今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第77回 2009/09

医師不足や在宅医療への貢献が期待される診療看護師

深刻な医師不足に加え、超高齢社会でますます増加が予測される在宅医療。都市部はまだしも、周辺部や過疎地域での医療が心配です。このような状況を解決し、看護職の地位を高め魅力的な職業としていくためにも、ナースプラクティクショナー(診療看護師)が必要と、その養成と特区の申請に取り組む草間朋子さんにおうかがいしました。

公立大学法人大分県立看護科学大学 学長
日本看護協会 副会長
医学博士
草間 朋子 氏

大分県立看護科学大学
日本看護協会

諸外国で活躍するナースプラクティショナー

ナースプラクティショナー(Nurse Practitioner、以下NPと略)は、大学院で専門的な教育を受け、症状が安定した状態にある患者を主体に、自律的に問診や検査の依頼、処方等を行なうことを認められた看護師のことを言います。日本では制度としてまだ認められていないのですが、諸外国では既に多くのNPが活躍をしています。

NPという制度は、1965年にアメリカのコロラド州で始められました。アメリカではその頃、メディケアやメディエイドなどの、高齢者や貧困層を対象とした保険制度が導入されたのですが、医師が不足していたため、対象者に医療が行き届きませんでした。特に小児科領域の医師不足が深刻だったため、看護師さんの中で優秀な方が診療的なことをやりはじめたのが最初です。

その後このようなやり方は、もっと多くの領域で必要だということで、家族や救急、女性、高齢者を対象としたNPなど、現在は11領域あり、既に14万人が働いています。当初、アメリカのNPはコロラド大学で一定の教育を受けた人がなっていました。今は、州によって若干違いますが、大学院できっちり教育する形になっていて、特にプライマリ・ケアについてはNPが担当し、必要な場合はお薬も処方できるようになっています。 

イギリスでは、ディスクライブドナース、処方看護師と呼んでいますが、日本でいう保健師のように、地域をカバーする看護師さんが、単にケアするだけではなく、限定的なお薬の処方をすることによって地方の方たちも平等に医療が受けられるようになっています。

フランスでは家庭看護師という形で、やはり処方権を持っています。韓国では、1981年頃、保健診療員という制度ができました。韓国は人口の25%くらいがソウルに集まっており、その周辺地域には医療が十分に行き届いていませんでした。そこで、保健診療員という制度を作り、特に農村や漁村の医師がいないようなところでは、簡単なケガの処置やお薬が処方できるようになって、24時間診療を行なっています。保健診療員の資格を得るには、看護師が半年間教育を受ければよいのですが、2003年からはアメリカなどに合わせて、大学院でNPの教育を開始して資格を与えています。

NP=診療看護師の出現で期待されること

ナースプラクティショナーという言葉が、一般の方にとってわかりにくいと思い、「診療看護師」という呼び名を提唱しています。私どもの大学院では2008年から、修士課程に、看護師の資格を持ち5年以上の経験を積んだ人を対象とした、NP=診療看護師の養成コースを設けました。症状が安定している患者さんに対して、しっかりお話しを聞き、健康状態を把握しながら生活指導や健康指導を行い、必要な場合にはお薬も出せるようにすることが目的です。

医師の診療行為は、昔は聴診器をあてたり脚の反射を調べたり簡単な血液検査を行なうくらいでした。今は遺伝子治療、臓器移植など、ここ10数年の間に診断技術も治療技術も非常に高度化しています。ですから、簡単な診断や治療に関しては専門の教育を受けた看護師に任せて、医師は医師にしかできない、たとえば内視鏡治療や高度な画像診断などに専念すれば、医師不足による問題もある程度解消できるのではないかと思います。特に、生活習慣病と言われる高血圧や糖尿病の方が60%以上なわけですから、そういう方たちに関してはお薬を処方するというよりは生活指導をしたり、健康教育をするほうが大事ですし、お薬も決まっている場合が多いですから。

NPであれば、患者さんはゆっくりと時間をかけて話を聞いてもらえます。実際にアメリカでNPの診察を観てきたのですが、足の反射を観たり、糖尿病の患者さんなら靴下を脱がせて壊疽が起こっていないどうかを観たり、本当に昔のお医者さんがやっていたように診ています。患者さんにしてみれば満足度が高いですよね。

それから、開業医や病院のリモートエリア支援室のようなところとNPとの連携で、十分に医療が行き届かない地域の方たちも、安心して24時間体制で医療が受けられるようになると考えています。

特区に期待する診療看護師の役割

「クローズアップ現代」で、私たちが申請している特区について取り上げられましたが、その際紹介されていたように、今は看護師が在宅訪問して、褥瘡のある患者さんに、外用薬をつけてドレッシング剤を貼れば湿潤状態を保てて悪化が防げると思ってもできません。外用薬もドレッシング剤も「処方」ということになり、医師でないと出せないのです。在宅診療が今後ますます増加していく中で、このような状況は患者さんにとってもたいへん不幸なことだと思います。

