今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第61回 2008/05

老健こそ日本の社会保障制度における力強い味方

増加することが明らかな障害や疾病を持つ高齢者をしりめに、2011年には廃止される介護療養病床。 それにともない、介護療養型(転換型)老人保健施設の要件、介護報酬が決まりました。 一方、従来からある老人保健施設は制度が発足して20年になります。そこで今回は、老人保健施設の現状や問題点などについて改めてうかがいました。

社団法人 全国老人保健施設協会 会長 / 若草第一病院 名誉院長 / 介護老人保健施設竜間之郷 代表者
川合 秀治 氏

(社)全国老人保健施設協会
若草第一病院

中間施設として誕生した老人保健施設

老人保健施設(以下、老健)は、昭和60年に厚生省(当時)の中間施設に関する懇談会で出された「要介護老人対策の基本的考え方といわゆる中間施設のあり方について」という報告書が基本になって設立されたものです。

その報告書の主な趣旨は、今後、要介護老人の増加が見込まれ、そのニーズも『多様化』することを考えると、医療施設と特別養護老人ホームを中心とする体系(当時)では対応が困難でした。病院は要介護老人の生活の場所としては適当ではなく、また特別養護老人ホームは「措置」の用語で言い表せられているように、『多様化するニーズ』への対応が困難であった。そのように、新たな「多様化」に的確に対応したサービスが量的にも質的にも確保されるような、病院と在宅(特養を含む)の中間的な施設が必要であるというものでした。

実は、『多様なニーズ』ということは昭和60年の段階では一般的には言われておらず、障害者や要介護老人への対応は画一的なサービスでしたから、この報告書はたいへん斬新なものでもありました。
老人保健施設は、この報告書が出された後、診療報酬改正を機に昭和63年(1988年)に誕生しました。そして平成12年4月の介護保険制度導入にともない介護保険が適用されることになり、介護老人保健施設と名称を変えて今日に至っています。

時代が進み、昭和40年代後半から50年代にかけては概念論として『ノーマライゼーション』、その具体的現象として<バリアフリー>。そして今は概念として『共生』が言われ、物理的なもの<ユニバーサルデザイン>に変わってきました。そういう流れが実はニーズの多様化なのです。老健はここに注目してサービスを行なっている施設です。利用者一人ひとりを対象とするケアプランの制度が、特養や病院から始まったものではなく、老健から始まっていることでもそれははっきりわかると思います。

3ヵ月退所やアリセプト神話による誤解

よく、「老健は3ヵ月しか入れないんですよね」と言われる方がいます。最長で6ヵ月で追い出されるなどということも聞きます。いったい、こういう誤解はどこからくるのでしょうか。ひどい場合は役所の相談係もそう思っていることがありますからね。

確かに、老健には入退所判定委員会を3ヵ月ごとに開くという規定があります。判定委員会を開いて、その方が本当に、「在宅」で(自宅に限らずその方の住まいの近くの他施設を含む)やっていけるのか、それとも老健で継続して療養するほうが望ましいのかを判定するわけです。しかし、3ヵ月とか6ヵ月で退所させるなどという決まりはどこにもありません。

ついでに申しますと、最近はアリセプト神話が広まっていて、アリセプトは高い薬なので老健では使ってくれないなどとおっしゃる方がいます。しかし、アリセプトは軽度の認知症の方やレビー小体型認知症には効果がありますが、重度の認知症や3ヵ月以上アリセプトを使っておられる方には効果がないのです。ですからそういう方には使いません。決してアリセプトが高価だから使わないというようなことではなく、あくまで医学的な見地で判断していることなのです。アリセプトのゼネリックができてくれば、多くの方の負担が軽くなるのは確かですが…。
これに限らず、老健に関してはかなりの方が誤解されているようです。私たちの広報活動の不足もあったかもしれませんが、みなさんにきちんと理解していただきたいものです。

老健施設における医療の問題点

老健は診療報酬によってできたもので、まぎれもなく医療施設です。介護保険制度ができてから、報酬が介護保険で支払われているだけなのです。ちなみに全老健の75%は医療法人による設立です。
現在の制度は非常にわかりにくくなっているんですね。ちなみに、介護保険で老健に入所されている方は、健康保険料も支払っておられます。しかし、老健は非常に厳しい医療制度になっていて、利用者は健康保険料を払っていても健康保険は実質的には使えない仕組みになっています。

病院でしたら介護保険が使えないのは当然ですが、老健であれば両方使えるのが当然ではないでしょうか。高齢者は介護だけが必要なのではありません。高齢者だからこそ医療が必要なのです。医療施設である老健に入ったら健康保険が使えない、などという今の制度は本当におかしいですし、一般の方にも理解しがたいのではないでしょうか。

