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小林光恵さんのこちら、ナース休憩室別館小林光恵(こばやしみつえ)プロフィール

こんにちは、小林光恵です。
皆さんとナース休憩室で
雑談しているときのような気持ちで、
つれづれに書いていきたいと思っています。

第14回 ラジオの不思議 2005/7
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 5月12日の看護の日に京都で「FM 看護系★ナイト」というラジオ番組がスタートしました。たぶん日本初の、現役ナースによる企画・出演番組です。"看護の日を国民の休日に"と題したコーナーや、入院患者さんの電話出演などなど、たのしい構成です。実は私は、この番組内にワンコーナーをいただき、毎回、電話出演しています。「看護と音楽」をテーマに、退院の場面で思い浮かんだ唄や音楽を、ナースや患者経験のある方に取材して、その結果を報告したりしています。インターネットでも聴くことが可能なようなので、ぜひ聴いてみてほしいです。第2、第4木曜日、16時~16時半。FM79.7メガヘルツ。 京都三条ラジオカフェ

 以上のラジオ番組の企画を聞いたとき、ある患者さんにかんする古い記憶が急に蘇ってきました。
 50代の女性患者Aさん。ある日、検温に行った私に、ラジオのイヤホンを耳から外しながらこう言いました。
「ラジオって、話し声や歌がすごく身近に感じられるのよね。テレビのほうがリアルに姿や動きが見えて身近に感じられそうなんだけど、違うの、ラジオのほうがうんと身近なの。ラジオって不思議ね」
 テレビは、距離ある向こう側での出来事という気がしますが、ラジオの場合違います。イメージの仕方によっては、すぐ隣でDJが話しているようにも思えるし、ラジオドラマなどでは、ドアをノックする音や足音、激しい雨音によって、まるでドラマの中に自分がいるような感覚にさせられることがあります。私は、あるDJが「ほら、あなたのうしろにいるよ。誰なのか、人が立っているよ」と語りかけるように言ったときに、人などいるわけがないのに思わず振り返ってしまったこともありました。
 Aさんは、物静かで、ときどき寂しげな表情をする女性でした。ほとんどの患者さんがテレビをリースしていましたが、彼女はそうせず、ベッドの上に姿勢よく座り、パジャマの上によもぎ色のカーディガンを羽織り、イヤホンをしていつもラジオを聴いていました。Aさんが、脈をはかり終えた私に言いました。

「ねえ、ラジオ番組にリクエストしたことある?」
「一度だけあります」
「かけてもらえた?」
「いいえ」
「やっぱりねえ。リクエストする人がすごく多いだろうから、めったにかけてもらえないものよね」
「でも、かけてもらえる人は確実にいるわけです。可能性がないとは言えませんよ」
「でも、すごく確立が低いでしょ」
「リクエストなさりたいんですね。ハガキなら、ロビーのところにあるポストに私がお出しますよ」
 Aさんは、病状により、担当医から「病棟のみ歩行可」と行動範囲を制限されていました。
「うーん、でもねえ」Aさんは俯いて、首を傾げ、少女のようにもじもじします。
「もしかして誰かに曲を贈るリクエストですか? どなたに? どんな曲? どんなメッセージつけるんですか?」
 つい、聞いてしまいました。
「ひ・み・つ」
「ごめんなさい、立ち入ったことを」
 Aさんは、顔をあげて「いいえ」とにっこり。
 いつも面会にみえているご主人に贈るためのリクエストかも。私は勝手に想像し「私、いつでもハガキ出しますので、そのときはおっしゃってくださいね」と言いました。
 その翌日、Aさんは私にリクエストハガキを託したのです。50枚はあろうという束。Aさんは言いました。
「どうしてもかけてほしくて、何枚も同じハガキ書いちゃったの。どうしても……親友にある曲を贈りたいのね、どうしても。ラジオって不思議でしょ、故人にさえも音が届くような気がするのよ。もうすぐ親友の一周忌なの」
 そのハガキは、たしかにロビーのところのポストに投函しました。
 その後まもなくAさんは別の病棟に移ってしまい、リクエスト曲をかけてもらえたかどうかわからないままとなってしまいましたが、<その曲はかけられたに違いない>となんの根拠もなく確信したのを覚えています。

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