インタビューアーカイブ

2018/6

地域、海外、異業種とのつながりで浮き彫りとなった「日本の福祉が抱える課題」

社会福祉法人伸こう福祉会では、2012年から三カ年計画で、初年度にミュージカル公演、2年目に国際福祉サミット、3年目にはビジネスと福祉をテーマに講演会を実施してきました。これにより「自分たちの施設のご利用者さえ良ければいい」という内向きの姿勢はガラリと変わり、地域や日本という広い視点に立った「福祉の課題」が見えてきたといいます。今、社会福祉法人伸こう福祉会が見据えている「福祉の未来」とはどのようなものでしょうか? 同法人の理事長 足立聖子に詳しくお話をうかがいました。

足立 聖子

社会福祉法人伸こう福祉会 理事長

窮屈な日本式の「安全管理」。先進的なアメリカ式に学ぶ

前編はこちら

介護職が忘れてはならないことの一つに、私は、「“介護”の場は、治療の場ではない。“生活の場”である」ということがあると思います。もちろん、ご利用者の自立支援は大切です。しかし、生活の場においてもっとも優先されるべきは、「自由きままに過ごせる環境」ではないでしょうか。

しかし、現代の日本の介護では、ご利用者の絶対的な安全が何より優先されています。安全のために行動を制限するスピーチロックを始め、介護保険法によって生活が管理されていて、介護者にはご利用者の生活の様子を逐一記録することが求められます。それによりご利用者と介護者の双方が、共に窮屈な思いを強いられているのではないかと思うのです。

この点において、「利用者の安全リスクは利用者が負う」というアメリカ式の介護は非常に合理的で先進的です。介護者の過度な責任負担が軽減されると、介護者はご利用者の行動を制限しなくて済むからです。結果として、それがご利用者の自由を保障することにつながるのです。

 

AIの活用が利用者の「自由度」と「満足度」を上げる

さらに今後は、「AIの活用」によっても、ご利用者の自由度が高まることが期待されます。特に、日本の高いものづくりの技術に対する期待値は高いですよね。ただ、これまでは各々の技術が縦割りになっていてうまく機能しておらず、AIがうまく福祉への活用につながってこなかった現状があります。

2018年3月まで、私たちは経産省の「ビンテージ・ソサエティ・プラットフォーム形成事業」を受託し、各機関で独立した技術を横断的につなぐ新たな介護機器の開発に乗り出しました。これは、三カ年計画の最終年度に行われた「ビジネスと福祉をつなぐ講演会」をきっかけに、実現したプロジェクトです。

例えば、空港にある検疫所のサーモグラフィのような機械があれば、バイタルを測定するたび、ご利用者がやりたいことを中断する必要がなくなります。好きなときに自分の意思で測定することができるようになるからです。また、ベッドが縦ではなく横にもギャッチアップできれば、わざわざトイレへ行くたびに介護者を呼ばなくても、ベッドを操作するだけで車椅子に移乗できるようになるかもしれません。さらにトイレまでの扉を自動化できれば、移乗を担う介護者が立ち会う必要もなくなります。ご利用者としても、落ち着いて用を足すことができますよね。

完全な自動化はすぐには無理でも、介護者以外が立ち会うだけで済むなら、それだけでも人材は削減できるはず。
AIによる機器の開発はまだまだ実験段階ですが、私は、将来的には「ケアする側」と「ケアされる側」の境界線が曖昧な社会になっていくと思いますし、私もそれを推進していきたいと考えています。ご利用者自身もまた、それによって同じ施設内で働けるような環境を目指していきたいのです。

 

グローバルな視点で、未来の福祉を“よきもの”にしていきたい

人生100年時代と言われるなか、アジアは他の地域に先駆けて高齢化が進んでいます。今後は10年15年先を見据えて、当法人ができることを事業化していく段階に入りました。目標は、最期まで高齢者が自分の人生を生き切ることが当たり前にできる社会。健康寿命を延ばすだけでなく、健康ではない人でも寿命が続く限り、人生を全うできるようにすることです。ひいてはそれが、私たちが高齢者になったときの高い幸福度につながっていくはずです。

当法人の基本理念は、「たくさんの“よきもの”を人生の先輩たち、後輩たち、そして地域に捧ぐ」。 今後はさらに「地域」を「世界」へと広げて、アジア全体の高齢者が豊かに生きられる世の中の実現に向けて、何かできればと思います。

足立 聖子

社会福祉法人伸こう福祉会 理事長

創業者の片山ます江氏を母に持ち、小中学生のころは夏休みに老人ホームの手伝いをしていた。30歳を前に勤めていた会社を辞め、母の事業をもう一度手伝うことを決意。特別養護老人ホームなどの施設長を務めたのち、理事長に就任。2014年には、独特のビジネスモデルで持続的成長を続ける会社に贈られる「グレートカンパニー大賞」を社会福祉法人として初受賞。高品質な施設空間やサービスレベル、革新的な活動は業界のモデル法人とされている。

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