今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第146回 2015/06

家事未経験からはじめる介護。男性介護者の実態と支援の課題(後編)

夫が妻を、息子が母親をなど、男性が介護を担うケースが増えています。そこで問題となるのが、高齢男性の中にはコーヒー一杯入れたことのない方も多く、ケア以外の面で負担を大きく抱える方が多いということです。慣れない家事と介護、そして仕事を両立するのは難しく、疲れきってしまう男性介護者の例も少なくありません。今月は、男性介護者の現状調査と支援方法を研究する、立命館大学の斎藤 真緒先生にお話をうかがいました。

立命館大学 産業社会学部 現代社会学科 准教授
斎藤 真緒 氏

立命館大学

男性が参画しやすい介護コミュニティづくり

前編はこちらから
『家事未経験からはじめる介護。男性介護者の実態と支援の課題』


男性介護ネットでは、それぞれの地域で「男性介護者の集い」を開催し、経験を共有できる場づくりを推奨してきました。
 
ネットワークができる以前から介護者同士の交流会を開催する地域はありましたが、それらの参加者は主に女性でした。そのため、男性がその会に参加し、悩みを打ち明けるということはなかなか難しい面があったのです。
 
この集いを全国各地に広げていく取り組みで興味深いのは、当事者や専門職、地域包括支援センターや謝意福祉協議会といった福祉分野の機関だけではなく、自治体によっては男女協同参画の担当部署の協力を得られた点です。これまで男女協同参画の取り組みは、女性に対する支援が主でした。実は男性介護ネットの発足当時には、「男女協同参画が進められているにも関わらず、なぜ男性のみを支援するのか」という批判もありました。そのような中、各自治体が男性の支援に協力してくれたということは、男女ともに介護を担う時代のはじまりという意味でも非常に大きな一歩だったと感じています。
 

介護経験の共有が心の負担を軽くする

2012年からは「介護退職ゼロ作戦」を開始し、介護と仕事の両立に特化したシンポジウムやワークショップを定期的に開催し、社会に向けた提言も行っています。また、新しい動きとしては、「介護しながら働き続けられる京都をめざすプラットフォーム」の設立があります。企業向けの研修・相談およびケアマネジャー向けの研修を行う予定となっています。こうした取り組みが広がっていくことで、介護と仕事の両立がしやすくなると考えられます。
 
そして2015年5月、男性介護ネットの会員は600人を越えています。100以上の地域で「男性介護者の集い」が開催され、男性同士で介護について語り合える場がとても増えてきたと感じています。自分のことを話すのは苦手な方でも、まず勉強だと思って来ていただければと思います。他の参加者の話を聞いて、自分の介護に活かせる知識を手に入れていただくだけでも、心の負担が少し軽くなることでしょう。
 
しかし、集いの場所や回数を増やしても、仕事をもつ男性介護者の場合、時間的な理由で参加できない方もいますし、そもそもコミュニティへの参加意向がない方もいます。そのような方の中にも、仕事・介護・家事などに困っている方がまだまだたくさんいると考えられます。彼らへのアプローチも、私たちの今後の課題と言えるでしょう。

「介護は家族が担うべき」に隠れたSOSを取りこぼさない

家族介護は今、非常に多様化してきています。男性介護者の調査を通じて、さまざまな困難を皆さんが抱えていることが明らかになってきました。しかし、抱える困難に対し適切にSOSを発信することができない介護者も少なくありません。特に男性の場合はその傾向が顕著です。
 
医療機関にも介護施設にも、「要介護者の家族が介護するべきだ」「家族には踏み入れてはいけない領域がある」という家族規範が残念ながら残っています。
なぜ家族規範が問題になるかというと、「家族の問題だから」「家族なのに(なぜできないの?)」と専門職が家族介護への介入を避けてしまうと、介護者の潜在的なSOSをキャッチできない場合があるからです。すると、次のSOSも発しづらくなり、介護者はますます追い詰められてしまうでしょう。そうならないためにも、「家族だからこそできない」こともあると理解して家族を閉塞的にせず、専門職である医療・介護従事者の側から「介護サービスをもっと利用してほしい」「ストレスは吐き出していい」と働きかけをすることがとても大事です。
 
男性に特化した支援を考えることはとても大切です。しかし、これからは性別や年齢にかかわらず、介護者への全体の支援に目を向けていかなくてはなりません。仕事との両立や介護保険サービスでの家族支援などの制度を更新し、個々の生活環境に即した支援を展開していくことが必要だと感じています。

立命館大学 産業社会学部 現代社会学科 准教授
思春期保健相談士
専門:家族社会学
斎藤 真緒 氏

【略歴】
2001年 立命館大学応用人間科学研究科博士課程前期課程修了
2002年 立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー
2005年 立命館大学産業社会学部助教授
2007年 立命館大学産業社会学部准教授
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