老健施設の医療の範囲やその整理の仕方は、基本的には、老健施設創設時のままになっています。つまり、老健施設の利用者は「日常的な医学的対応(処置、投薬などの医学管理)」のみが必要な者であって、「入所者の病状が著しく変化し、入院による治療が必要とされる時は速やかに協力病院などに入院させる」ことで対応することになっています。

しかし、20年前の標準的な医療と今の標準的な医療とでは格段に変化しています。医学の進歩と国民の医療に対する意識の変化もあいまって、「日常的な医学的対応」の範囲や水準が大きく変わっているのです。

また、利用者の後期高齢者の増加により、容態が急変したり認知症の人が増えたりするなどして、医療を必要とする方が増加しているという問題もあります。現在の制度では、他科受診の範囲が非常に限定的なため、必要な医療を行なえない状態も生じています。
その場しのぎの対応をしてきた結果、わかりにくく、必要な医療が受けられない事態も生じている今の制度は、根本的に見直す必要があると考えています。

急性期リハビリと高齢者障害のリハビリはまったく違う

人間の身体機能は、誕生してから緩やかに放物線を描くように上昇し、22~23歳くらいを頂点にしてなだらかに下がってくるのが普通です。ところが、50~60歳代くらいで脳卒中など何かのエピソードがあると、そこで身体機能ががくんと落ちます。リハビリは、その状態から時間軸を遡って良いほうに戻していくために行なうわけです。しかし、そのがくんと落ちた時点まで戻るかというと、残念ながらそこまでは戻りません。急性期リハビリと、高齢者障害者の維持期リハビリの根本的な違いがここにあります。20代、30代の人が骨折などの治療をした後、リハビリで回復するのとはわけが違うのです。

よくご家族の方が、「病気前のように、自分でトイレに行けるようになったら引き取りたい」ということを言われます。介護力がそんなにないご家族とすれば、そう考えるのも無理はないでしょう。しかし、高齢者は病気やケガをしなくても身体機能は悪くなっていくのです。ですから、あるエピソードを機にがくんと悪くなった人が元の状態に戻るわけがありません。70代、80代の高齢の障害者、疾病者が「良くなる」という概念は、20代、30代のものとは違うのだということを理解していただきたいですね。そして高齢になれば「元に戻らない部分」を、家族内だけで解決することは不可能ですから、『地域で、コミュニティで、みんなで助け合う』思想が是非とも必要です。その<地域>の中核になり得るのは老人保健施設だと考えています。 そうでしょう、医療も福祉も、両方の思想・働きを実践してきたのが老人保健施設だけなんですから。

老健と転換型老健は同一基準で実施すべき

現在、老健の8割以上は夜勤看護をつけています。また、全体の3割以上の老健が看取りを実施しています。それは、夜勤看護をつければ、あるいは看取りをすれば加算があるから、といってやっているのではないのです。天寿を全うしようとしている方を、できればここで看取ってくれないかという利用者のニーズによるものなのです。

夜勤看護を付けたらそれだけ出費が増えますし、看取りをして医師をつきっきりにしたらそれだけ出費が増えるのです。今の老健の制度では本当に経営が圧迫されます。それでも全国の老健が頑張って、夜勤看護や看取りを実施しているのは、ニーズに真摯に対応しているからなのです。

本来なら今の療養費では介護職、看護職の給料は出せません。なぜかというと10年前に比べて、2回も介護報酬の減額があったからです。全国の平均で介護職の給料が20万~30万も下がったと言われています。しかし、全老健の調査では全国の老人保健施設は医師と管理職の給料は下げましたが、看護職と介護職の給料は一切下げていないという結果が出ました。利用者のケアの水準を下げることはできませんし、人材の確保もできなくなるからです。ですから経営が苦しいのです。

健全な経営ができなければ、最終的に利用者にしわ寄せされかねません。転換型老健の創設を機に適用されるという基準は、20年にわたって障害高齢者とそのご家族に、在宅生活へ向けてのサービスを総合的・包括的に提供してきた、今の老健にも共通して適用されるものでなくてはなりません。

中間施設としてスタートしたからこそ、老健は、在宅と施設・病院の長所・短所を両方知っています。その利点をこれからの活動に活かしていくとともに、みなさんに老健を正当に評価していただき、日本の社会保障制度の力強い味方なのだという認識を持っていただきたいなと思っております。そのための努力をしていくつもりです。

川合 秀治 氏
【略歴】

1948年生まれ。'75年、熊本大学医学部卒業。'78年、近畿大学医学部第2外科学講座助手。'83年、医療法人若弘会若草第一病院。'88年、同会若草第二病院竜間病院。'92年、同会老人保健施設竜間之郷施設長。'94年、同会若草第二竜間病院長兼務。'97年、社団法人全国老人保健施設協会理事(医療経済委員会委員長)。'99年、同協会常務理事(医療経済委員会・介護保険制度検討委員会担当)。2001年、同協会常務理事(総務・企画委員会委員長)。2007年より同協会会長。
【所属学会】
日本老年医学会
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