今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第64回 2008/08

隠さず、逃げず、ごまかさないことが事故対応の基本

医療事故防止に真摯に取り組む病院がある一方で、相変わらず痛ましい医療事故の報道も続いています。また、医療訴訟の増加が医療者の萎縮を招き、医療者の退場を招いているなどという議論もある昨今です。今回は<うそをつかない病院>をつくることが、患者と医療従事者の溝を埋める方法と主張する清水さんにうかがいました。

医療法人社団明芳会
新葛飾病院 院長
清水 陽一 氏

医療法人社団明芳会 新葛飾病院

医療従事者と被害者の気持ちの違いを知る

私と医療事故との関わりは、大学時代に遡ります。在学中に起こった医療事故をめぐり、「研修医という経験の浅い医師が一人当直をして事故を招いたこと」「連絡体制が悪くて救命できなかったこと」は都会の大学病院として許しがたいと、ご遺族とともに告発したのです。しかし30数年も前で、弁護士に介入してもらうことさえ知らなかったこともあり、結果的に負けてしまいました。 その後医師になってからは、医療裁判で患者側に依頼されて裁判所に意見書を書いてきました。そんな中、今度は私の父が医療事故で亡くなったのです。父はALS(筋萎縮性側索硬化症)で3年間寝たきりだったのですが、病院内で人工呼吸器がはずれ死亡しました。

この時、一番ショックを受けたのはその時の悲しみは別として、医師としての私が「呼吸器がはずれたことに気が付かなかったミスを、看護師さんが正直に話してくれてよかった」と少し救われた気持ちだったのに対し、母が「病院に殺された」と言ったことに対する、医師である私と母の感性の違いでした。このことは私にとって、医療者と患者側の気持ちを理解する上で非常に大きな転機となりました。私は、そういうことも含めずっと医療事故に関わってきたのです。

自分の医療に信念があれば、うそをつく必要がない

私は新葛飾病院に来てからも、それ以前のいろいろな病院でも、その間に起こった院内の事故やトラブルに関しては全面的に私が解決してきました。裁判になったことは皆無です。基本的に隠さずごまかさず逃げなければ、患者さん側ともめることはそんなにないのです。訴えの99%は医療側の対応が悪いための患者さん側の怒りであり、医療被害者の多くは真相の究明と心からの謝罪を望んでいるのです。

訴訟が多発して医師が萎縮するという意見がありますが、これは見当違いと言っていいでしょう。要するに萎縮しているのではなく、自分の医療に信念がないからなのです。自分の医療に自信を持っていれば、間違えた時には間違いましたと謝罪できるわけです。ごまかしたりうそをついたり、逃げたりすることはないのです。

確かに事故を認めるのは怖いですし嫌です。事故はないにこしたことはありません。でも私たち医療者は、事故で患者さんの生命を奪うこともあるわけですから、それだけの覚悟をしなくてはいけないのです。過失の問題、システムの問題、個人の問題など、事故にはいろいろなケースがあると思いますが、自分の診療に自信があればうろたえる必要はないですし、誠心誠意をもって対応することで患者側との信頼関係が構築できると考えています。

望まれるドイツ型の医師職業裁判所

最近、医療事故の原因究明を第三者機関にゆだねようという動きがあります。これに対して、いくつかの医療機関が反対しているのには驚きます。医療の代表者、患者さん、他の有識者で構成される第三者機関が「これはひどすぎる」というものを捜査機関にゆだねるということの、どこに反対する理由があるのかと思います。

逆に自信を持って行なっている医療であれば、捜査機関に回されるはずがありません。
ただ私は、基本的には医療事故の処罰は刑事罰ではなくて、ドイツの医師職業裁判所のようなものによるのが良いと思っています。日本の医療事故では原告(遺族)と弁護士、裁判官のどれもが医療の素人であるのに対し、被告は専門家である病院とそれに協力する大学教授ですから、原告側に非常に不利な戦いとなります。ドイツの医師職業裁判所は、医師と法律の専門家によって構成されるもので、医師は名誉職で給料がありません。患者さんの告発を受けて検事として告発するのは医師で、告発されるのも医師ということになり、医療の専門家同士で事故原因を究明することになります。(詳しくは東京医科歯科大学名誉教授のHP http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/ を参照してください。)

倫理観のない医師には医師免許を交付しないこと

私は、病院というのは安全とともに倫理が一番大事だと考えています。倫理観のない医師に対しては医師免許を剥奪し、二度と医師免許を交付しないようにすべきだと思っています。

倫理観のない人たち、たとえば医学部の学生が複数で強姦したというような事件がありました。しかしその人たちは頭が良いので、刑期を終えてまた医学部を受験し合格しています。今の制度ではそれが許されてしまいます。不正請求をした医師もそうです。不正請求は刑事事件で、詐欺です。患者がいないのに、患者が受診したようにみせかけてお金を請求するわけですから。しかしそういう人たちも、今の制度では教育を課してそれを終えればすぐに復帰できるようになっています。

