Archive

小林光恵さんのこちら、ナース休憩室別館小林光恵(こばやしみつえ)プロフィール

こんにちは、小林光恵です。
皆さんとナース休憩室で
雑談しているときのような気持ちで、
つれづれに書いていきたいと思っています。

第10回 目覚まし代わり 2005/3
dotline

 ナースの春美さんは「家族の起こし方」について最近思うところがあったそうです。ちなみに、身体を起こすのほうではなく、目覚めるように声をかけたりするほうの起こし方です。
 春美さんの家族は、ご主人と中学一年の長男と小学六年の次男です。
「気がつけばね、三人とも、私を目覚まし代わりにしてるの。それも、それぞれが、偉そうに<明日は○時に起こして>って私に命令するわけ」
 ご主人は出張が多いため家を出る時間がまちまちで、長男は部活でサッカーをやっており試合や朝練などでやはり出る時間がいろいろだそう。次男は、何かの当番の日には少し早めに出るのだとか。そのため、毎朝、三人に頼まれたそれぞれの時間に起こさなければならないというのです。
「私だって病院の外来で常勤で仕事しているんだし、朝の食事の支度とお弁当もでしょ。私が毎朝毎朝、時間勝負できりきり舞いしているのをわかってて、それでも起こしてと頼む神経がわからない! それになかなか起きないのよ、これが。台所からみんなが寝ている二階に向かって毎朝、名前を叫んでたら喉が枯れちゃったわよ。それでね、相手がそうくるならっていう感じでこっちも容赦ない起こし方にしたの」
 頼まれたそれぞれの時間に、ご主人の耳元で大声で「起きろ!」と言って起こし、長男の掛け布団を一気にはがし、次男の両肩を持って揺り動かすのだそうです。
「でも、起こし方が過激になるにつれてさ、朝のムードがとても嫌なものになってきたのよ。みんな不機嫌でさ…。何時に帰るとか、お互いの連絡事項も伝えずに出かけちゃったりしてね。もっとやさしく起こしてやれば、嫌なムードにもならないのだろうけど、時間的にも気分的にも余裕ないし。一人に一個持ってる目覚まし時計を使ってくれればいいのに…って、なんだか情けなくなっちゃって、こないだは、朝の味噌汁作っているとき、急に泣けてきちゃってね」

 以前、春美さんから、患者さんの起こし方にかんする配慮について聞いたことがありました。患者さんによって嫌な起こされ方があるから、彼女は、あらかじめ患者さんにどんな起こされ方がいいか尋ねておいて、それを実行するとのことでした。声をかけられるとびくりとするから目が覚めたときに気分不快になる人、急に布団の上から揺すられたり肩に触れられたりすることでびくりとする人、といろいろらしいのです。布団の上からそっとタッチされるのを希望する方が多かったそうです。私は、病棟に勤務していた際、早朝に採血のために患者さんを起こすとき、眠そうな患者さんたちを起こすのが申し訳なくて、蚊の鳴くような声で呼びかけたものですが、患者さんに起こされ方の希望を尋ねたことはありませんでした。
 起こし方について、それだけこだわりのあった春美さんです。家族の起こし方も配慮していたに違いありません。その春美さんが過激な起こし方になっているのですから、相当ストレスがたまっていたのでしょう。
「で、ある朝、ちゃんと時間に起こしたのに、二度寝しちゃったらしくて、長男があわてて台所に降りてきて、私にぶつぶつ文句言ったの。それで私、<もう起こしてやらない>って言ったら、<それなら、セットしておけば時間になったら上半身が自動的に起こされる自動起床装置を買ってくれよ>なんて言い返されて、私、プチって切れちゃって」
 春美さんは、その夜、自宅に帰らず、実家に帰ってしまったそうです。
「ひととおり、がーっと母親にそのことを愚痴ったのよ。そしたら、話を聞き終えた母が、急に笑い出したの。春美だって学生時代はそうだった、偉そうに<明日○時に起こして>って毎日言ってたって…。なんだかバツが悪くなっちゃった」
 春美さんは翌朝、久しぶりにお母さんに起こしてもらって、出勤したそうです。春美さんが寝ている実家の二階の部屋に向かって、台所から「春美、春美」と呼ばれる声に心が解けとても落ち着いた気持ちになったそうです。
 翌朝から春美さんは、以前のように穏やかにやさしく家族を起こすことにしたそうです。すると家族も素直にさっと起き上がり、朝のムードがとても和やかになったのだそうです。

ページの先頭へ戻る