インタビューアーカイブ

2022/8

地域が抱える問題を“面”で捉え医療や教育と連携して細やかな支援を(後編)

地域貢献のために社会福祉法人ができること、すべきこととは――。社会福祉法人 福音会では、介護人材の育成や子ども食堂、認知症カフェなど、さまざまな地域貢献活動を、近隣の大学や町田市社会福祉協議会、町田市子ども家族支援センター、町会などと連携し、精力的に行っています。「社会福祉法人は、時代によって変化する地域のニーズを捉え、応えていくべき」と語る奈良高志氏に、地域貢献における視点や、これからの社会福祉法人の役割についてお聞きしました。

奈良 高志

社会福祉法人 福音会 理事長

一法人だけでなく各所と連携して
地域のニーズに応える

前編はこちら

地域貢献活動を行ううえでは、地元の方々の協力も欠かせません。幸い、町田市では近隣の大学や子ども会、町会、民生委員、ボランティアなど、多くの方々が熱心に参加されています。指揮を執るリーダーを中心に、若者から高齢者まで多世代が重層的に支え合うことが継続の秘訣です。

社会が複雑化し、今や一法人だけでは地域の問題を解決できません。福祉や介護だけでなく、医療や教育も含めて活動を行う必要があると感じています。例えば、小中学校で認知症の講習を開いたり、近隣の特別支援学級の体験学習を福音会の施設で行ったりする場合、学校のみならず教育委員会や保護者との連携が必要です。子ども食堂の運営にあたっても教育機関と連絡をとり合い、そこで先生方から新たな問題を提示されれば、子どもたちのためのさらなる支援が生まれるかもしれません。

また、昨今は自分の法人だけ潤っていれば、地域の介護福祉基盤を守れる時代でもありません。ほかの社会福祉法人、介護事業者、医療機関とも連携し、人材確保・育成に取り組むことも必要です。このように、地域貢献活動においては、その地域を〝点〞ではなく〝面〞で捉えることが重要だと考えています。

 

地域の問題に横串を通し
地域全体で共有する体制構築を目指して

少子高齢化により日本の社会保障費は膨れ上がり、政府が決定した2022年度の予算案では、社会保障費の自然増を2200億円削減することを目指しています。社会福祉法人の財政状況は、今後ますます厳しくなるでしょう。こうした流れを受け、高齢者の社会参加、家族間や地域での支え合いを訴える声もありますが、それは問題を〝点〞で見ているにすぎません。

かつて高齢化問題は、高齢者当人のみを対象としていました。しかし、今では80代の方のお子さんが引きこもりや障がい者というケースも多々あり、彼らの支援も必要です。また、大人に代わって日常的に家事や家族のケアに従事する、ヤングケアラーの問題も見過ごせません。しかも、こうした方々は外部のサービスを頼ろうとしない傾向があります。一人で背負うことが当たり前で、それでよしとしてしまう。オープンコミュニケーションがないため、地域の問題として捉えにくいのです。

そのため、福音会では障がい者施設や児童養護施設などと連携し、地域の方々が抱える問題に横串を通そうと考えています。どこでどのような問題が起きても地域全体で共有し、各領域の専門家と連携しながらサポートできる体制をつくることが私たちの急務です。 

その一助となるのが、本年度から施行される社会福祉連携推進法人制度です。とはいえ、この制度には、大きな課題があります。社会福祉連携推進法人制度は、複数の社会福祉法人がグループ化して、相互連携を推進しようという発想から生まれたものです。しかし現実には、経営の厳しい社会福祉法人が、吸収合併によりホールディングカンパニー化していくことになるでしょう。しかし、大規模な法人は収益性の低い事業を切り捨てる傾向があります。それなら、たとえ規模が小さくても、地域のニーズに一生懸命取り組んでいる法人同士が共存できる仕組みを、この制度の中で考えていくべきではないでしょうか。

 

国が取りこぼした問題を
網目を狭めてサポートする

地域のニーズには、普遍的なものと時代によって変わるものがあります。私たちは、後者のニーズについて、しっかり把握する必要があります。 私が近年注視しているのは、子どもの引きこもり現象です。共働き世帯が増えたことで、日中一人で過ごす子どもたちは増加しています。放課後を学童クラブで過ごせればいいですが、地域によっては施設を設けていなかったり、人数制限があったりします。そうなれば、一人の時間はますます増えていくでしょう。

子ども食堂は、一人の時間を過ごす子どもたちにとって、みんなと食卓を囲める大切な場です。さらに、昨今増えている40〜50代の引きこもりの方々が、社会参加できる場にもなるでしょう。町田市社会福祉協議会の福祉コーディネーターと連携して引きこもりの方々に食堂運営をサポートしていただくなど、地域に参加する〝面〞をたくさんつくっていきたいと考えています。

地域が抱える問題は、網の目が細かければ細かいほど早期に食い止めることができます。逆に、網目が粗いと小さなニーズがこぼれ落ち、それらが堆積することで大きな社会問題になっていきます。近年、日本社会ではこの網目がどんどん粗くなっているように感じます。国の制度が取りこぼした小さなニーズが、地域にどんどん沈殿している状態といえるでしょう。

例えば、近年、全国的に空き家が増えており、各地で問題視されています。もちろん、町田市も例外ではありません。私は、こうした空き家を活用し、福祉を必要とする方々に「医食住」を提供することができればと考えています。まずは、パートナーとなる組織を探し、地域の問題解決につなげていきたいと思います。

私たちの役目は、網目から取りこぼされた方々をサポートすること、そして網目を少しでも狭めていくことです。ほかの社会福祉法人や介護事業者、教育機関などと連携しながら、両面から取りこぼしのない支援を行っていきたいと考えています。

奈良 高志

社会福祉法人 福音会 理事長

明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業。日本総合研究所「通所介護計画」セミナー講師を務めるなど、全国各地を回り、利用者主体の通所介護計画普及に尽力。これまでに在宅サービスセンター長、施設長、法人本部管理統括(いずれも他法人)等を務め、2019年より現職。

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