今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第76回 2009/08

シームレスに継続できる小児のNIV治療を目指して

重い障害のある小児患者に対して、より負担の少ないNIV治療が徐々に広がっているようです。課題は、都市部に住む患者だけではなく、どこにいてもその治療が受けられるようにすることと主張する土畠智幸さんにうかがいました。

医療法人 渓仁会
手稲渓仁会病院
小児NIVセンター長
土畠(どばた) 智幸 氏

手稲渓仁会病院

患者さんの負担が少ないNIV治療

私は2006年夏ごろから、現在の治療の中心にしているNIV治療をやり始めました。この治療は、呼吸不全やいわゆる障害児、病気自体を治す方法がなく多くが難病といわれる、筋ジストロフィーなど筋肉や神経の病気、遺伝的な病気などを持っているお子さんを対象にしています。

NIV治療をやるようになったきっかけは、筋肉の病気で呼吸の筋力がすごく落ちてしまい、風邪をひくと必ずひと月に一回は入院するようなお子さんに出会ったことでした。ある時、その患者さんが肺炎にかかり、呼吸状態がどんどん悪くなったので、気管内挿管をして人工呼吸器につなぎました。その後、呼吸状態が良くなって管を抜いたのですが、また悪くなってしまいました。このようにもともと呼吸に障害がある患者で、気管内挿管がやめられない場合は、通常は気管切開をして、管を常時通して人工呼吸器につなぎます。しかし、その話をご両親にしたところ、それは避けたい、ほかの病院でしていたNIV治療でなんとかできないかとおっしゃったわけです。

NIV治療は、気管切開をせずに、特殊なマスクを鼻につけて呼吸器を付け、鼻から呼吸できるようにするものです。これは大人では時々行なわれていた治療ですが、当時、私は知らなくて、小児患者に対して行うことは考えていませんでした。そこで、国立八雲病院の石川先生にやり方を教えていただき、はじめてその患者さんに対してNIV治療を行なったのです。その結果その患者さんは、今は元気に歩くこともできますし小学校にも通うなど、すっかり生活が変わったほど良くなりました。入院は、今は年に一度の検査入院だけです。あまりにも効果がありましたので、この治療が有効なお子さんがもっといるのではと思い、他の患者さんにも実施してみると、良くなる患者さんが多く、少しずつこの治療をする患者さんの数が増えてきたのです。

患者・家族の不安をなくすために家族会を企画・実施

NIV治療は、現実には病院の中だけでするわけではありません。病気自体が治らないお子さんがほとんどですから、毎日、夜間に自宅で行なうことが多いのです。自宅でその治療を行なっている患者さんが、10人以上になった頃、ちょっと特殊な治療ということもあり、自宅での治療でお子さん本人は調子が良くなっても、お母さんたちが不安を抱えていることに気がつきました。他にそういう治療をしている人がいない、インターネットを見てもあまり情報がないというので、不安に感じたんでしょうね。

そのようなことから、2007年8月に、NIV治療をしている患者・家族を一堂に集める家族会をすることにしました。親同士で情報交換をしてもらい、ネットワークを作ってもらおうと考えたのです。治療をするのは私たちですが、家庭でその子どもに実際に治療した経験はないのですから、私たちにも答えられないことがあります。そのような時は私たちにではなく、お母さんたちのネットワークで対処してもらおうと思ったのです。また、子ども自身にも「これは恥ずかしいことではない、自分だけでなく他の人もやっている」ことを知ってもらいたいと思いました。

会場は近くの教会をお借りしました。その時の参加人数は117名で、患者さん家族は10家族、35名ほど。あとは普通のいわゆる健常児とそのご家族です。
その会では、腹話術をやっている友人に頼んで、あるお芝居を演じてもらいました。最初に腹話術の人形が、「今日は僕の宝物を持ってきたんだ」と箱を持って出てくるのですが、その箱の中には治療で使うマスクが入っているのです。人形は「僕はこれを使っているからこんなに元気なんだよ」と話すんですね。それを見たお子さんが「僕もそれ持ってる」と口々に言いだして、その時の子どもの表情がとても良かったですね。

その後のコンサートでは、西城秀樹のYMCAの振り付けをみんなで真似て、私たちが思っている健常児や障害児といった区別のない世界、みんなが一緒になった世界が出現して、心の底から感動しました。しかし、ふっと逆に怖くなりました。今までこういう光景を見たことがないことのほうがむしろ異常ではないか、と。ノーマライゼーションとか、ユニバーサルなんとかと声高に言うほうが実はおかしいのではないか。これが、私が障害児医療に改めて取組むきっかけとなったのです。

