率であり圧倒的に少ないと言えます。
日本の制度では、有料老人ホームが3種類に分かれていたり、グループホームやケアハウス、分譲型などと、高齢者向け住宅は18種類に分かれています。これらを整理して、私どもが厚労省より早い段階で独自に作ったデータに基づいた数字では、今供給されている高齢者住宅は133万戸となります。

これらの高齢者住宅には介護保険が使えるものもあるわけですが、実際に介護保険を使えるものの稼働率を見ると介護付き有料老人ホームでは78%、グループホームと特養がそれぞれ101%、老健99%、療養型が91%となっており、全体では8割くらいが使われています。101%というのは入れ替わりがあるからなのですが、ほとんど満床で空きがない状態なわけです。特養に限っていえば、平成16年現在で全国で38万人が待機している状況となっています。

介護保険制度が始まって激変した供給実態

高齢者住宅全体のホーム数としては、いわゆる介護保険3施設(介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設(療養病床))が非常に多いのですが、グループホームもホーム数では同じくらいあります。ただグループホームの利用者数はだいたい5人~18人単位という規模ですから、利用者数でいうと圧倒的に3施設が多くなります。特養が40万人、老健が30万人、それに対してグループホームが12万人になっています。療養病床はこの2年間で明らかに減り続けているという状況になっています。

2000年から介護保険が始まり、商品(高齢者住宅)がどう変わってきたかというと、2000年以前は高齢者住宅の3/4が自立者向けでした。しかし、2000年以降は供給された約9割が要介護者向けに変わり、今はトータルで3/4が要介護者向け、1/4が自立者向けというシェアになっています。

有料老人ホームだけでみると、介護保険施行前は年間だいたい2,000戸くらいしか供給されず、しかもそのほとんどは自立者向けのものでした。介護保険ができてからは、要介護者向けのものが中心になり28,000戸くらいという急激な伸びを示しました。しかし、平成18年度から総量規制が始まったことにより、この数がかなり下がるのではないかと思っています。

入居金については、要介護者向けの入居一時金がだいたい500万円ラインだったのが、介護保険が始まってからぐっと下がったのですが、今年になってから上昇し自立者向けは高めのものが増えてきています。家賃や管理費、食費を入れた月額の費用も、要介護者向けは介護保険が始まる以前は約20万円、始まってからはだいたい15万に下がっています。自立者向けは13万くらいだったものが15万くらいになり、両方とも同じくらいの費用となりました。介護保険が導入されたので介護コストが軽減され、要介護者向けの費用が下がったと思われます。

ニーズに逆行している総量規制

有料老人ホームをとりまく環境もいろいろ変化しましたが、最近の傾向としては、価格が安くなっている、ブランドを展開している、M&Aが顕著になっているということがあげられます。また、再開発がらみの案件が非常に増えています。問題は総量規制ですね。

総量規制というのはいわゆる三位一体改革に始まっています。介護保険の都道府県負担が従来は3施設で12.5%だったのが、特定施設とグループホームもその対象に加えて5%増え、17.5%になりました。その替わり、計画値をオーバーした特定施設の拒否権限は都道府県(30戸未満の小さい規模は市町村)が持つことになりました。特定施設やグループホームの開設希望が出された場合、実際に介護保険の運営をする自治体は自分たちが決めた一定の数字以上の指定はしないというのが総量規制です。

自立高齢者がある市や町から移転し、転入した住所で要介護になった場合は住所地特例は使えません。住所地特例というのは、他の市町村で要介護認定を受け、移転して違う市町村の施設に入った場合は前住地の市町村が介護保険の負担をするというものです。つまり転入した時には自立の状態だったが、将来そこで要介護状態になったら、その市町村が介護保険を負担しなくてはいけなくなるのです。ですから自立の高齢者をたくさん集めると、結果的に将来、介護保険料の高騰につながりかねません。それを避けるために規制するわけです。
さらにその背景として、厚労省は第3回介護保険事業計画策定にあたって、10年後の平成26年までに3施設+特定施設とグループホームの、利用者数一割削減目標を打ち出しました。当時、要介護2以上の人は210万人いて、3施設+特定施設とグループホームを使っていた人が87万人、41%いました。これを37%に抑えたいというのが厚労省のねらいです。

