今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第145回 2015/05

新人指導は先輩の成長記録。輝く看護師の育て方(前編)

臨床の場で期待に胸を膨らませ、未来の“デキる”看護師を目指す新人看護師。その成長をサポートするため、多くの病院は新人研修が行われています。短期間で一人前へと育てる必要があり、指導担当の看護師に負担が集中してしまいがちなことも問題視されています。病棟全体で新人を育てていくためには、どのような体制を整えることが必要なのでしょうか。 厚生労働省の新人看護職員研修ガイドラインの改訂にも携わる、済生会横浜市東部病院の熊谷看護部長にお話を伺いました。

恩賜財団 済生会横浜市東部病院
副院長 兼 看護部長
熊谷 雅美 氏

恩賜財団 済生会横浜市東部病院

知識や技術を“看護”に変える

一般企業では、現在人材育成に非常に力を入れていると思います。「組織は人材」です。人材育成の一環として新人研修を重視する企業が多いことは当然といえるでしょう。
 
看護の現場でも、新人育成が重視されるのは同様です。30年以上前から、看護師の新人教育はどこの病院でも行われていました。新人看護師は学生時代に看護の知識や技術を豊かに身に付け、国家試験という難関を突破して看護師になっていますしかし、日々変化し続ける医療や看護の現場に臨機応変に対応するためには、学校で習得した知識や技術だけでは充足ではない部分もあるでしょう。
 
新人がもつ技術を臨床現場の状況へ対応できるように育てることが新人研修のひとつの役割です。看護師たちは先輩からOJT(※)を通して少しずつ臨床での看護を身に付けてきました。しかし、その過程にはいくつかの問題が起きており、そのひとつが指導看護師のバーンアウトでした。指導の責任が指導者ひとりに集中し、大きな負担がかかってしまっていたのです。
 
私たちが技術を伝承していくのは、極端なことを言いますと、100年後、200年後も変わらず“看護”が存在し続けるためです。伝承することができなければ、“看護”が消失してしまいます。そうならないためにも、組織全体で“看護”を先輩から後輩へ、つないでいく方法を模索し続ける必要があるのです。
 
※ OJT
On-the-Job Training オン・ザ・ジョブ・トレーニング。実務の中で学んでいく職員のトレーニング方法のこと。

ガイドラインの制定により学習レベルを均一化

平成22年4月、厚生労働省による研修のガイドラインが全国の病院に対して策定され、新人看護職員の研修実施が努力義務となりました。私はそのガイドラインの策定や改訂を行う委員会メンバーのひとりです。平成26年2月にはガイドラインが改訂され、基礎教育の到達ポイントの調整が行われました。そして平成26年4月からは、新しいガイドラインにのっとった新人指導が各病院ではじめられています。常に変わり続ける看護の現場に即したガイドラインであるために、今後も3~4年ごとに見直しを行い、より良い指導方法を追究する予定です。
 
ガイドラインを制定した最も大きな理由のひとつは、新人看護師がどの病院でも、ほぼ同レベルの新人研修を受けることができるようにするためです。ある病院で経験を積んだ看護師が、別の病院に異勤した場合でも、新しい病院でスムーズに働けるよう、一定レベルの学習が必要です。とはいえ、例えば当院のような総合病院と精神科単科の病院では、優先的に身に付けるべき看護が異なることもあるでしょう。そのため、各病院ではそのガイドラインを元に、それぞれの病院や病棟ごとに、まず何を学び、身に付けていくべきか、特徴に合わせて指導方針をカスタマイズしながら研修を進めています。
 
もうひとつのガイドラインの特徴は、新人への教育方法と新人を教える指導者に対する教育方法の2部構成からなる点です。指導者を育成し、また指導者だけに責任を負わせるのではなく、病棟、ひいては病院全体でサポートすることの重要性が述べられています。

指導者に責任が集中しない育成体制づくり

新人研修の方法は、いくつか種類がありますが、当院では新人に指導者が1対1でつくプリセプター制度を導入しています。新人指導の最終責任を担うのは看護師長です。新人に直接指導を行うプリセプターは、経験3年目程度の看護師が担当するという教育体制が基本となっています。
 
しかし、プリセプターは何か困ったことがあった時も、ベテランの主任に直接相談しに行くのに躊躇してしまうことがあるようでした。そのため、当院では主任とプリセプターの間に教育サポーターを設けました。サポーターはプリセプターの経験がある5年目程度のナースが担当します。プリセプターに経過を聞いたりアドバイスをしたり、新人の記録を確認したりして、最終的にプリセプターとともに新人の評価をするのがサポーターの役割です。かつての自身の経験から、どのような点に指導のポイントをおけばいいのかをアドバイスできますし、普段の業務でもプリセプターから近しく相談しやすいというメリットがあります。

このように、看護師長からプリセプター、そして新人本人まで、連携しやすい体系づくりを行いました。


後編では、新人とプリセプターを病棟全体で支えるための、具体的な工夫などについてお話いただきます。
新人指導は先輩の成長記録。輝く看護師の育て方(後編)はこちら
 

恩賜財団 済生会横浜市東部病院
副院長 兼 看護部長
熊谷 雅美 氏

【略歴】
済生会神奈川県病院での臨床経験後、看護基礎教育や衛生行政などを経験。2003年済生会神奈川県病院看護部長。2006年済生会横浜市東部病院看護部長。2007年同院副院長兼看護部長。
2003年横浜国立大学大学院教育研究科学校教育臨床修了(教育学修士)、2013年東京医療保健大学大学院医療保健学研究科修了(看護マネジメント学修士) 2013年認定看護管理者
2009年~厚生労働省 新人看護職員研修に関する検討会委員
2010年~厚生労働省 医道審議会委員
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