今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第162回 2016/10

がん患者の苦痛をやわらげる漢方。 東西両医学を併用したがん研有明病院の最新がん治療(後編)

がん治療において、がんおよび治療に伴うさまざまな症状の緩和は、非常に大きな課題です。わが国で最先端のがん治療を行うがん研有明病院では、10年以上前に漢方サポート外来が開設され、漢方薬で症状を緩和し、QOLの高いがん治療が行われています。西洋医学と漢方医学を併用したがん治療の現状と今後の展開について、漢方サポート科部長の星野惠津夫さんにお話をうかがいました。

がん研有明病院
漢方サポート科部長
星野 惠津夫 氏

がん研有明病院

がんの漢方治療が進まない理由は漢方診療医の経験不足

前編はこちら

がん治療に高い効果をもつ漢方ですが、残念ながらがん患者に積極的には用いられていません。なぜなら、がん患者の診療経験のある漢方診療医が極めて少なく、そのメリットを活かせないからです。
 
漢方は極めて応用範囲の広い臨床医学ですが、漢方薬が充分効果を発揮させるためには、目の前の患者にどのような漢方薬が最適かを正しく判断するための知識と技術が必要です。しかしそれは医科大学では充分教えられていないのです。
 
わが国では2002年から、医学教育のコア・カリキュラムに「和漢薬を概説できること」という一文が盛り込まれ、すべての医科大学で医学生に漢方が教えられるようになりました。しかし実際には、そのための授業時間は8時間程度にすぎません。さらに、卒後の臨床医学教育で、漢方の指導を受けられる機会も少ないのです。
 
わが国には日本東洋医学会認定の漢方専門医が2,000人ほど登録されています。しかし、その中で多くのがん患者を漢方で治療している医師は極めて少数です。がん患者が年々増加しているわが国では、今後がん患者を的確に治療できる漢方診療医を養成する必要があります。

がん患者の漢方診療における看護師の役割


患者のニーズを最もよく理解している看護師に、漢方医学についてある程度の知識があると、闘病中のがん患者の有するさまざまな症状を緩和し、QOLを高め、がんとの共存による延命、時には治癒をもたらすことが可能となります。
 
漢方薬の処方は医師が行いますが、漢方治療が有効な患者の発見や拾い上げは看護師の仕事です。どのような場合に漢方治療が有効で、どのような症状が漢方でよくなるかを知っておくといいのです。看護師が医師へ報告したり、診療カンファランスなどで患者の状態を検討する際に、西洋医学・東洋医学を問わず、患者に有用な治療法を提案することで、患者が救われることは少なくありません。

また、すでに漢方薬を服用している患者については、患者の状態の変化から、その副作用を早期に発見し、速やかに医師に報告することで、重大な結果を回避できますので、漢方薬の適正使用に貢献できます。
例えば、漢方薬の副作用には、かゆみ・発疹などの皮膚症状、下痢・便秘・胃の不快感などの消化器症状、高血圧・浮腫・低カリウム血症などの「偽アルドステロン症」、動悸や不整脈などの心症状、さらに重大なものとして薬剤性肝炎や間質性肺炎などがあります。これらの症状がみられた時には、副作用の可能性が高く、漢方薬の中止や変更を行う必要があるため、速やかに医師に報告します。これは、わずかな変化を見つけることのできる看護師の責務です。看護師の迅速な対応が患者を救うのです。

がん患者に役立つ「統合医療モール」の構想

QOLを高く保ちつつ治療を受けたいというがん患者のニーズは、西洋医学だけで満たすことはできません。その場合、漢方治療を中心とする統合医療は、たいへん役に立つのです。
 
理想は、全国のがん拠点病院や大学病院の中に、漢方診療ができる医師がオーガナイズする患者サポート部門を設けることです。米国ではほとんどのがん専門病院に、このような役割を果たす補完代替医療部門があります。
がん患者のさまざまな症状を緩和し、がんとの共存や価値ある延命を可能にし、主治医に匙を投げられたがん患者の最後の駆け込み寺となる部門が、がん拠点病院や大学病院には必要なのです。
 
漢方はがん患者に極めて有用ですが、実は漢方以外にも役に立つ治療法はたくさんあります。例えば、鍼灸・温熱・免疫・抗がん生薬・ヨーガなど、さまざまな補完的治療法があります。その中から、効果があり、副作用が少なく、標準的がん治療に悪影響を与えず、費用対効果の高い治療法を提供する施設の集まる医療モールが、大学病院やがん拠点病院の近くに開設されることが望まれます。西洋医学の治療と並行して、補完的治療を行い、よりよい医療サービスを提供していきます。それがわが国からがん難民をなくす方法です。英国にはこのような医療モールが数多く存在します。
 
がんのように病態が複雑な疾患は、西洋医学のみでは充分に対応できないため、患者にさまざまな問題が生じます。私は漢方を中心とする古今東西のさまざまな医療を駆使することによってそれらを解決し、がん患者によりよい治療を提供したいと考えています。

がん研有明病院
漢方サポート科部長
星野 惠津夫氏

【略歴】
1979年 東京大学医学部卒業
1984年 東京大学 第1内科助手
1986年 トロント大学 消化器科リサーチフェロー
2006年 がん研有明病院内に漢方サポート外来を設立
2009年 がん研有明病院消化器内科部長
 
【資格】
聖マリアンナ医科大学臨床教授
米国消化器病学会(AGA)フェロー
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