今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第145回 2015/05

新人指導は先輩の成長記録。輝く看護師の育て方(後編)

臨床の場で期待に胸を膨らませ、未来の“デキる”看護師を目指す新人看護師。その成長をサポートするため、多くの病院は新人研修が行われています。短期間で一人前へと育てる必要があり、指導担当の看護師に負担が集中してしまいがちなことも問題視されています。病棟全体で新人を育てていくためには、どのような体制を整えることが必要なのでしょうか。 厚生労働省の新人看護職員研修ガイドラインの改訂にも携わる、済生会横浜市東部病院の熊谷看護部長にお話を伺いました。

恩賜財団 済生会横浜市東部病院
副院長 兼 看護部長
熊谷 雅美 氏

恩賜財団 済生会横浜市東部病院

病棟全体で新人を見守り成長を可視化する

前編はこちら『新人指導は先輩の成長記録。輝く看護師の育て方

ガイドラインができる以前、指導者に責任が集中していた頃には、新人教育は新人とプリセプター間でのみ完結し、どのような指導が行われているのかほかの看護師は知ることがあまりありませんでした。しかし、新人看護職員研修ガイドラインが策定されたことにより、どのように指導すべきか、誰でも指導内容を知ることができ、同時に、病棟全体で新人の成長を共有する必要が出てきました。
後編では、当院で実施している新人教育の事例を詳しくご紹介します。
 
当院で行っている新人教育におけるひとつ目の工夫は、病棟内で新人の成長記録を共有することです。各病棟により、手段は異なりますが、さまざまな方法で共有をしています。
例えばある病棟では、新人の成長ノートを作成しています。指導者が新人にどのように教育し、新人はどのようなことを覚えたのか、また現在の課題点は何かなどをノートに記録し、それを他の看護師や師長に見える化し、教育の状況を共有します。ほかの病棟では、模造紙で業務の到達シートをつくり、休憩室に誰もが新人の成長を見られるようにしています。
 
新人教育で何が行われているかを可視化し、病棟全体に関心をもたせるものであれば、この2例にとどまらず方法は何でもかまいません。無関心はプリセプターを孤独にします。「いつも指導お疲れ様」「新人さん、今日はよくやっていたよ」など、新人の働きをプリセプターにフィードバックすることで、病棟全体が新人教育に関わる環境をつくります。ひとりで指導をしているわけではないということが、プリセプターの負担の分散につながるのです。

指導者の感情に隠されていては新人の課題は見えてこない

ふたつ目の工夫は、プリセプター同士で新人が抱える課題点を共有することです。
各病棟のプリセプター同士で数人のチームをつくり、自身の教育の状況をナラティブに語る機会を設けます。はじめの半年は1ヵ月に1度程度の頻度で開催し、教育において現在自分が困っていることを自由に発言してもらい、各所でどのような課題が発生しているのかを共有します。
 
ここで大切なことは、現在起きている問題について他人と語り合うことで、プリセプター自身の目線ではなく、客観的な目線で課題を考えるということです。指導者が指導をする際、うまくいかなければ怒りやつらさ、スムーズに進めば喜びなどの感情を抱くことがあるでしょう。しかし、それらの感情は新人が抱える課題を見えにくくします。そのため、感情を取り払い、クリアになった状態で新人の行動を見つめ直すために皆で話し合う機会をつくったのです。
 
例えば、「指導に対し新人のリアクションがなくイライラする」という状況があった場合、プリセプターのイライラに隠されて、新人がどのような課題を抱えているのかが見えなくなってしまいがちです。プリセプターの感情は置いておいて、なぜリアクションがないのかを客観的に考える必要があります。課題が「リアクションをとらないこと」なのであれば、「わからないので返事ができない」「声を掛けるタイミングをつかめていない」などの仮説を立て、どうすれば解決となるのか探っていくのが私たちの新人教育です。
 

フィードバックを通じて新人も指導者も成長していく

新人教育において、私が最も大切だと思うのは、自分の看護がどのような意味をもったのか、自身や他者からフィードバックを受けて理解すること。例えば患者さんから「ありがとう」と言ってもらえた時、「看護をしていてよかった」と思うことがあるでしょう。それを新人に自覚させてあげることがOJTの中でも特に大事なことなのだと思います。指導者に対しても同様です。「あなたの指導はとても素晴らしい」という褒めることば、「指導がんばったね」「大変なこともあるよね」などのねぎらいのことば、「今日新人さんはあの作業ができていたよ、成長したね」などの新人の成長を喜ぶことばなど、周囲の同僚や上司から指導者へのフィードバックを行うことがとても大切です。つまり承認です。さまざまな要因で新人の学習がどうしてもうまく進まない場合もあります。そのような時は、プリセプターの指導のせいでは決してなく、プリセプターが責任を抱える必要ないのだと伝えることが、指導者の心の負担を軽くします。指導を通して、指導者自身も大きく成長していくことでしょう。

看護師長も新人も、看護部長である私も皆同じ看護師。どの役職の看護師も、新人研修で学んだ事柄を反芻しながら看護の意味を理解して、自身の力としてつなげていくことが大事だと思います。個々が成長することで、病棟全体のレベルアップにもつながります。毎日は難しくとも、自身の看護を時々は振り返ってみてはいかがでしょうか。

恩賜財団 済生会横浜市東部病院
副院長 兼 看護部長
熊谷 雅美 氏

【略歴】
済生会神奈川県病院での臨床経験後、看護基礎教育や衛生行政などを経験。2003年済生会神奈川県病院看護部長。2006年済生会横浜市東部病院看護部長。2007年同院副院長兼看護部長。
2003年横浜国立大学大学院教育研究科学校教育臨床修了(教育学修士)、2013年東京医療保健大学大学院医療保健学研究科修了(看護マネジメント学修士) 2013年認定看護管理者
2009年~厚生労働省 新人看護職員研修に関する検討会委員
2010年~厚生労働省 医道審議会委員
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