最初に述べたように75歳以上人口が毎年50万人ずつ増えるという背景を持っていて、必要に応じて年々居住系施設・居住系サービスを作ってきたわけです。それが7万戸を超えたところで減少しはじめています。しかし、すでに平成16年の段階で特養の待機者が38万人と発表されたわけですから、当時でも基本的には不足していたにもかかわらず、総量規制がきいてきているというのが現状です。

保険者である市町村はサービスを提供しなければならない義務があるにもかかわらず、それを果たせない状況なのです。介護難民という言葉がありますが、要介護施設に入りたくても入れない、サービスを受けたくても受けられない、そういうことがこれからかなり社会問題化してくると思います。

自治体は競争原理を排除してはならない

長期政策的なことを言いますと、その一つとして、私は総量規制は廃止すべきだと思っています。有料老人ホームがどういうふうに変わってきたかというと、それはまさに競争があったから価格が下がり、居室面積が広がり、良いサービスをしていけばお客さんが入ってくるということがあって現在の経過をたどってきているのです。総量規制で締めるということは競争をおこさないということです。競争原理を導入しなければ悪いホームが滞るでしょう。今よりも年々悪くなっていくということになってはいけないわけですから、自治体は競争をさせることを考えていくべきであって、競争の中に有料老人ホームも入ってくるし、特定施設の指定をとって介護保険料をとる事業者の安定もそこから出てくると思います。

もう一つは、施設から住宅への転換です。施設というのはサービスがパターン化するものと考えることができます。たとえば、食事の時間は何時で、何のメニューが出るかなどが決められています。一方、自宅の場合は何も制約がないですね。たとえば起きる時間や食べるものも自分で決めます。朝起きて、今日は何をしようかということを自分で決める。そういった自己決定があって初めて人間が暮らしていく意欲が出てくるのであって、決められたとおりにしなさいといったらだんだん意欲が減っていくのです。介護を受ける側が、与えられるものだけ受けるのと、今日は何をしていこうと自己決定をしていくのとでは、明らかに「介護量」が変わってきます。

北欧でそういう検証をしているわけです。要は施設で決められた生活をするのを住宅に切り替えることによって「介護パワー」「介護量」そのものが減り、介護費が削減できるという結果につながった。その上、生活する本人の生活意欲がかなり出てきたという結果が出ています。

本来は日本もその方向に進んでいくと私は思っていますし、原動力は団塊の世代の人たちだと思っています。団塊の世代の人たちがそこに直面すると、たぶん相部屋などは誰も選択しないでしょうし、様々な面で今とは明らかに異質なものが求められると思います。つまり施設から住宅への転換ということになると思います。施設から住宅に転換するということで結果的にコストが削減されていくでしょうし、介護保険財政そのものに大きなインパクトを与えてくれると思います。そういう見直しがこれから出てくると思います。

高齢者(障害者)住宅法の整備が急務

今回の改正で、高齢者専用賃貸住宅(以下、高専賃)という新しい制度ができました。高齢者向け優良賃貸住宅は25㎡の専有面積があり、バリアフリーであることなどの条件がついています。しかし高専賃には、ハードの質に関してある一定の質を担保するといった条件はなにもありません。高齢者を住まわせて、賃貸借契約を締結すれば登録するだけで高専賃になれます。内容がどうであれその内容を登録さえすればいいというものですから、これはとても大きな問題です。

そういういろいろな問題を含めて、障害者を含む高齢者住宅法を作る必要があると私は思っています。高齢者住宅の場合、今は3施設と居住系施設、自宅と分けていますが、要は高齢者のための住まいという意味合いで「高齢者住宅法」という大きなくくりを作る必要があると思います。

