今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第149回 2015/09

正しいデータを集めて事故の再発防止につなげる。 2015年10月「医療事故調査制度」がスタート(後編)

2015年10月1日より施行される医療事故調査制度。2014年に成立した、医療法の改正に盛り込まれた制度です。近年の医療事故の増加を受け、医療の安全と質向上を図ることを目的に、慎重な議論が重ねられてきました。制度成立の背景と詳細、現場への影響について、日本医師会副会長の松原謙二氏にお聞きしました。

日本医師会 副会長
松原 謙二 氏

日本医師会

医療事故調査制度は、事故の原因を見定めるための制度

2015年10月にスタートする「医療事故調査制度」では、死亡事例が発生し、院長など当該医療機関の管理者がそれを「予期されていなかったもの」(次の章で解説)だと判断した場合、当該医療機関は遺族への説明や第三者機関となる医療事故調査・支援センター(以下「センター」)への報告を行ったうえで、事故の詳細を調査する義務が生じます。センターはその調査報告データを収集・分析し再発防止につなげます。
 
何が起こったのかを一番わかっているのは、当該医療機関です。そのため、まず当該医療機関の中で調査委員会を作って調査することを義務付けています。
医療機関には、解剖やAI(死亡時画像診断)などを自施設で実施できる大規模な施設から、それらが困難な小規模施設まであります。小規模施設で問題が起きた場合、医師会が支援団体となって調査委員会の設置や委員長の外部からの招聘に手を貸します。
調査委員会の中には看護職や、病院の業務の流れがわかっている事務職の方に入っていただくのもよいと思います。観点が異なる複数のスタッフで検討して、事故の本当の姿を見つけ出すのです。
ご遺族側も、調査の結果に納得できない場合、センターに再調査を要請できます。また、当該医療機関が十分に調査できなかったという場合も、当該医療機関はセンターに再調査を依頼できます。依頼があれば、センターの専門家が調査し、さらにそれを別の専門家が評価した報告書を、当該医療機関およびご遺族に提出する仕組みになっています。

参考:厚生労働省『医療事故に係る調査の流れ』

死亡または死産が「予期されていなかったもの」とする判断基準

当該医療機関の管理者に調査義務が生じるのは、死亡または死産が予期されていなかったものである場合です。具体的には、以下の事項のいずれにも該当しないと管理者が認めたものです。

1.管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該患者等に対して、当該死亡または死産が予期されていることを説明していたと認めたもの。
2.管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該死亡または死産が予期されていることを診療録その他の文書等に記録していたと認めたもの。
3.管理者が、当該医療の提供に係る医療従事者等からの事情の聴取および医療の安全管理のための委員会(当該委員会を開催している場合に限る)からの意見の聴取を行った上で、当該医療の提供前に、当該医療の提供に係る医療従事者等により、当該死亡または死産が予期されていると認めたもの。

参考:厚生労働省『医療事故調査制度に関するQ&A』

例えば、高齢の糖尿病の患者さんで、手術すれば死亡する確率が極めて高いような場合、患者さんの状況と手術のリスクを丁寧に説明します。上記の事項を見ればわかると思いますが、十分に説明がなされていたかどうかが重要なポイントです。それでも患者さんが手術することを望み、カルテにも説明の経緯が正確に記載されていれば、たとえ予後が悪く亡くなられたとしても調査の対象にはなりません。

担当した医療従事者の意見も報告書に反映

遺族への説明やセンターへの報告の内容は、医療安全のための報告書であることを強調し、担当した医療従事者と管理者の両者が納得したものとすべきで、否定しているものについてはその旨を記載します。管理者の都合のみで報告することがないようにしなければなりません。
「十分な調査が行えなかった」「関係者の意見が食い違う」「目的外で使用されることが明らかな場合」などは報告書として交付せず、センターへ再調査依頼をし、ご遺族にもその旨を説明するにとどめるほうが良いでしょう。
 
私たち医師会は、厚生労働省との最後の制度策定の検討会で、「事故を発生させた医療従事者の意見があったら、ぜひ報告書に添付してほしい」と訴え、省令の通知にその旨を入れてもらいました(http://www.pref.mie.lg.jp/IRYOS/HP/iryosoudan/270508tuuti.pdf)。担当した医療従事者と当該医療機関の管理者の立場は異なります。担当者の意見も聞かないと、福島の事故のように管理者が担当者を盾にして、「事故の発生はその医療従事者個人の責任」ということで終わってしまう可能性があります。それを防ぐためにも、きちんと関係者の意見をまとめた報告書が必要となるのです。

目的はあくまで「正しいデータ」の収集

制度がスタートすることで患者さんにもメリットがあります。ひとつは、手術前に十分な説明を受けることができるということです。リスクについても丁寧に説明することが義務化されます。また、もうひとつのメリットは、制度によって正しい情報が集まり、センターが再発防止に関する活動を進めることで、医療の安全が推進され事故は減るということです。
 
私が医療従事者の皆さんにお願いしたいのは、作成した報告書は事故の再発防止のために使うべきで、警察へ提出し個人を罰する方向にするようなことはしないでいただきたいということです。それをされた瞬間から、身を守るために誰も正しいことを言わなくなり、データを集めることを目的としたこの制度は崩壊します。
事故をなくすためには、罰則で縛ってもあまり意味がありません。あくまで正しいデータを集めて、集まったデータを分析・蓄積し、再発防止につなげることが重要なのです。
 
※制度の詳細は、厚生労働省のウェブサイト(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061201.html)をご覧ください。

日本医師会
副会長
松原謙二氏
 
【略歴】
1982年 広島大学医学部卒
1993年 松原内科開業
1994年 池田市医師会理事就任
2000年 大阪府医師会理事就任
2013年 日本医師会副会長就任
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