大分県内には医療の十分行き届かない地域があります。私たちはそのような地域の方も平等に医療が受けられ、在宅診療も十分受けられるよう、大分岡病院とともに、NP特区を申請しています。
申請している特区では、重症度の高い褥瘡は別として、少なくとも軽度のものに関しては診療看護師が診て、外用薬やドレッシング剤が必要だということであれば自分たちの判断で出せる。あるいは、高血圧の患者さんに対しても、この方には血液検査が必要だとか、レントゲン検査をしようなどと、自分たちで検査のオーダーを出すことができる、などとかなり細かく具体的な形で提案をさせていただきました。

大分岡病院の医師と一緒に相談しながら作成した手順に従って、少なくとも限定的な診断と処方は、きっちり教育を受けた診療看護師には認めてくださいとお願いしているわけです。岡病院の先生方も、これだけのことをやってもらえると助かるとおっしゃっています。

広がるNP教育、国内での動き

私どもでは、慢性期の患者さんを対象にしたNPを養成しています。今年は、国際医療福祉大学でも同じような動きがあり、慢性期の患者さんを対象に、高血圧や糖尿病といった診断がついている患者さんには二度目以降、再診の患者さんに対しては診療看護師が診て、必要があれば処方もできるようなNPを育てようとしています。また、来年は国立病院機構が東京に大学と大学院を作るのですが、急性期の患者さんを対象にした診療看護師を養成しようとしています。

急性期の患者さんを対象にした診療看護師はイメージしにくいと思いますが、救急外来は今、コンビニ化していると言われるくらい、軽症の人から重症の人までいろいろいます。ですから救急外来に来た患者さんを、NPがアセスメントをし、この患者さんは私たちが処置できます、この患者さんは専門の先生に診ていただかないといけませんと、ふりわけをすれば、救急外来も待ち時間がなく動かせます。国立病院機構は、このような救急外来をカバーできるNPを育てるということで、来年からスタートします。

そういう意味では、私どもが慢性期、東京が急性期を作りますので、診療看護師はいろいろの分野を扱えることを分かっていただけると思います。

法的に保証された診療看護師の実現を目指す

現在の法律で、看護師が医師の指示なしでできることは、療養上のお世話に限られています。しかし現場では医師が足りませんから、救急のナースはもちろん、薬物の処方も、夜中に急に下痢や嘔吐を訴える患者さんには、やっているという現実があり、「特区で出さなくてもやれていますよ」と言われることがあります。しかし、「やれている」ということと「やってよい」ということは違います。「やれている」のでは、責任を持って患者さんに安全を提供できますか、ということなのです。

私たちが主張しているのは、患者さんの安全・安心を考えれば、アメリカや韓国など他の国と同様、きちんと特定の教育を受けた人が責任を持ってやるべきだということです。特定の教育を受けた人に限定すること、慢性的な症状や軽いものに関しては、医師の直接的な指示を受けなくても診療看護師の判断でできるようにすること。これは看護職が、責任を持って自分で自分の行為を規制する、「自律」という点でも大事なことだと思いますし、キャリアアップの機会になると思っています。

医療を支えるのは医師と看護師です。医師がどんなに優秀でも看護師が優秀でなければ良い医療はできません。看護教育が高度化し看護大学や大学院が増加した中で、4年教育を受けてさらに2年間の修士まで教育を受けた人たちが、常に医師の指示がなければ働けないというのではなく、自律し、何らかの付加価値が付かなければ、看護職が魅力的な職業であり続けることはできないでしょう。看護師を魅力的な職業にしておかなければ、18歳人口が減少していく中で、やる気のある優秀な若い人たちが看護の分野に来なくなってしまうと思います。看護教育がこれだけ高度化してきている今、法的に保証された新たな診療看護師が実現するよう、看護界は力を合わせていくべきだと思っています。

草間 朋子 氏
【略歴】

東京大学医学部助手、助教授、同大大学院助教授を経て1998年より現職。医学博士。
【社会的活動など】
文部科学省放射線審議会委員、内閣府中央防災会議専門委員等の公職を歴任し、現在、原子力安全委員会専門委員等を務める。
【主な著書】
『あなたと患者のための放射線防護Q&A』(医療の科学社)
『放射線防護マニュアル-安全な放射線診断・治療を求めて』(日本医事新報社)
『放射線防護の基礎』(共著)(日刊工業新聞社)
『放射線健康科学』(共著)(杏林書院)
『看護実践に役立つ放射線の基礎知識』(共著)(医学書院)
など、放射線に関する著書多数。
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