今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第74回 2009/06

いま、治療中心の医療から統合医療の時代へ

ストレスからくる心身の不調、末期ガンの患者さんなど、現代医学では治療が難しく、なんとか健康を取り戻したい、せめて生活の質を向上させたいと願う方が大勢いらっしゃいます。今回は西洋医学に、東洋医学や伝統医療を合わせて、患者さん中心の医療を目指す統合医療についてうかがいました。

日本統合医療学会(IMJ)理事長
東京大学名誉教授 医学博士
渥美 和彦 氏

日本統合医療学会(IMJ)

行き過ぎた近代科学への反省から生まれた統合医療

統合医療という名称は、最近、雑誌や新聞、テレビなどに出るようになり、名前だけはご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。最初は代替医療という形で、アメリカを中心に出てきたものです。

そもそもは、環境破壊や公害などをもたらした、行き過ぎた科学に対する反対運動のようなものがベトナム戦争後に起こり、ちょうどその頃、科学の分野でもニューサイエンスという動きがあって、反科学、環境問題がクローズアップされました。そして、近代科学に基礎を置いた医学にまでその運動が及び、代替医療というものが出てきたのです。
このような動きはヨーロッパにもあり、相補とか補完医療というかたちで、たとえばホメオパシーや、スピリチュアルヒーリングといったものが、いわゆる近代医学を補完するものとして、クローズアップされてきました。

近代西洋医学は、めざましく発達してから100年ちょっとの歴史しかありませんが、非常に大きな貢献をしています。特に感染症や手術などには顕著です。
しかし、西洋医学ではなかなか治りにくい病気もあります。たとえばストレスに対してはうまく治療できませんし、精神的な問題や社会問題、家族問題、心の癒しなどについては、必ずしも得意ではありません。
このようなことから、西洋医学でも良いし、鍼でも、ハーブでも、患者さんに最も良いものを使って治したり予防したりしていこうというやり方、統合医療が出てきたのです。

例外を認めない近代医学と、個人差を認める伝統医療

西洋医学の一番大きな特徴は科学性にあります。科学性ということを、私は「客観性」「再現性」「普遍性」と捉えています。客観性は誰が見ても正しいということ、再現性は一度起こったことはまた再現できるということ、普遍性はアメリカで効いた薬は日本でも効くといったようなことです。

近代西洋医学は、この「客観性」「再現性」「普遍性」という思考をどんどん膨らませていった結果、一つの基準を設定して、その基準に合わないものは「例外」として切り落としてきました。しかし、西洋医学が急速に進歩し、医療行為が限りなく上限を迎えた今日、その例外として落としてきたことの重要性に気がつき、西洋医学が抱えている弱点が見えてきたのです。
西洋医学は平均的・統計的な医学ですから、患者に対して「均等性」を持っています。ですから薬についても、同じ条件なら同じ薬が効くはずだという前提で成り立っています。

これに対して、伝統医学はむしろ個人の体質を重んじてきました。インドの伝統医学である「アーユルヴェーダ」の思想では、人間には「ドーシャ」という体質の個性といったものがあるという考え方に基づいていますし、中国医学にも「証」という考え方があります。どちらも個人はそれぞれ全部異なるという、個人差を認める哲学から出ているのです。
つまり、個人的な診断・治療をするのが伝統医学の根本思想と言ってもいいわけで、平均的な統計医学と個人の医学という大きな差が、西洋医学と伝統医学にはあると言えます。

統合医療が求められる三つの理由

西洋医学以外の、いわゆる相補、代替医療と呼ばれるもの、相補はcomplementary、代替医療はalternative medicineと言いますので、まとめてcomplementary & alternative medicine、私たちはCAM(カム)と呼んでいますが、なぜアメリカのような最先端の医学が行なわれているところで、CAMや、統合医療が出てきたかと言うと、三つの理由があります。

一つは患者さんが近代西洋医学以外のいろいろなもの、鍼、ヨガ、音楽療法など、多様なニーズが出てきて、それに対応しようとしたこと。
二つ目は、先進国でも発展途上国でも、医療に高度な技術が導入されてくると、お金がかかって個人的にも国としても対応できなくなります。ですから、有効性が同じで安全であれば、できるだけ治療費が安い方法がないのかという、医療経済の破綻に対する対策です。
三番目は、これからの医学がいわゆる治療だけでなく、予防や健康、そしてWHOが言っているように、身体だけを治すのではなく、精神的にも社会的にも良い状態に保とうという方向に来ていることです。つまり、「多様なニーズ」と「医療経済」、身体だけでなくて「全人的な医療」(ホリスティック医療)、この三つが統合医療が求められる非常に大きな理由だと思います。

統合医療におけるキーパーソンは看護師さん

私が統合医療のキーパーソンだと思っているのは看護師さんです。看護師さんは認識のレベルがたいへん高いです。例えば、患者さんが求めているのはどうも心の癒しのようだと考えると、ヨガが良いのではないか、気功が良さそうだ、アロマが良いと実感しているのは看護師さんなのです。実際、私は統合医療を追求して、ヨーロッパやアメリカ、アジアもずいぶんまわりましたが、第一線で患者さんに付き合っている看護師さんなくしては、この統合医療というものは成り立たないという思いを強くしています。

統合医療に関する学会に出ましても、特に国際会議では半分以上が看護師さんです。学会では、例えばハーブの研究で、このハーブがこういう症状に効いたというような科学的な発表をするドクターなどがいる一方で、実際の統合医療の体験を語る人は圧倒的に看護師さんが多いのです。
ドイツやイギリス、あるいは北欧のクリニックなどで、統合医療を第一線でやっておられる人たちを見てきましたが、看護師さんの資格を取ってから音楽療法士の資格をとって音楽療法をやっている人などもおられます。

