今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第151回 2015/11

変わる日本のスポーツ医学。新設:つくばスポーツ医学・健康科学センターが担う役割(前編)

2020年の東京オリンピックを控えた今、「スポーツ医学」に注目が高まっています。2015年10月に新設されたつくばスポーツ医学・健康科学センターでは、アスリート復帰プログラムが進められ、選手たちの回復をサポートしています。同センターで医体協働で行われているスポーツ医学の特徴について山﨑 正志氏にお話をお伺いしました。

筑波大学付属病院 副病院長
筑波大学医学医療系・整形外科 教授
つくばスポーツ医学・健康科学センター センター長
山﨑 正志 氏

筑波大学附属病院

医療従事者とスポーツトレーナー協働の治療計画

医師にとって仕事とは、けがや病気の人を元の状態まで回復させることです。いかに早く治せるか、後遺症を残さずに治療できるかが課題となっています。なかでもスポーツ医学はアスリートを対象としており、けがをしたアスリートが早期復帰をするため治療とその後のリハビリの支援を行います。
 
筑波大学附属病院の整形外科では、テニスやサッカー、柔道などのさまざまな分野で日本代表選手や各クラブチームに帯同を行っています。治療を行うだけではなく、練習・試合中に異変が起きた時にすぐ対応できるような体制を整えています。
また、学校の部活動を指導するコーチや先生などを対象に講習会を開催し、スポーツ医学の教育を行う活動もしています。特に若い選手は野球肘などの成長期特有のスポーツ障害が起こりやすいため、けが防止のためにこうした教育が必要となるのです。
こうした活動がスポーツ医学に携わる医療従事者の主な役割です。
 
これまでも筑波大学はスポーツ医学に力を入れ、多くのアスリートの治療を行ってきました。しかし、医学系、附属病院と大学の体育系との連携が充分ではなく、もう一歩進んだ医体連携の仕組みが整えられていれば、よりスムーズなアスリートの競技復帰が支援できるのではないかと考えていました。

唯一の医体合同研究ができる国立大学として

筑波大学は、医学系の学部と体育系の学部の両方を有する唯一の国立大学法人です(2015年10月現在)。筑波大学附属病院では、スムーズで協力的な組織編成を行うため、2015年10月、附属病院と医学医療系、体育系といった関連機関を統括した「つくばスポーツ医学・健康科学センター」を新設しました。そして、日本のアスリートたちへより優れた医療を提供するため「アスリート復帰プログラム」と称する新しいプログラムを整えたのです。実はこうした医学系と体育系を結び付けた支援は、国立大学法人としては、当センターが初めての取り組みです。
 
当センターでは、医師や看護師、理学療法士などの医療従事者に加え、各チームの監督やトレーナーなどと協働で治療計画をつくります。リハビリ方法は種目によりそれぞれ異なり、その種目にそぐわないリハビリを行ってもむしろ逆効果です。医療従事者は、そのアスリートの行う競技にはどのようなリハビリが必要かを理解して計画を立てなくてはなりません。
手術の前から、手術後に行いたいトレーニングの内容を医療従事者が把握することで、無理なく早期復帰に向けた計画を立てられることが、協働で行うメリットです。必要であればメンタルケアの専門家にもチームに入っていただき、力を合わせてアスリートを支えます。

体育施設での本格的なトレーニングと治療を両立

つくばスポーツ医学・健康科学センターができたことで医学と体育学の連携が強化され、体育系内の施設でのリハビリやトレーニングが可能となりました。
筑波大学体育系には、体育分野を科学的に研究するため、最新の設備を用いたトレーニングが可能な総合実験棟(SPEC)があります。附属病院で手術を受けたアスリートは、医療従事者のサポートのもと、この施設でトレーニングすることができます。このように、治療から競技復帰までをサポートする、一期通貫型リハビリテーションシステムを提供できることが、当センターの強みです。
 
通常であれば、医師は手術後、経過観察はすれどもその後のトレーニングに大きく関わることは少ないのですが、当センターのプログラムでは手術後もより細かに定期的な観察をしたり、トレーニングのメニューを医学的な観点から調整していくことが可能です。もしトレーニング中に腫れが出るなどの異常が起きた場合には、すぐに医師の診察を受けることもできます。医学の分野と体育の分野がお互いに意見を交換でき、サポートし合えるのが特徴で、復帰までより効率的に治療とリハビリを進めることができると思います。
 
すでに当センターの患者第一号として、サッカー日本代表女子(なでしこジャパン)の安藤梢選手が、2015年6月に当院で足首の骨折の手術を受け、トレーニングを行いました。手術後は、医師の経過の観察を受けたり、栄養バランスが計算された病院食での食事療法などを行いながら復帰に向けたトレーニングを徐々に始めました。練習メニューは、手術前からトレーナーと選手、そして医療従事者が相談しながら作成したものです。経過は良好で、10月末にはドイツ・ブンデスリーグに復帰しました。
 



驚いたことに、スポーツ復帰に向けた医療とトレーニングの共同研究はこれまで積極的には行われてきませんでした。このたび筑波大学で初めて研究が始まり、全国の整形外科医に新しいスポーツ医学のスタイルを提示できることでしょう。
後編では、「つくばスポーツ医学・健康科学センター」での活動をより詳しくお話いただきます。

山﨑 正志氏
筑波大学附属属病院 副病院長
筑波大学医学医療系・整形外科 教授
筑波大学附属病院・リハビリテーション部・部長
 
【略歴】
1983年 千葉大学医学部卒業
1990年 千葉大学大学院医学研究科博士課程〔外科系〕修了
1994年 研究員(米国ニューヨーク市マウントサイナイ医科大学整形外科)
2008年 千葉大学准教授医学部附属病院(整形外科)
2012年 筑波大学医学医療系整形外科教授
2014年 筑波大学付属病院 副病院長
2015年 つくばスポーツ医学・健康科学センター センター長
 
【資格】
日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
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