今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第147回 2015/07

梅雨明け直後が最も危険。熱中症の重症化を防ぐ救命救急の今(前編)

気象庁によると、2015年夏の気温はほぼ平年並み、全国的に猛暑となる見込みで、今年も多くの熱中症患者が発生することが予測されます。熱中症の救急搬送が最も多くなるのは、梅雨明けすぐの昼夜ともに気温が高くなる時期です。高齢者や慢性疾患を抱える方や、その周りのご家族や医療・介護従事者にとってその時期は特に注意が必要です。救急現場での熱中症治療の現在について、昭和大学病院 教授・救命救急センター長 三宅 康史氏にお話を伺いました。

昭和大学病院
教授・救命救急センター長
三宅 康史 氏

昭和大学病院
昭和大学病院救命救急センター

熱中症は重症度によっては命を落とす病気

私が委員長を務める日本救急医学会の「熱中症に関する委員会」では、熱中症で救急搬送された患者さんのデータを隔年で収集しています(※)。そのデータをもとに、熱中症の発生条件や重症化の因子、発生時期などを分析しています。
 
2012年の調査では、熱中症で救急搬送された2,130名分のデータを103の医療施設から回収しました。このデータを分析したところ、重症度の軽重に関わらず、多くの患者さんが病院に運び込まれてから1~3日の間に治療が終わり、帰宅していることがわかりました。
一方、お亡くなりになる時は、運び込まれた当日に死亡するケースが最も多いというデータが出ています。このようなケースの場合、倒れて搬送される頃には、すでに治療が困難な状態まで循環器や中枢神経に致命的なダメージを受けていることが多いのです。つまり、熱中症はある一定のレベルまでであれば助かり軽症で済む確率が高く、一線を越えてしまうと治療もむなしく致死的な病気だということが、調査結果にあって裏付けられています。
 
※データの詳細は、日本救急医学会『熱中症の実態調査−日本救急医学会Heatstroke STUDY2012最終報告』を参照ください。
 

重度の熱中症患者のうち、約10%に後遺症

熱中症の重症度はⅠ~Ⅲ度の三段階に分類されます。先述のデータによると、最も重症度の高い「Ⅲ度熱中症」と診断され、生存された方のうち、10%程度の割合で後遺症が残り、そのほとんどが中枢神経障害だとされています。脳はコンピュータと同じく熱に弱い器官で、長時間熱を受けると誤作動、つまり熱中症の症状を起こします。熱中症の症状のうち、めまいや失神、意識障害などは、この脳への影響で引き起こされるものです。
 
脳が熱によるダメージを受ける状態が長く続くと、中枢神経が損傷し、例えば、嚥下障害などの小脳失調や、認知障害をはじめとする高次脳機能障害、手足のマヒなどの後遺症が残る可能性があります。特に後遺症のリスクが高いのは、高齢者やショックを来した方、心拍数が140回/分を超える方、体温が40度を超える方、意識がなく昏睡している方などです。

救命救急の現場で用いられる最新の熱中症治療法

救命救急センターを置く当院にも、毎年多くの熱中症患者が搬送されてきます。
熱中症患者の症状は、熱によるダメージと脱水状態のふたつが重なって起こります。ですから、治療法は端的に言えば、「冷やす」「水分を補給する」の二点です。重症患者に対する処置も、一般的に応急処置として知られているように、太い血管を冷やし、体内を巡る血液から全身を冷やすことと、点滴もしくは経口から水分を補給することが基本です。
 
医療機関では冷却マットや氷のうなどでの冷却のほか、全身を冷却するために大掛かりな方法が用いられることもあります。そのひとつは、氷水を張った小さなプールや水槽の上に患者を横たわらせ、身体にじゃぶじゃぶと水をかけ、大きな扇風機で風を当てて冷やす方法です。ただ、この方法ですと体温が平熱以下まで下がりすぎてしまう危険がありました。
 
そこで新しく一部の病院で導入された方法が、腿と胸、背中などの血流の多い部分にジェルパッドを貼り、機械で冷やす方法です。機械で体温をコントロールできるため、患者の負担が少ない上、体温が下がりすぎてしまうということはありません。
また、身体の内部から冷却する方法もあります。太い静脈内部にカテーテルを通し、その表面につけたバルーンの中に冷やした生理食塩水を流し、血液そのものを直接冷やす方法です。
 
カテーテルを用いた新しい冷却方法は、高体温を呈する重症患者に適応され、保険の適用も認められるようになりました。これらの方法はまだ症例数が少なく、有効性の検討まで至る段階ではありませんが、今後検討が進めば導入する病院も増えてくるでしょう。
 
重症度が高い場合は特に、循環器の異常や感染症の発症など、二次的な異常にも注意が必要です。熱中症の方は食欲がなく、低栄養で体が弱っている場合がほとんどです。そのため、入院治療中に床ずれや褥瘡、細菌感染などを引き起こし、症状が熱中症に留まらず複合的になるケースが少なくありません。それを防ぐためにも、医療機関では熱中症の治療とともに、栄養状態の改善や細菌感染の治療などを合わせて行わなければならないのです。
 


熱中症は軽傷であれば、治療も軽く入院せずに済みますし、特に問題なく回復するケースがほとんどです。加えて熱中症は予防できる病気で、最大の予防法は「暑くない場所にいる」と非常に簡潔です。涼しくしていれば熱中症になることはありません。本人や周りの人々が気を付けてさえいれば、予防できたり軽症で済ませることができる病気なのです。
 
後編では、医療・介護従事者が知っておくべき熱中症の特徴についてご紹介します。

昭和大学病院
教授・救命救急センター長
三宅 康史氏

【略歴】
1985年 東京医科歯科大学卒業
東大附属病院救急部にて初期研修、その後公立昭和病院、昭和大学病院、さいたま赤十字病院で救命救急・集中治療に従事
2003年 昭和大学病院救命救急センター勤務
2012年 昭和大学医学部救急医学講座教授・昭和大学病院救命救急センター長

【資格】
・日本救急医学会認定指導医・専門医
・日本脳神経外科学会専門医
・日本集中治療医学会専門医
・日本外傷学会専門医
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