今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第186回 2018/10

全国にわずか8名 災害看護専門看護師が考える「災害看護」のあり方とは

公益社団法人日本看護協会が定める認定資格である「専門看護師」には、「がん看護」、「小児看護」、「老人看護」などの13分野があります。その中の一つ「災害看護」の分野では、2017年に初めて認定審査が行われ、同年12月に8名の「災害看護専門看護師」が誕生しました。今回は、九州で唯一「災害看護専門看護師」に認定され、これまで「災害支援ナース」としてさまざまな現場に従事してきた岡﨑敦子氏に、災害看護のあり方やこれまでのお取り組みにについてお話をお聞きしました。

久留米大学病院 中央手術部
災害看護専門看護師
岡﨑 敦子 氏

久留米大学病院

2017年に誕生 災害現場で活動する「災害看護専門看護師」とは

「災害看護」は、1995年の阪神淡路大震災をきっかけに注目されるようになりました。避難生活が長期化したことで、持病の悪化や生活再建に伴うストレスで体調を崩すことが顕在化し、「災害発生直後の救護だけではなく、生活に視点を置いた看護の必要性」が表面化しました。災害支援の新たな枠組み作りが急務となったのです。
 
これを受け、日本看護協会では5年以上の実務経験があり、災害看護に関する研修を修了した看護師を「災害支援ナース」として都道府県ごとに登録し、被災地に派遣する制度を導入。私も、2009年に災害支援ナースに登録し、多くの災害現場で活動してきました。現在、災害支援ナースの登録者数は全国で9,345人(2017年3月)。登録者数は2011年に発生した東日本大震災を機に急増しています。
 
被災地では、行政・各支援団体・NPOなど多職種が共同しますが、お互いの役割や特徴を知らないことがあります。同協会では協会認定の専門看護師の分野に、新たに災害看護を追加し、災害現場での被災地の看護職や被災者に対して、看護実践・倫理調整・調整・相談・教育・研究の役割を担う専門看護師を誕生させました。また、普段から地域や病院で減災・防災の視点で活動することが求められています。とはいえ、災害看護専門看護師が誕生してから半年と少し。圧倒的に人数が少ないことはもちろんですが、まだまだ役割が確立されていない、という現状もあります。

災害看護の始まりは、看護の始まりでもある

私が災害看護を学ぼうと思ったきっかけは、2005年に発生した福岡の西方沖地震でした。揺れがおさまったとき、「患者さんをどのようにして守るのか」、「病院の危機管理はどうなっているのか」と、疑問をおぼえたのです。当時、このあたりでは「災害看護」という言葉にほぼ馴染みがなく、看護管理者の中にも災害看護に詳しい方はほとんどいない状況でした。そのため、2007年当時に唯一災害看護を学ぶことができた兵庫県立大学の大学院へ進学することを決めたのです。
 
災害看護を学んでいく中で、災害看護の始まりを考えることがありました。日本では阪神淡路大震災が災害看護の始まりと言われていますが、世界を見てみると、看護の祖ナイチンゲールが、クリミア戦争の戦時下に行っていた看護そのものが、災害看護の始まりと考えるようになったのです。戦時下という、決してよいとは言えない環境下でも、清潔な水や、適切な光・温度・湿度、新鮮な空気など、療養環境を改善しながら、自然治癒力を引き出す「快適な生活環境」を整え、傷病の兵士の回復する力を支え「心と体」をケアしていく……。
私は、大学院で災害看護を学びながら、阪神淡路大震災から10年以上経過した復興住宅を度々訪問し、そこで暮らす住民との関わりから「災害看護には、『命』と『暮らし』を守るという看護の原点が詰まっている」ことを強く感じるようになりました。そして、災害看護を普段から生活の中に定着させていくことで、災害の備えとなることはもちろん、病院では療養環境の整備を行い、看護の質の向上にもつながっていくと確信を持ったのです。

病院の環境整備と看護師教育で防災への取り組みを「当たり前」にする

大学院終了後、まずは職場で災害看護の仲間づくりを始めました。私一人が災害看護を知っていても、災害が起きたとき、一人では人の命も暮らしも守ることができないからです。仲間づくりをする中で、私は、病院の環境整備や看護師の教育に力を入れていく必要性を感じるようになりました。
 
そこで、2015年に当病院の看護部防災対策委員会の活動の一環として、「5S活動」と称した病院の環境整備に取り掛かりました。災害現場で出会った方々が「普段やっていないことはできない」と口をそろえてお話しされていたことと、災害時だけでなく普段の看護にも良い影響を与えると思い始めた活動です。具体的には、「消化器・消火栓の前や廊下に物を置かない」、「キャスターが付いているものには必ずストッパーをかける」といった、「整理・整頓・清潔・清掃・躾」という運動を、普段から徹底して行うようにしました。
 
看護師の教育に関しては、2014年に災害看護に関するクリニカルラダーを5段階で作成し、これを基に新人看護師から看護管理者を対象に災害看護に対する習熟度段階別教育を始めました。伝え方も工夫し、私が一方的に教えるのではなく、学んだことを自分の部署に持ち帰って、今度は自分の患者さんや病棟の構造の特徴を踏まえながら、研修を受けた人が防災対策委員や管理職と一緒に考えてもらうような仕組みにしました。災害看護の教育を受けていないほかのスタッフに学んだことを“自分の言葉で伝える”という教育法を取り入れたことで「ただ習ったことができるだけでなく、それを踏まえて考えられる、人に教え自信につながる」という、看護師自身の成長にもつながるのではと考えたのです。
 
当病院ではこのような活動を行ってきたことで、確実に災害に備えるという体制が、「当たり前」として定着しつつあります。

災害と聞くと特別なことのように思われますが、平時の取り組みが、実はとても重要なのです。普段からいかによい療養環境を整え、その人の暮らしを支える看護を実践するかということが確実に災害時に役に立ちます。2015年の仙台防災会議の際、「事前の防災投資は災害後の対応・復旧より費用対効果が高い」Build Back Better(より良い復興)の考え方が明言されました。備えの大切さが院内や地域に浸透し、組織の文化や地域の風土として根付くような活動をしていきたいと思います。
 
後編では、災害支援ナースとして多くの支援活動を経験して感じた、災害看護専門看護師として求められる役割についてお伝えいたします。

後編はこちら

岡﨑 敦子氏
久留米大学病院 中央手術部
災害看護専門看護師
 
2003年 久留米大学病院に勤務
2007年 災害看護を学ぶため病院を退職し兵庫県立大学大学院へ入学
2009年 大学院を修了し、再び久留米大学病院に復職
2009年 災害支援ナースとして活動を始める
2017年 災害看護専門看護師資格を取得
現在に至る
 
―所属学会―
日本災害看護学会 代議員
日本災害医学会
日本公衆衛生看護学会
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