今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第83回 2010/03

心身一如の治療を目指して

副作用の少ないがん治療として知名度が高まってきた免疫細胞治療・瀬田クリニックグループ。グループの一つである「瀬田クリニック新横浜」に「がん患者さんの日常時間の割合をなるべく多くする」をコンセプトに、ユニークな「がんケア・リハビリセンタークリニック」が立ち上げられました。今回は発案者の一人である三橋歩(みつはし あゆみ)さんに、その目的やケアの内容などについておうかがいしました。

医療法人社団 滉志会 瀬田クリニック新横浜
がんケア・リハビリセンタークリニック
理事・看護部長
三橋 歩 氏

瀬田クリニックグループ

がん難民の生まれる背景

私どもは、免疫細胞治療を専門に行っているクリニックですので、必然的にがん患者さん専門のクリニックとなっています。免疫細胞治療を求めてこられる患者さんは、いくつかのパターンに分かれています。主治医の提唱する治療がもう適応できなくなり、「あなたにできる治療はもうない」と言われた人、ネットなどで知って来られる人、主治医の治療と併用して治療をする人、がんの告知を受けたあと手術までの期間に何もしないのが不安で来られる人、再発予防目的の方などです。

免疫細胞治療までたどりつく患者さんは年々増えています。医療全体としてみると、患者さんが求める治療が選択できないということは、多くの問題を含んでいると思います。つまり、病院で「あなたの治療のメニューがもうありません」と言われることは、主治医とその病院の治療内容、国が定めている保険診療の内容などからあぶれた人が、病気は続いているのに何もできないことを意味します。
つい昨日まで主治医で、治療のことを相談していた人から、突然「もうやることがない、緩和病棟を探しなさい」、と言われてしまう。そういうことが実はたくさんあります。いわゆる「がん難民」というような環境に陥るのです。

緩和医療に対する正しい理解が必要

そもそも緩和医療とは、やることがなくなったから行なう医療ではありません。しかし、日本では、緩和病棟を含め緩和医療に対する認識がまだまだ個々の医師によって差があるのが現状で、患者さんにしばしばそのような間違った認識を与えてしまうことがあるのは残念なことです。

基本的にがん告知を受けた段階で、緩和医療はみんなが通過する治療の過程として位置づけされていれば、患者さんも家族もいたずらに恐怖心が募るようなことは起こらないと思います。それが、主治医から突然「あなたは緩和医療に入ったほうがいいですよ」と言われると、死の刻印を押された気がして、「私は順番を待つだけなのだ」という響きを与えてしまいます。
これまでいろいろながん患者さんを通して私が強く感じてきたことは、医師の言葉一つで、患者さんに残された時間が、すごく簡単に短縮されてしまうことがあるということです。

がん告知をされた時、ご家族もそうですが、患者さんの心の衝撃は経験しない人にはわかりません。患者さんは、自分にどういった身体的変化が訪れるかを考えて眠れなくなったりします。そうすると自律神経のバランスが崩れたり、消化管の分泌物系のバランスも崩れます。そして胃の粘膜が弱ると、食べられなくなります。眠っている姿勢を見ると同じ姿勢でいたり。痛みがあるとなおさらです。ずっと同じ姿勢をとらなければならなかったり、身体に力が入った状態が続いたり、今度は背中全体のコリがひどくなります。何をとっても悪循環になるのです。

部分ではなく人間としての体の治療を

人の体には、「一つの身体の中で」そういった変化が訪れるのです。がんができたことがわかり、それによってショックを受けたり考えたりすることで、身体的な変化が一体の中ですべて起こるのです。しかし、今の治療は部分的な治療に特化しています。他科との連携をとった医療体制も少しずつ始まりましたが、一人の体を全部まるごと見てくれるのはどこですか、と思ってしまうのが現状です。

その病状ごとに放射線治療をしたり、化学療法をしたりしますが、食欲がない、胃が痛い、と言うとそれだけを緩和する薬を出されて、どんどん薬が増えていきます。他科を併診するととてもたくさんの薬を飲むことになりますが、その薬は一体でぜんぶ飲むわけです。私はがん患者さんを間近に看ていて、「このようなたくさんの薬の副作用をコントロールしたり、ここがこうなったからこの薬は減らそうなどということは誰がやるの」と思う日々でした。

