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2016/6

より実情に即した介護へ。地域住民と協力して展開する地域密着型通所介護(前編)

高齢者が住み慣れた街で元気に暮らし続けるためには、地域の協力が欠かせません。介護施設が地域と方々と関わりをもち、ともに地域介護をつくりあげていくことが必要です。地域とつくる介護とは、いったいどのようなものなのか、東京都小規模多機能型居宅介護協議会 事務局長の来島みのり氏におうかがいしました。

来島みのり

東京都小規模多機能型居宅介護協議会 事務局長 / 社会福祉法人 マザアス 高齢者福祉総合施設 マザアス日野 副施設長 / 小規模多機能ホームさかえまち 管理者

区市町村のニーズに合わせた通所介護施設へ

2016年4月、介護保険制度の改正により、地域密着型通所介護が創設されました。これにより、利用定員19人未満の小規模な通所介護事業所が地域密着型サービスに位置づけられるようになります。

制度の改正前は、新しく通所介護事業所を設立する際の申請先は、都道府県でした。この審査は法的な条件をクリアしているかどうかを判断するものであり、地域のニーズとは無関係に指定が下りる場合も少なくありませんでした。ある地域では必要以上の施設が乱立した結果、客寄せ競争が生まれてしまうことになりました。客を引き寄せるため、見た目の派手さや娯楽的要素を盛り込むなど、本来の介護保険の目的である自立支援のためのサービスが薄れてしまう施設もありました。
この状態を是正するため、今回の改定で小規模の通所施設はその所在地の住民票を持つ方しか利用できない、地域密着型の形式を取ることになりました。地域密着型施設の開設の審査は都道府県ではなく、施設所在地のそれぞれの区市町村の判断で行います。各区市町村は地域における介護施設の利用ニーズを調査し、開所する場所やサービス内容なども管理。それをもとに施設開設の許可を出すため、地域のニーズにそった施設整備が図られるようになりました。必要なサービスを必要とする利用者へ提供するため、区市町村が主体となって、高齢者の分布やニーズにあわせた施設づくりが展開される予定です。

介護と医療の連携は当たり前に考えられてきましたが、通所介護と地域がどのように連携していくか、という活動はこれまでそれほど多くはありませんでした。しかし、地域密着型介護へ移行したため、今後は地域にねざす通所介護施設としての取り組みを進めていく必要があります。

 

働く場所を愛することが、職員にとっての“地域密着”の第一歩

利用者さんにとって、慣れ親しんだ土地で介護サービスが受けられるのは非常に大きなメリットです。
例えば、地域密着型特養の例を挙げますと、その地域に住む方々のためのサービスが提供されるため、その地域に住民票のある方のみを受け入れることになっています。長く住んだ町であれば、家族や知り合いが近くに住んでいるケースも多いですし、面会率も高く、周囲の人との関係を切らずに暮らしていけるでしょう。通所介護でも、施設に行ったらご友人も同じ施設に通っていた、というケースもあり、モチベーションにもつながるのではないかと期待しています。

利用者さんのメリットをさらに高めるために、施設の職員も地域に生きる一員として住民の皆さんとともに地域介護に取り組んでいくことが重要だと私は考えます。
理想を言えば、その土地に長年住んでいる職員が、地域の方々を介護するのが地域密着型の目指す姿に近いでしょう。地元出身の職員であれば、利用者さんと共通の話題で会話が弾みますし、連携のための施策のアイデアも浮かびやすいはずです。
しかし、特に東京ではその土地に住む職員を見つけ出すのは難しいでしょう。実際、私が3月まで勤務していたマザアス新宿には、新宿区に住む職員はほとんどおらず、区外から出勤する職員が大半でした。
それでも、外から通う職員も、勤務の間だけでもその地域に住む人々と同じように、地域に関心をもつことで、何か見えてくるものがあるかと思います。その地域についてよく知り、介護職員に何が求められているかを探っていくことが必要です。

 

地域全体で高齢者を見守る環境を目指す

地域密着型にサービスが移行しつつあるのは、私たち介護サービスの提供者だけでなく、地域全体で地域の高齢者を見守る環境をつくるためです。利用者さんが今後も生活しやすい環境をつくるために、私たち職員が外に出て、地域の方々と触れ合いながら関係づくりと情報提供を進めていくことが必要です。

例えば、マザアス新宿の近所には、高齢化率5割を超えた団地がありました。高齢者ばかりですから、行事を行おうにも難しい部分も多かったようです。そこで、施設の職員がボランティアとして団地へ出向き、餅つきやお祭りの準備をお手伝いしました。地区協議会の福祉部会のイベントに参加することもありました。
このように地域の一員として協力関係を築いていくのです。その他子ども向けのイベントを施設で開催したり、地域の大学の音楽サークルを招いて演奏会をしたりと、さまざまな活動を行いました。その結果、施設の役割や介護を必要とされる方々への理解が深まったと感じています。

地域とのつながりを作る方法は、イベントごとに留まりません。利用者さんの生活範囲を知り、スーパーやコンビニなどの店舗やサービス施設ともつながりを作っておくことも重要です。利用者さんのご家族の了解を得て、何か起こった時のために利用者さんが生活する地域の店舗に出向き、当施設の連絡先を教えて回ったり、認知症についての情報を提供したりしています。
先日も、当施設の利用者さんが道で転んだ際、近所の方がそれを見つけて施設へ連絡をくださいました。おかげですぐに職員が現場に向かうことができ、大きな事故にならずに済みました。これも、利用者さんに対する理解があり、また私たちの施設を知っていただいいていたからこそ、地域全体でのスムーズな対応が実現したのだと思います。


後編では、地域の方々のご意見をお聞きしながら課題を模索していく、新しい通所施設の在り方についてお伺いします。

来島みのり

東京都小規模多機能型居宅介護協議会 事務局長
社会福祉法人 マザアス 高齢者福祉総合施設 マザアス日野 副施設長
小規模多機能ホームさかえまち 管理者

【略歴】
2003年
特別養護老人ホームマザアス日野入職
2008年
小規模多機能ホームみなみだいら管理者
2011年
小規模多機能ホームさかえまち管理者
2011年
東京都小規模多機能型居宅介護協議会 事務局長
2013年
マザアス新宿 施設長
2016年
マザアス日野 副施設長 小規模多機能ホームさかえまち管理者

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