私は、どんなに頭が良くても倫理観のない人間には、絶対に医師になって欲しくないと思います。そのためには、倫理観のない人に二度と医師免許を取らせないようにする、先に述べたような特別の裁判所を作る必要があると主張しているのです。医師にとって医師免許を剥奪され、二度と復帰できないのは死刑に等しいことです。私は死刑廃止論者ですが、これは必要だと思っています。

医師は心が優しくて真面目なこと。私はこれが一番大事だと思います。真面目であれば、患者さんを良くしようと思って勉強します。臨床医にはそんなに頭が良くなくても、倫理的で真面目な人、患者のために一生懸命勉強し続ける人、そういう人になってもらいたいと思っています。また、それを社会的にやらせるような仕組みが必要だと思いますね。

大切な主治医と患者のコミュニケーション

2004年10月、私どもでは別の病院の医療事故でお子さんを亡くされた豊田さんという方を、医療安全対策室の担当者として迎えました。患者や家族の気持ちがよくわかり、院内の透明性を高める上で有効だと考えたからです。また、問題があればすぐ内部告発をしなさいと、いわば内部告発奨励さえしています。

現在は、豊田さんを迎えた頃と比べると院内のシステムがたいへん良く働くようになってきました。豊田さん自身の方向性も変わり、アメリカで見られるような、医療被害や医療事故に遭われたりした方の傍にいてお話を聞いてあげる、支えてあげるというような存在になってきています。

私自身もそういう意味ではずいぶん暇になりました。昔はなにかあれば全部私が解決したのですが、今はかなりの部分は現場で解決できるようになりました。それだけ院内の現場の人たちが変わってきたのです。

たとえば、ラジオ波を受けて翌日亡くなった方がいました。その時も「今から家族に全部お話して警察に届けます」と現場から私に電話があり、現場で対応してもらいました。それで、主治医が患者さんのご家族に話をして「警察に届けます」と言いますと、家族からは「届けなくてけっこうです」と言われたそうです。しかし、法的な問題がありますから警察に届けて司法解剖をしました。

その結果、内胸動脈に高周波の影響と思われる動脈瘤ができて、それが自然に破裂したのが原因だということがわかりました。そんなことが起こり得ることさえ私たちの誰も知らなかった非常にまれなケースで、司法解剖をしなければわからなかったことであり、学会にも発表しました。

ただ、そのことを主治医がご霊前に報告に行った折、ご家族の方は、警察に届けて主治医がいやな目に会わなかったか心配してくれたそうです。現場の主治医と患者さんのご家族がきちんとコミュニケーションがとれていたから、そういう対応をしてもきちんと理解していただけたわけです。大事なのは現場のスタッフの対応なのです。事故は起こらないのが一番ですが、万が一起こった時にどういう対応ができているかだと思います。

「うそをつかない病院」を現場に徹底

私は入職してきた医師に最初に、「この病院では最初から全部開示します。ですから恥ずかしくない診療録を書きなさい」などと言いますが、私どもの病院は患者さんから要求があればすぐにカルテなど全てをお見せします。もし事故が起こった場合は、それ相応の損害賠償をするということもはっきり表明しています。

隠すことが一番良くないのです。それに加えて、憶測を語らないということも大事です。まだはっきりしないことを言って、それがまた違っていたというような場合は患者さんのご家族も疲労してしまいます。私は基本的に、わからないことはわからないと言いなさいと言っています。わかったようなふりをしてはいけない。それが大事だと思います。

病気を治療している時もそうです。もし診療していてわからない場合には、他のところで診てもらうなり、紹介状を書いたりして他の先生に診てもらうことが必要です。抱え込まないということが私は大事だと思っています。私たちは一方向からしか診ることができませんが、他の先生は別の方向から診てくれるかもしれません。そういうことが大事なのではないでしょうか。

清水 陽一 氏
【略歴】

1975年、東京医科大学卒業/1979年、関東逓信病院内科研修医。1980年、榊原記念病院 循環器内科入職。1986年、医療法人財団石心会 狭山病院 循環器科部長、透析室室長。1987年、東京医科大学客員講師。1993年、医療法人社団三記東鳳 新東京病院 循環器科部長。1999年より現職。

NPO法人「患者のための利用ネット」副代表、「医療の良心を守る市民の会」副代表、ADR研究会『架け橋』副代表を務め、医療トラブルに中立的立場から解決に当たる医療仲介者の導入にも先駆的に取り組んでいる。
【役職】
医療法人社団明芳会 新葛飾病院院長
日本心臓学会特別正会員(FJCC)
日本冠疾患学会評議員 日本心臓血管内視鏡学会評議員
日本心血管カテーテル治療学会評議員・指導医
日本心血管インターベンション学会指導医
日本循環器学会専門医
日本内科学会認定医
日本医師会認定産業医
葛飾警察署犯罪被害者支援ネットワーク幹事会会員
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