今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第152回 2015/12

爆発的な感染力を見せるノロウイルス。感染の拡大防止のために(後編)

例年では、12月はノロウイルスの感染者数がピークに達する時期。体力が落ちている高齢者の多い医療・介護施設では、アウトブレイクする可能性もあり、特に警戒を高めなくてはなりません。後編では、医療・介護施設で感染拡大させないための注意点を、東京医科大学 微生物分野 松本 哲哉先生にお話いただきました。

東京医科大学 微生物分野
主任教授
松本 哲哉 氏

東京医科大学 微生物分野

前編はこちら

施設内のあらゆる場所が感染源となり得る

病院や介護施設の場合、患者がトイレで排泄したものやおう吐物に大量のウイルスがいるということをスタッフが自覚し、吐しゃ物に対してのきちんとした対処をしなければなりません。医療・介護施設は体力が落ちている方の多い場所ですから、ひとり感染者が出るとアウトブレイクする危険性が非常に高いのです。
 
症状がある方が出てから感染対策を始めるのではなく、流行期はいつでも注意して、今この瞬間もウイルスが施設内の誰かの体内に潜む可能性を考えておかねばなりません。ウイルスに感染したからといって誰もが激しいおう吐、下痢などの症状が出るわけではありませんので、症状だけでウイルス感染の有無を判断することはできません。また感染者だけでなく、汚染した食品を介して施設内にウイルスが持ち込まれる可能性もあるので、いつ、どこからウイルスが持ち込まれるかわかりません。流行期になったら、患者が発生する前から予防として、手すりやドアノブ、いすの肘掛けなどの不特定多数が触るモノや、トイレなどの汚染しやすい場所をこまめに消毒しておくことが大切です。
 
特にトイレは感染源となりやすい場所です。
感染者が自力で歩いてトイレまで行けるのであれば、トイレの中はもちろん、トイレ後部屋に戻る際、ウイルスのついた手で手すりを触るなどして、感染源を増やしてしまう可能性があります。また、トイレのタオルの共有は感染を広げる原因となります。
施設内の個室の数に余裕があれば、感染者はトイレ付の個室に移動していただき、基本的には部屋の中で過ごしてもらうようにするとよいでしょう。

いつでも消毒対応ができる、ノロウイルス対策セットを常設

介助の際、もっとも気を付けていただきたいのは、スタッフ自身が感染しないように注意することです。
では、患者や利用者がおう吐した場合、スタッフはまず何をするのが適切でしょうか。
 
よくあるのが、すぐにおう吐物を処理しようと何の準備もなしに片付けてしまうこと。それはとても危険な行為です。拭き取る際にウイルスが飛散する可能性がありますし、スタッフ自身も感染する恐れがあるからです。感染拡大を防ぐため、次のような手順で処理しましょう。
 
おう吐物には手を触れず、誤嚥を防ぐためにまずは患者を横向きにします。その後、使い捨て手袋やエプロン、マスクを装着し、次亜塩素酸系の消毒薬を用意して、必要な準備が整ってから吐しゃ物を処理しましょう。通常のエプロンは腕の部分がカバーできないので、できれば袖のあるガウンタイプのものを推奨しています。
 
消毒液は、自分たちで消毒剤を希釈して使用してもよいですし、それも手間であれば市販のノロウイルスにも有効な消毒薬を使ってもよいでしょう。吐物の処理に必要な物品をまとめてセット化した商品も市販されていますので、それを購入しておくか、自ら消毒液と防護エプロンなどを一式セットにしておき、施設内に設置しておくと良いでしょう。
 
施設内を動き回るスタッフが感染すれば、施設全体にウイルスを拡大させることになる可能性があります。まずは自身の感染対策を整えて、自身を防御した状態から対策を進めてください。
 
※次亜塩素酸系の消毒液
ノロウイルスはアルコール系の消毒液では消毒することができない。次亜塩素酸水もしくは次亜塩素酸ナトリウムで行う。市販の塩素系消毒剤を希釈するなどして作成する。
塩素系の消毒液は鉄を腐食するため、手すりやドアノブなどの金属部を濡れたまま放置すると錆びてしまう可能性がある。消毒した後に水拭きするとよい。
 


2015/2016シーズンもノロウイルスは流行すると言われています。スタッフ全員がノロウイルスの特徴と対策方法を理解し、正しい知識で処理を実行して、感染拡大を防いでいきましょう。

東京医科大学 微生物分野
主任教授
松本 哲哉氏
 
【略歴】
1987年3月 長崎大学医学部卒業
1987年6月 同 附属病院第2内科入局
1993年3月 同 大学院修了(臨床検査医学)
2000年9月 米国ハーバード大学留学
2004年10月 東邦大学医学部 講師(微生物学講座)
2005年6月  東京医科大学医学部 主任教授(微生物学講座)
2007年4月 東京医科大学病院感染制御部部長兼務(2013年7月まで)
 
 
【主な所属学会】
日本化学療法学会、日本感染症学会、日本臨床微生物学会、日本環境感染学会、日本内科学会
インタービューTOPへ
ページの先頭へ戻る