対象の施設はすべてにわたって年間どれだけの整備量を出していけばいいのか、きちんと法律に基づいて整備していく。入居対象者、居住水準を作っていく。月額家賃はどういう位置づけになるのか、一時金などもきちんと法律で整備をしていく。有料の届出に準じて、届出制として行政がいつでも内容を把握できるようにしておく。終身建物賃貸借という契約形態のものを導入できるものは、積極的に導入していったほうがいいと思います。そこに住む人のためのサービスはどういうものが提供されるのかなど、一連の法律としてきちんと整備していく必要があると思っています。

田村 明孝 氏
【略歴】

1974年、専修大学商学部卒業後、ケア付き高齢者住宅開発会社に入社。神奈川県横浜市にケア付き高齢者住宅等の開発を企画担当。87年、 (株)タムラ企画(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立。現在に至る。
高齢者住宅の事業計画立案及び実施・運営・入居者募集等、一連の実務に精通したコンサルタントとして活躍。市町村の介護保険事業計画などの福祉計画策定をはじめ、老人福祉施設や民間ホームの開設コンサルや経営改善コンサルを行なっている。
「高齢者住宅開設支援センター」 2000年4月開設
「高齢者住宅入居相談センター」 2001年1月開設
【主な著書】
「中堅層向け価格 有料老人ホーム」 (株)アーバンプロデュース出版部 '93年
「高齢者住宅の10年の歩み」入居実態調査レポート '97年
「高齢者住宅の新潮流」 月刊誌「シルバーウェルビジネス」8回連載 '97年
「高齢者向けケア付住宅開発資料集」 綜合ユニコム(株) 共著 '98年
「グループホーム・高齢者住宅開設・運営マニュアル」 日経BP社 '00年
「詳報介護保険ビジネスガイド2001」レポート 日経BP社 '01年
「高齢者住宅の新潮流」 隔月誌「財団ニュース」連載(財)高齢者住宅財団 '01年~
「変わる高齢者住宅」週間発行シルバー新報17回連載 '03年    
「高齢者住宅における終身利用権の可能性と問題点」日本マンション学界'03年
「高齢者の住まい」の良質化に向けて 病院建築 No140 '03年
「高齢者住宅・施設徹底ガイド」 不動産流通研究所 出版 監修 '04年
「こういうところでケアしてほしい」 日経BP企画 発行 監修 '04年
「絶対に失敗しない高齢者住宅の選び方」 河出書房 出版 監修 '05年
「拡大するシニアリビングマーケット」レポート日経BP社Vol 1・2・3 '05 '06 '07年
「介護経営白書」レポート05年版・06年版・07年版 ヘルスケア総合政策研究所'05 '06 '07年
「月刊誌シニアビジネスマーケット別冊」レポート綜合ユニコム '05'06年
【委員の委嘱(最近)】
山梨県住宅供給公社    経営政策懇談会 委員    '00年度
千葉県柏市    介護保険運営協議会 委員    '00年度 ~'02年度
千葉県柏市    介護サービスの質向上検討部会 部会長    '01年度
(財)高齢者住宅財団    高齢者住宅の実態に関する調査委員会 委員    '01年度
(財)高齢者住宅財団    安心ハウス構想に関するビジネスモデルの構築 委員    '01・ '02年度
(財)高齢者住宅財団    高齢者の多様な居住形態に向けた調査 委員    '02年度
神戸市    高齢者住宅市場における住宅政策検討 委員    '02年度
(財)高齢者住宅財団    特定施設見直しに関する調査 委員    '03年度
神戸市    高齢者向け住宅施設に関する情報提供 委員    '03年度
同    '04年度
(財)高齢者住宅財団    「介護を受けながら住み続ける住まいのあり方」研究会    '04年度
(財)高齢者住宅財団    「高齢者居住施設における一時金保全措置に関する検討委員会」(厚生労働省)委員    '05年度
(独立)国民生活センター    「有料老人ホームをめぐる消費者問題に関する調査研究」委員    '05年度
千葉県柏市    介護保険運営協議会 委員    '06年度 ~'08年度
日本生活協同組合連合会    「居住系サービスの調査研究のための委員会」 委員    '07年度
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