今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第152回 2015/12

爆発的な感染力を見せるノロウイルス。感染の拡大防止のために(前編)

例年と同じく2015/2016シーズンも流行が見込まれているノロウイルス。医療・介護施設での集団感染による死亡ケースも毎年報じられており、それらの施設で働くスタッフには対策が求められていますが、医療・介護従事者としてまず大切なのはノロウイルスについてよく知ること。今年度のノロウイルスの特徴と注意点について、東京医科大学 微生物分野 松本 哲哉先生にお話いただきました。

東京医科大学 微生物分野
主任教授
松本 哲哉 氏

東京医科大学 微生物分野

感染者多数が見込まれる、今シーズンのノロウイルスとは

ノロウイルスはごくわずかなウイルスが口に入っただけでも感染する、非常に感染力の高いウイルスです。24~48時間の潜伏期間を経て、おう吐や下痢、腹痛、発熱などの急性胃腸炎の症状を引き起こします。主な感染経路は、下記の3種類に分類されます。
1. ウイルスに汚染された二枚貝の摂取
2. 感染者が調理して汚染した食品の摂取
3. 患者の便や吐物、あるいは汚染した場所への接触
この中で最も感染者が多いのは3のいわゆるヒト→ヒト感染です。なお、まれではありますが、吐物処理後などに乾燥したウイルスが空気中を漂って、それを吸入して感染する可能性もあります。
 
通常、ノロウイルスの流行は11月頃からはじまり、感染者数は12月にピークを迎えたのちゆるやかに減っていきます。昨年2014/2015シーズンの後半頃、これまで主流だったGⅡ-4型とは異なる「GⅡ-17」という新しい型のノロウイルスが広がりはじめました。現在GⅡ-17に免疫を持つ人は少ないため、2015/2016シーズンはこのGⅡ-17が流行し、これまでと比べて患者数が多くなることが予測されています。

治療法のないノロウイルス。だからこそ正しい理解が必要

実は、ノロウイルスを培養する技術はまだ見つかっていません。また、ヒト以外の動物に感染させることが難しく、動物実験も進んでいません(2015年11月現在)。そのため、このウイルスを対象とした研究は難しく、ワクチンや治療薬の開発が遅れています。つまり現時点では確実な予防策はなく、発症して医療機関を受診しても有効な治療を行うことはできません。
 
「治療法がない病気」と聞くととても恐ろしいものに思えますが、すぐに症状が治まることもノロウイルスの特徴です。
おう吐や下痢の症状がある間は非常に身体への負担が大きい時間となりますが、健康な大人であれば病院に行かずとも、症状は2~3日で自然と治まり、普通の食事ができる程度まで回復します。医療機関では患者に点滴を行うことがありますが、これは水分補給による脱水の改善のためであり、ウイルスに対する直接的な治療を目的としたものではありません。感染者が医療機関で吐いたり下痢をすることで院内の環境は汚染されます。それに伴って院内で感染が拡大する可能性があるため、水分補給ができている患者は無理に病院に来ていただくのではなく家で安静にしていただく方が良い場合もあります。
 
しかし、高齢者や小さな子どもが感染した場合は、重症化を警戒した方がいいでしょう。寝たきりの高齢者がノロウイルスに感染すると、おう吐物による誤嚥性肺炎に陥り死亡する例があります。寝たきりでなくても、高齢者は基礎疾患を有している場合が多く、感染がきっかけになって基礎疾患が悪化する場合があります。また、長くおう吐や下痢が続く場合は脱水の危険があり、特に小さな子どもはすぐに脱水に陥ります。脱水症状がひどく患者がぐったりしている場合は、年齢を問わず病院を受診させる必要があります。妊婦の方なども注意が必要ですので、かかりつけの医師に相談するのが望ましいでしょう。

症状が治まっても感染源となり得る

2~3日でおう吐や下痢が治まるとは言うものの、ノロウイルス自体は症状が治まった後もまだ1ヵ月ほど本人の腸の中にいます。ほかの人に感染させる可能性があるからといって、ノロウイルスが体内にいなくなるまでの1ヵ月間、仕事や学校を休ませるのは難しいことですし現実的ではありません。
症状が治まっても数日はまだ軟便が続いていることが多く、この時点ではまだ便中のウイルス量も多く、周囲に感染させるリスクも高いと思われます。そのため、便が通常の固形便になってウイルス量が減少してから職場などへの復帰することが望ましいと思われます。
 
ただし、職場に復帰した後もトイレの後の手洗いを充分に行うなど、自らが感染源にならないように心がける必要があります。特に調理を行ったり、食品を扱う仕事の場合は、より慎重にならざるを得ませんし、一定期間業務内容を変更するなど職場の責任者と相談するのがよいでしょう。


後編では、医療・介護施設での感染拡大対策について詳しくお聞きします。
 

東京医科大学 微生物分野
主任教授
松本 哲哉氏
 
【略歴】
1987年3月 長崎大学医学部卒業
1987年6月 同 附属病院第2内科入局
1993年3月 同 大学院修了(臨床検査医学)
2000年9月 米国ハーバード大学留学
2004年10月 東邦大学医学部 講師(微生物学講座)
2005年6月  東京医科大学医学部 主任教授(微生物学講座)
2007年4月 東京医科大学病院感染制御部部長兼務(2013年7月まで)
 
 
【主な所属学会】
日本化学療法学会、日本感染症学会、日本臨床微生物学会、日本環境感染学会、日本内科学会
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