化学療法も放射線療法も、治癒または日常生活の維持改善を目指しています。しかし、全部ぶつぎりでやるため、その治療による副作用のやり場がどこにもなかったのです。そこで私たちは、患者さんお一人おひとりを身体の部分・病気だけを見ず、体全体を心のかよった一つの身体としてケアしたいと思い、その理想形としてのクリニックを目指しています。がんやその治療により発生するリンパ浮腫、疼痛、心理的不安を抱える多くの患者さんに対して、がん専門医の診断のもと、経験豊富な各診療科目ごとの専門家や専任施術師が本格的に時間をかけてケアできるクリニックを考えたわけです。

患者さんの一番の苦痛を取り除くことから

がん患者さんを毎日ケアするのは奥さんやご主人だったりします。その人たちも、自分の日常生活プラス介護を必要とする人の分まで健全な身体でなければ、そうそうできるものではありません。介護している人の心の不安も取り除かなければならないし、お金の問題も出てきます。
考えているだけでは物事が進みませんから、その中でも患者さんの一番苦痛となっている部分を一つでも解決できればとても大きく変わるような気がするのです。そのとっかかりとして、心のケアを始めました。臨床心理士の先生にご参加いただいて治療に入ってもらい、点滴をしながらお話をしてもらったり、時にはご家族に再度来院してもらってカウンセリングをしたり、それを看護に結びつけて改善できないか、と思っています。手ごたえはあります。こうしたことは短期間でがらりと変わることではありませんが、口に出して話すということは患者さん本人にとっても心の整理ができますから、前向きに取組むことができるようになります。

それと、リンパドレナージュという複合的理学療法の手法でドレナージュをし、改善を目指したいと思いました。リンパ浮腫がとれるだけで、動かせなかった腕や足も動かせるようになりますから、かなり日常生活の幅が広がるのです。リンパ浮腫に陥ってしまい、家で一人で悶々としている方など、出来るだけ多くの方に、「ここで改善できますよ」ということをお知らせしたいですね。いろいろな治療場所があると思いますが、来ていただいてご自身で選んでいただきたいと思っています。

リンパ浮腫の場合は、私どもでは医師がリンパ浮腫であることを診断して、セラピストにどういった方法をとるかという指示を出して、熟練した施術士が対応しています。リンパ浮腫に関するセミナーも行っていますので、そういう場で施術をする先生の手に実際に触ってみるのもいいと思いますね。ドレナージュ自体は医師の診断がなければできませんが、タッチングは体験できます。思っているよりもソフトなタッチであることや、実際にここにきたらこの人たちがやるのだということがわかり、お話もできますから安心できると思います。

痛みが出る人や、痛みが出る前でも不安が強かったり、食事がとれなくなったり、そういった人たちには個人差はありますが鍼灸もかなり効果的です。全身のバランスを整えられることにもなります。鍼灸によって症状が改善し、例えば抗がん剤治療をどれだけ続けることができるか、副作用はどのように変わるのかなどは、これから評価していきたいと思います。

長い治療期間を前向きに捉えるということ

一概にはいえませんが、心臓・血管や脳の病気・事故などと違って、がんは告知をされてから時間をかけて治療を行います。神様はちゃんと考えているのかなと思ったり、逆にちょっと酷だと思ったりもするところです。治療期間があり、治療の方法もたくさんありますし、本人も家族も悩む時間がたくさんあります。これはぜひ前向きに捉えてほしいと思います。

これから治療を受けるのでしたら、できるだけ良い全身状態で治療に望んでほしい。そのサポートケアをやりたいですし、リンパ浮腫が起こってそこさえ解決できればという場合には、ここでリンパドレナージュができます。がんは、治療後何年も不安を抱えていくのですから、その中で何年か後に浮腫が出たらと思う人にも来てほしいですね。

問題は、こうしたケアの場合、健康保険がきかないことです。ですから私たちも、やれる範囲で何ができるだろうかと常に考えています。カウンセリングはまだまだ敷居が高いのでしょうか。鍼灸は怖いと言う人もいます。でも、やる価値はあると思います。一度やって相性がよければコンスタントに受ける人もいます。まずは体験してみてほしいですね。
やることがあり過ぎるのですが、患者さんの体を精神の宿った一人の身体と考え治療していくためには、私たちだけでできないところは他の機関にお願いするなど、幅広いネットワークを作ってカバーしながらできないかな、と考えているところです。

三橋 歩 氏
【略歴】

2001年10月:瀬田クリニック開設2年後に新横浜メディカルクリニック開設に際し、看護職として参画。
(現:医療法人 滉志会 瀬田クリニック新横浜)看護師長を経て、現在看護部長
【役職等】
医療法人社団 滉志会 瀬田クリニック  理事
医療法人社団 滉志会 瀬田クリニック  看護部長
【その他の活動など】
リスクマネージメント協会 会員
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