往診でスムーズになったリスクコミュニケーション

障害児は、NIV治療をしても早期に亡くなることがあります。どの人も、だいたい20代かもっと若いうちに亡くなる確率が高いのです。それがいつくるかはわかりません。最終的に、気管内挿管や心臓マッサージをしなくてはいけないかもしれない。その時にどうするかは、親が決断しなければなりません。意識がなくなっても、機械につないで生かし続けるのか、本人に苦痛がない範囲に止めるのかという判断が迫られます。しかし、どちらの選択をしてもきっと後悔します。残されたご家族が「私たちは精一杯のことをやった、病院の先生や看護師さんたちも精一杯やってくれた」と思って生きていけるかどうかだと思います。

私たち医師はそういうことを、ご両親に対してかなり最初の段階から話をしていかなくてはいけないと思うのです。ふつうは言いにくいのです。特に、NIV治療をして元気になったお子さんのご両親に、そういう話をするのはとてもつらいことです。外来で診ている間にも子どもの状態が悪くなって、ご両親に言いにくいことをお伝えしなければいけない時があります。私も以前はそれが難しかったのですが、最近は楽にお話しできるようになりました。

実は、お母さんが働いていたり、母子家庭だったりして、病院に来るのが大変な方もいらっしゃることがわかり、私どもの病院は急性期病院ですから往診はやっていなかったのですが、まずは一人から往診を始めたのです。そのお子さんの家庭に実際にうかがったら、介護の必要なお祖母さんと、患者の妹もいることが分かったりしました。そんなことから、自分たちがもっと患者さん側に近づかないと、本当のニーズが分からないと思って、往診の数を増やしていったのです。

往診を重ねるにつれ、私の患者さんを診る視点が変わってきました。一方的に病院に来てもらっていた時には、私は治療する側、相手は治療を受ける側という意識がどうしても消えませんでした。しかし往診を始めて気付いたのは、立場が逆転するというか、相手は受け入れる側、私は言ってみれば遊びに行く側で、雑談の中でお互いにつらい話の流れになった時は、そういう話がきちんとできる、非常に話がしやすくなったのです。

橋本廸生先生(横浜市立大学教授)が「リスクコミュニケーション」という言葉を使って、リスクは起こったときにどうするかも大切だが、起こる可能性を互いに受け入れて理解しあうことが大切だとおっしゃっていますが、私はたしかにそういうことをしていたのかもしれません。障害児にとって避けられないこと、例えば、さらに障害が進んだり、病気が悪くなったり、最終的には死が避けられないわけですから、それに対していかに一緒に受け入れていくかというところで、家族会を開くような方向に向かっていたのだと思います。

病院の境目なくNIV治療が受けられる環境づくりを目指して

今、私は20名くらい往診をしていますが、小児の在宅医療は遅れています。大人については、国の政策もあってかかりつけ医が増えてきました。しかし、子どもに関しては、10人以上の往診をしている病院は、私どもの病院を入れて4つくらいしかないようで、とにかく少ないです。

小児科医が少ないのに加え、子どもが往診を必要とする場合は、医療度が非常に高かったり、重症度が高かったりします。人工呼吸器をつけている子どもも多く、そういう患者を診ることができる医師は、麻酔科や集中治療室、あるいは救急救命センターなどにいるような医師だったりします。そういう医師はほとんど急性期がメインですから、往診に行くのはどうしても難しいのです。

また、重症度が高いということは、急激に急性期に移行することが多いですから、ふだんその子どもを診ていない先生が診ることになると、病状の把握がたいへん難しいのです。ですから、ふだんから診ているかかりつけ医がいて、プラス病院の先生にも頼むというシームレスな仕組みを作っていかないと、家庭で過ごしている子どものサポートはできないと思います。

私の当面の目標は、今やっていることを拡充することで、そういう患者さんを診ることができる医師を、札幌だけではなく地方も含めて育てたいと思っています。先日も、根室のNIV治療が必要なお子さんのために、私と、理学療法士とで飛行機で根室まで行って治療をしました。そして、その後の治療を考え、3日間ほどそこの看護師さんや先生に指導をしました。そうすればそれぞれの病院で診られるようになります。ですから、当面は啓蒙活動をして、病院の境目のない、どこの病院でもNIV治療が受けられるようにすることを今後の課題として考えています。

私は2回目の家族会の後、私という個人がいなくても、患者さん・家族のネットワークが自立してできることが本当のあり方だと考え、協力はするけれど私自身が企画するというスタンスはとらないことにしました。そして、障害児の親も楽しいことは楽しめるように、やりたいことはやれるような、そういう社会にしたいと思い、大学院で政策や制度についての学びを開始し模索をしているところです。

土畠 智幸 氏
【略歴】

2003年北海道大学医学部卒、同年手稲渓仁会病院小児科研修医。2006年より同スタッフ。2008年より小児NIVセンター長。2009年からは、北海道大学公共政策大学院修士課程にも在籍。
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