今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第147回 2015/07

梅雨明け直後が最も危険。熱中症の重症化を防ぐ救命救急の今(後編)

気象庁によると、2015年夏の気温はほぼ平年並み、全国的に猛暑となる見込みで、今年も多くの熱中症患者が発生することが予測されます。熱中症の救急搬送が最も多くなるのは、梅雨明けすぐの昼夜ともに気温が高くなる時期です。高齢者や慢性疾患を抱える方や、その周りのご家族や医療・介護従事者にとってその時期は特に注意が必要です。救急現場での熱中症治療の現在について、昭和大学病院 教授・救命救急センター長 三宅 康史氏にお話を伺いました。

昭和大学病院
教授・救命救急センター長
三宅 康史 氏

昭和大学病院
昭和大学病院救命救急センター

最も危ないのは梅雨明け直後

前編では、重症度の高い場合の熱中症の処置についてお話してきました。後編では、医療・介護従事者が知っておきたい熱中症の発生時期、かかりやすい人の特徴などについてひとつずつ解説していきましょう。
 
熱中症には、大きく分けて2種類あります。ひとつは、炎天下でスポーツをしたり、屋外作業をしている際に陥る「労作性熱中症」。もうひとつは、高齢者など体力の落ちている方が日常生活を送るなかで発症する「非労作性熱中症」です。
 
救命救急センターに搬送される熱中症患者が急激に増えるのは、実は、梅雨が明けてすぐの7月の下旬頃です。意外に思われるかもしれませんが、最も暑くなる8月頃よりも多いのです。
夜に気温が下がる時期であれば、日中暑さで具合が悪くなっても、夜に体が冷えれば体調が戻るため、非労作性熱中症での救急搬送はほとんどありません(日中の急激な暑さが原因となる労作性熱中症にはなるので注意)。熱中症でお亡くなりになる方も、梅雨明け時期が一番最も多くなります。
 
それでは、なぜ梅雨明け時期に患者が多いのでしょうか。その理由のひとつは、人々の身体がまだ暑さに慣れていない時期に熱波(高温の空気)が押し寄せるとぐっと気温が上がり、夜も気温が下がりにくくなり、体が熱をもつ状態が長く続いて熱中症になる人が増えるためです。8月以降は、はじめの熱波で体調を崩した人やメディアに啓発された方など、熱中症を意識する方が増え対策を講じるため、患者数は梅雨明け直後よりも減る傾向にあります。

高血圧や糖尿病などの方は熱中症になりやすい

熱中症にかかりやすい人として、高齢者や乳幼児がよく挙げられますが、その他持病を持つ方も注意が必要です。いつもと同じように見えても実は熱中症が深刻化していることも多い上、周囲の家族や医療・介護従事者が意識しなければ本人では気付けない場合もあるでしょう。なぜ注意が必要なのかを理解していなければ、最適な予防を行うことができません。熱中症になりやすい方とその要因を疾患別に見ていきましょう。
 
・心疾患、高血圧、心不全など心臓系の持病のある方
心臓は熱くなった血液を体表に運び、血液を循環させて放熱する役割をもちます。しかし、高血圧の方の場合、心臓の力を弱めて血圧を下げる薬を処方されています。循環は心臓の力(血圧)により変化するので、体温を下げる身体のしくみが正常に働かず、熱中症になる可能性があります。
また、水と塩分を体外に排出することで血圧を下げるため、利尿薬を飲んでいる患者さんもいます。熱中症対策にとても大事な水と塩分が尿として排出されてしまうため、熱中症になりやすいのです。
 
・糖尿病の方
高血糖の方は脱水になりやすいほか、感染症にも弱いため重症化の可能性が高いです。また、感覚が鈍く暑さを感じにくい方もいます。
 
・膝や腰が悪く、外出の少ない方
外出が少なく、暑さ慣れしていないので、注意が必要です。また、地域の方と触れ合う機会が少ないため、症状がでていても発見されづらいでしょう。脳卒中の後遺症の場合も同じことが当てはまります。
 
・精神疾患の方
人づきあいが少なく、症状がでていても発見されづらいでしょう。また、処方される医薬品の中には発汗抑制の作用があるものもあり、体温調整がうまくいかない場合もあります。
 
・認知症の方
暑さを感じず、怖がらないため、本人や周囲が気付かないうちに危険な状態にある場合があります。
 
ご家庭でも病棟や介護の現場でも、こうした持病のある方は熱中症リスクが高いと認識し、周囲の人が注意を払って予防することが大切です。医師と相談して、医薬品の使い方を検討するなど、期間中どのように対応できるのかを考えましょう。

軽度の熱中症で抑えられるよう、まずは予防を

日本医師会による熱中症受診患者数のデータの年次比較を見ると、温暖化や高齢化して重症者が増えてもおかしくない状況にもかかわらず、入院率は徐々に低下しています。受診者数は気温に連動して上下しているため、入院率の低下は単純に軽症患者が増えたということを示します。これは、熱中症の予防や対処方法の啓発が進み、みなが意識するようになったからだと私は考えます。夏の間は氷を入れた水筒を持ち歩いたり、エアコンを上手に使うなどの対策を行ったりと、一般の方々の意識も変わってきたと感じています。
 
今年も梅雨明け後、熱波がやってくる危険性があります。「非労作性熱中症」の初期症状は「元気がない」「食欲がない」といったいわゆる「夏バテ」症状のため、本人も周りも気が付かず、気付いた時には回復困難なレベルまで陥っているケースが多いのです。室内でも気温が高ければ発症するため、家の中にいるからといって油断できません。ご家族や医療・介護従事者の皆さんが、患者の様子がおかしいことに早く「気づき」、身体を冷やしたり水分補給をさせたり、早めの対処をすることで、熱中症は予防できます。熱中症を正しく理解し、気づきの目を持ち続け、熱中症を防いでいきましょう。

昭和大学病院
教授・救命救急センター長
三宅 康史氏

【略歴】
1985年 東京医科歯科大学卒業
東大附属病院救急部にて初期研修、その後公立昭和病院、昭和大学病院、さいたま赤十字病院で救命救急・集中治療に従事
2003年 昭和大学病院救命救急センター勤務
2012年 昭和大学医学部救急医学講座教授・昭和大学病院救命救急センター長

【資格】
・日本救急医学会認定指導医・専門医
・日本脳神経外科学会専門医
・日本集中治療医学会専門医
・日本外傷学会専門医
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