日本でも、看護師さんがずいぶん海外に行って勉強して帰って来ています。手で患者さんを触って癒す方法や、スピリチュアルヒーリングなどを勉強してきた看護師さんたちが、統合医療について他の看護師さんに教える、そういう会がたくさんできてきました。ですから、看護師さんにこういう分野にどんどん参加してほしいと思っています。

近代科学では立証が難しい代替医療

統合医療の分野で問題になるのが、いわゆるEBM(evidence based medicine=科学的な証拠に基づく医療 )です。統合医療は鍼とかヨガなどの東洋医学だけではなく、西洋医学が大きな分野で入っていますので、それとどういう風に比較して選んでいくかということが非常に大きな問題です。

伝統医学や民間療法は数百年、数千年の歴史を経て経験的に淘汰を経たものが多くあり、気とか陰、陽など、今までのいわゆる近代科学では立証できないものがたくさんあります。
また、西洋医学の医薬品のEBMで広く使用されるRCT(ランダム化比較試験)は、代替医療への適用には限界があるということが、2000年のミュンヘン における国際会議で討議されました。代替医療のEBMには、いろいろなケースにより有効性や安全性が異なる場合が多いからです。

現在、代替医療の EBMには次の三種のものが含まれると考えています。
①従来の科学的方法でEBMの可能なもの-例えば、健康食品やハーブ。
②計測方法に新しい工夫の必要なもの-気功、音楽療法など。
③全く新しいEBMの方法を開発する必要のあるもの-波動療法など。
このため日本統合医療学会では、新しい方法・研究開発のために「代替療法における新理論研究会」を発足させています。

統合医療を真に国民に役立つ医療にしていくために

これから重要になってくるのは、統合医療に関する教育の問題です。アメリカではNIH(国立衛生研究所)が、14、15年前から統合医療について研究しています。また、ホワイトハウスの中に、大統領直轄の統合医療大統領委員会というものがあり、大統領命令で予算が決まる国のプロジェクトになっています。統合医療センター(州によっては代替医療センター)もあり、ハーバード大学やコロンビア大学など、20くらいの大学に統合医療、あるいは代替医療のカリキュラムがあって勉強をしています。

私たちの今後の活動として、まずは、ここに行くと統合医療をやっている、ここには鍼とハーブとヨガの専門家がいるといった、統合医療の認定施設をインターネットで公開していくこと。また、統合医療の認定医、認定看護師、認定ヨガ士というものを作ろうと計画しています。
次に大学に統合医療の学科を作っていく。日本でも統合医療の学科がところどころに出てきましたが、まだ十分ではありません。それから国立や県立、民間の統合医療センターを作って国民が利用しやすくしていこうと考えています。

現在、健康食品や民間療法の中には、いかさまのようなものもたくさんあります。病気を治したい、健康でありたいと願う人たちが、テレビや宣伝の雑誌などにのせられて安易にそういうものに惑わされないよう、きちんとスクリーニングして、安全で有効性のあるものをセレクトしていくことも私たちの大切な役目だと思っています。国民に真に役立つ、より身近に受けることができる統合医療を確立していきたいと考えています。

渥美 和彦 氏
【略歴】

1954年、東京大学医学部卒。 1955年、東京大学医学部付属病院木本外科において心臓外科を専攻し、人工臓器や医用工学の研究に従事。1964年、東京大学医学部医用電子研究施設助教授。1967年、同研究施設教授。1989年、同大学定年退職、東京大学名誉教授。1991年、第15期日本学術会議会員。1994年、第16期日本学術会議会員第七部長。1995年、鈴鹿医療科学大学学長に就任。1998年、鈴鹿医療科学大学退職。1998年、日本代替・相補・伝統医療連合会議(JACT)理事長。2000年、第18期日本学術会議会員。2000年、日本統合医療学会(JIM)理事長。2008年、一般社団法人日本統合医療学会(IMJ)理事長。
【主な賞】
1966年、朝日学術奨励賞(朝日新聞社)
1982年、アメリカレーザ医学会賞(アメリカレーザ医学会)
1988年、バイオマテリアル科学功績賞(日本バイオマテリアル学会)
1991年、日経BP技術賞(医療部門、日本経済新聞社)他多数
【役職】
国際人工臓器学会 元会長、国際レーザー医学会 元会長
日本本レーザー医学会 元会長、日本サーモロジー学 元会長
日本生体磁気学会 元会長、 日本エム・イー学会 元会長
日本人工臓器学会 元理事長、 日本医療情報学会 元副会長
【主な著書】
『人工臓器』(東大出版会, 1970年)、『医用サーモグラフィ図譜』(医学書院, 1971年)、『医療情報システム総説』(企画センター, 1973年)、『人工臓器─人間と機械の共存─』(岩波書店, 1973年)、『レーザー医学─基礎と臨床─』(中山書店, 1980年)、『バイオメディカルエンジニアリング─21世紀のMEを探る─』(オーム社, 1984年)、『医学これからこうなる』(集英社, 1986年)、『シリーズ1990 人工臓器─不老不死の時代は来るか─』(東京書籍, 1987年)、『人工心臓─未知なるミクロコスモスへの挑戦─』(三田出版会、1989年)、『人工臓器─生と死をみつめる新技術の周辺─』(NHKブックス、1996年)、『バイオメーション─21世紀の方法序説─』(清流出版、1998年)、『統合医療への道─21世紀の医療のすがた─』(春秋社、2000年)、『代替医療のすすめ─患者中心の医療をつくる』(日本医療企画、2001年)、『自分を守る患者学─なぜいま「統合医療」なのか』(PHP新書、2002年)、『統合医療・基礎と臨床』(日本統合医療学会、2004年)など他多数。
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