インタビューアーカイブ

2016/11

患者の栄養状態を守る「NST看護師」の役割(後編)

医師・看護師・管理栄養士・薬剤師などの多職種が協同し、患者さんの栄養をサポートする「NST (Nutrition Support Team)」。患者さんに一番近く、小さな変化を最も早く見つけることができる看護師は、栄養管理においても重要な役割を果たしている。しかし、その活躍には大きな壁もあるという。NST看護師の置かれた今の真実、そして明るい未来への可能性について、日本静脈経腸栄養学会看護師部会部会長の矢吹浩子さんにお話をうかがいました。

矢吹 浩子

一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会 看護師部会 部会長 / 医療法人 明和病院 看護部長

各職種が専門性を発揮することがNSTの底上げに

前編では、「医師の理解不足・協力不足」がNST発展の大きな壁の一つとお伝えしましたが、そのように申し上げても、医師の言い分も理解しています。以前、ある外科医に「患者さんにとって栄養管理が大切なことはわかっているけれど、私たちが最も力を入れたいのは治療なんだよ」と言われたことがあります。私は深く納得したことを覚えています。

医療従事者には、医師には医師の、看護師には看護師の専門領域があり、役割があります。それぞれの場面で専門性を発揮することが患者さんのためにもなる……そのように考えますと、医師には疾患の治療に最大限の力を注いでいただき、栄養管理など治療の周辺についてはNSTをはじめとする医療チームの力をどんどん活用していただくことが、最適な診療となり、ひいてはチーム力の底上げにもなるのではないかと考えます。

 

「安楽」「安心」を提供することがNST看護師の役割

では、栄養管理における看護師の専門性とは何でしょうか。この点については、長年の間、議論が続けられてきており、未だに定義づけることはできていません。しかし私は、看護師の原点に立ち返ることでこの答えが見えてくるのではないかと考えています。

24時間365日、患者さんのそばに寄り添っている看護師だからこそわかる患者さんの小さな変化があります。その変化を見逃さず、いち早い対応で患者さんの不安や苦痛をとりのぞくことが看護師の生業であり、つまりは患者さんに「安楽」と「安心」を提供することが私たちの原点であり使命です。この点が、管理栄養士や薬剤師などほかのどの職種にも行え得ない、看護師の専門性と言えるのではないかと思います。

具体的にお話ししますと、たとえば栄養療法には合併症などのリスクが伴います。身体症状に表れるのを最初に見つけ、できるだけ早く正しい対処で患者さんに「安楽」を与えることができるのは看護師です。「安心」という点においても同じです。たとえば体重の減少や筋肉の痩せなどの自覚症状に不安を感じる患者さんに対して、言葉のケアで心細さをやわらげることもできますし、摂取エネルギーやタンパク質量を見直して摂取量を増やすための具体的な改善提案をすることもできます。

 

具体的な症例を学ぶことがNST看護師の知識を深める

栄養管理において看護師の専門性を発揮するためには、栄養療法の知識をしっかりと身に付ける必要があります。現在の栄養状態だとどういうことが起きるのか、今表れている症状の原因は疾患か、薬剤か、もしくは栄養管理上にあるか……。こういったことを的確に判断できる知識をもって、患者さんの些細な変化にも対応しなければなりません。

ところが前回も申し上げたように、看護師は基礎教育課程では生化学や代謝栄養学などを深く学ぶことができません。そのため、臨床現場で学ぶしか方法がありませんが、仕事をしながらでは実際には難しいのが現状です。ですから、自らの学習やNSTの勉強会などを通じて、知識を深めていただく必要があります。

私が地域に広げて運営しているNST看護師の勉強会では、一つの症例をとことんかみ砕いていきながらデータを読み解き、そこから推察されることを考えていく方法で、学びを深めています。ある意味OJTのような方法なのですが、看護師の性質を考えますと、このようなやり方が一番知識を身に付けることができるのではないかと思っています。

 

さらに成長を続けるNST看護師

これまで、NST看護師が置かれた厳しい現状をありのままにお伝えしてきましたが、何も暗い話題だけではありません。2015年、兵庫県の看護協会で行われたフォローアップ研修に参加したNST看護師たちからは、病院や医師などに対する不平不満ではなく、活発な活動状況を報告する声を多く聞くことができました。

「回診のときに積極的に発言をしている」「患者さんがご自宅に帰るために最適な方法を考えている」「患者家族の気持ちを反映させた栄養管理計画を立てられるように、カンファレンスで発言している」など、NST看護師たちの大きな成長を感じられる意見がたくさんあがりました。「知識があっても現場で活用できない」……という不満が多かったころに比べますと、大きな飛躍と言ってもよいと思います。彼女たちの姿に、私は心から感動しましたし、これからの発展に大きな光を感じました。

私たちには揺るがない目標があります。それは、NST看護師がさらなる活躍の場を広げ、NST看護師を中心にあらゆる看護師が日常的に臨床栄養管理をできるようになることです。これからの高齢社会に向けて医療の充実を図るためには、高度なNSTの活動が確実に必要です。越えなければならない山は高いですが、これからも全国にたくさんのNST看護師を輩出し、活躍できるように環境を整え、栄養管理の質を追究するとともに、患者とそのご家族、地域の人々に幸せを提供できるよう努めていきたいと思います。

矢吹 浩子

一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会 看護師部会 部会長
​医療法人明和病院 看護部長

【略歴】
慶応義塾大学医学部附属厚生女子学院卒業
慶応大学病院で勤務後、2009年まで兵庫医科大学病院
2009年
医療法人明和病院副看護部長
2012年
同院看護部長

日本静脈経腸栄養学会理事、
日本静脈経腸栄養学会看護師部会部会長
日本静脈経腸栄養学会近畿支部会世話人
関西栄養管理技術研究会代表世話人
近畿輸液・栄養研究会世話人

<著書>
『胃ろう(PEG)ケアと栄養剤投与法』
『ココが知りたい栄養ケア』

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