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小林光恵さんのこちら、ナース休憩室別館小林光恵(こばやしみつえ)プロフィール

こんにちは、小林光恵です。
皆さんとナース休憩室で
雑談しているときのような気持ちで、
つれづれに書いていきたいと思っています。

第9回 夜勤メイクいろいろ 2005/2
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 ナースには、昼の勤務はフルメイクで夜の勤務では簡単なメイクにする人、昼はフルメイクだが夜はまったくしない人、昼も夜もフルメイクの人、昼も夜もメイクしない人、とさまざま。
昼はフルメイクで夜は簡単に、の人たちにはいろんなバリエーションがあります。ファンデーションだけばっちり塗ってくる人、眉だけ描いてくる人、口紅だけの人、ファンデと口紅だけ、あるいは眉とチークだけ、眉とアイラインだけ、などなど。その人の「最低限の外の顔」とか「メイクに対する基本姿勢」みたいなものが見える気がしてなかなかおもしろいものです。また、昼も夜もまるで隈取りのようなアイラインをひいてくる人が「カブキさん」と陰で呼ばれていたり、夜勤の際まるで「たまのお座敷に出た帰り」みたいにたまに濃い化粧をしてくるため「芸者さん」という裏のあだ名をつけられている人がいたり。
 友達のナースRが勤務している病院には、院内でなにかと話題に上る美人姉妹ナースがいるそうです。内科病棟勤務の姉、辻リツコさんと、整形外科病棟勤務の妹、辻マユミさん。この辻姉妹に、最近メイクにかんする変化があったそうです。
 姉妹とも、昼間の勤務ではフルメイク。しかし夜勤では、姉のリツコさんはノーメイク、妹のマユミさんはフルメイクと違っていたそうです。職員間では「質素でおとなしい雰囲気の姉と派手好みで活動的な妹の違いが、夜勤時のメイクの有無によく出ている」と話していたそうです。
 しかし最近、夜勤時のメイクの有無が逆転したというのです。姉のリツコさんが夜勤にフルメイクするようになり、妹のマユミさんがノーメイクになった。姉妹ともに、化粧栄えする和風のつるりとした顔立ちだけに、メイクのオンオフの差が激しく、周囲ではその変化にすぐに気づいたのだとか。
 実にささいな出来事です。しかし、こういう話はあたりさわりないため、かえって休憩室での格好のネタになるわけで、その変化にかんして勝手な憶測が飛びかったとのことです。たとえば、恋愛がらみで姉妹でなんらかの取引があったのではないか、などと。
 その憶測を耳にした姉妹は、それぞれに本当の訳を語ったそうです。

 姉のリツコさんの理由。
 ある高齢の男性患者さんが、リツコさんにいつもこう語っていたそうです。
「わたしの最期のときには、ぜひ辻さん、あなたにいてほしいんだ。約束してほしい」
 先日、いよいよその男性の容態が悪くなり「もしかして今夜危ないかも」という状況となり、リツコさんは看護師長に頼みこんで、他のナースと交替までして深夜勤務についたのだそうです。いつものノーメイクで。
 しかし、その患者さんは、リツコさんがいくら「辻です」と言っても、「あんたは辻さんじゃない。だまさないでくれ」と言って、最後までリツコさんをリツコさんだとわからなかったというのです。リツコさんは、よくよく考えてみると、彼はリツコさんの夜勤時の顔すなわちノーメイク顔を見たことがなかったことがわかったそうです。リツコさんは、最期にその患者さんに寂しい思いをさせてしまったことを悔み、以後、夜勤時も昼と同じようにメイクするようにしたそうなのです。
 一方、妹のマユミさんはというとーー。深夜勤務の午前三時の見回りの際、もうすぐ退院のモデル業の若い男性にこう言われたのだとか。
「夜中なのにバッチリメイク? そこまでして、男の気を引こうとしなくても」
 マユミさんは、たとえ夜であろうと勤務は勤務で、身だしなみはきちんとしておかなければ患者さんや同僚に失礼だと考えてメイクをしてきたのに、患者さんの中にはそんなふうに思う人もいるのかと情けなくなり、誤解されるのが嫌なので、以後、一切夜勤ではメイクをしないと決めたのだそうです。
 看護の現場には実にいろんなことがあるものだ、と改めて思った次第です。

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