今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第146回 2015/06

家事未経験からはじめる介護。男性介護者の実態と支援の課題(前編)

夫が妻を、息子が母親をなど、男性が介護を担うケースが増えています。そこで問題となるのが、高齢男性の中にはコーヒー一杯入れたことのない方も多く、ケア以外の面で負担を大きく抱える方が多いということです。慣れない家事と介護、そして仕事を両立するのは難しく、疲れきってしまう男性介護者の例も少なくありません。今月は、男性介護者の現状調査と支援方法を研究する、立命館大学の斎藤 真緒先生にお話をうかがいました。

立命館大学 産業社会学部 現代社会学科 准教授
斎藤 真緒 氏

立命館大学

男性の介護者をとらえた調査研究

家族介護の担い手は、高齢者が高齢者を介護(老老介護)したり、遠隔地に住む家族を介護したりと非常に多様化してきています。その中で、私たち立命館大学の研究グループは、「男性の介護者」に着目して調査研究を進めています。
 
私たちは、2006年に男性介護者の実態調査に着手しました。当時、京都で男性介護者が認知症の母親と無理心中を図る事件があり、その裁判を傍聴したことが研究の出発点となりました。現在、介護者の男女比は3:7と圧倒的に女性が介護を担うケースが多いです。しかし、高齢者虐待の加害者の約6割、介護殺人の約7割が男性と、暴力事件を引き起こすのは、男性の方が多くなっています。なぜ、これらの事件が起きてしまうのか……。それを明らかにするには、男性介護者の実態を知ることが必要でした。
 
先行研究として過去の調査を調べるうちに、行政による全国調査は女性が介護をすることが前提となった調査が多いことに気がつきました。例えば、介護中の方の課題を聞く設問の中に「家事に困っている」という選択肢自体がありません。つまり、現在の介護保険サービスは「介護者は家事ができる」ことを前提につくられていると予想されます。これは、多くの男性介護者にとって大きなハンデとなります。また女性にも言えることですが、近年、老老介護が増える中、高齢になると身体能力が低下し、家事を行うのが難しくなってくるという懸念点もあります。

ストレスと孤立が悲劇の種を生む

私たち研究グループが2006年に行った調査では、300人弱の男性介護者の生の声を収集できました。回答者の多くは定年退職後の高齢男性で、家事に関する悩みが非常に多かったことが特徴的でした。「料理を作ったことがない」「買い物に行ったことがない」「コーヒー一杯でさえ淹れたことがない」など、何気ない家事にさえ困っている様子でした。例えば、糖尿病の方を介護する場合、食事療法を念頭において献立を組み立て、さらにそれを調理するという2ステップを行わなければなりません。これらの家事やケアは、家事未経験の男性にとって非常に難易度が高く、大きなストレスがかかってしまうのです。
その他、女性の排泄や入浴介助、下着の洗濯などに対し、男性には大きな抵抗があるようです。
 
また、男性に限ったことではありませんが、働き世代の有職者にとって、仕事と介護の両立が難しいのも大きな課題です。現在、介護をしながら働いている人は約291万人と言われています。育児とは異なり、介護は時間の経過とともにケアの負担が大きくなりがちです。また、長期化しやすく終わりが見えないため、見通しが立てられず、介護休暇の制度が整っていたとしても、仕事を辞めなければならなかったり、復職できないケースも少なくありません。
 
さらに、男性介護者は「介護がつらい」という感情をあまり表にすることができず、知り合いや介護従事者に助けを求めることができないケースが多いようです。他人に相談することも、理解されることもなく、孤立した介護者が、要介護者への暴力に逃げてしまうことが多いのではないかと思います。

マイノリティな男性介護者同士をつなぐネットワークの誕生

追い詰められた介護者による殺人事件もあるように、介護者がひとりで背負い込みすぎて、介護者と要介護者が共倒れしてしまうことも少なくないでしょう。家族介護を継続させるためにも、社会サービスを使い要介護者、介護者の両者の負担を減らすことはとても大切です。
 
その取り組みの一つとして、私たち研究グループが発起人となり、2009年「男性介護者と支援者の全国ネットワーク(通称:男性介護ネット)」を立ち上げました。男性介護者ならではの悩みを相談し合ったり、男性介護者同士のつながりをもてる場所をつくることを目的としたネットワークです。解決方法をみなで考える場としてだけではなく、介護の情報提供の場としての機能も有しています。上記でご紹介した2009年の調査もこのネットワークを通じて行ったものです。
 
後編では、「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」の取り組みなどについて詳しく解説していきます。

立命館大学 産業社会学部 現代社会学科 准教授
思春期保健相談士
専門:家族社会学
斎藤 真緒 氏

【略歴】
2001年 立命館大学応用人間科学研究科博士課程前期課程修了
2002年 立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー
2005年 立命館大学産業社会学部助教授
2007年 立命館大学産業社会学部准教授
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