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2019/3

「大学病院も変化を続けなければいけない」病院長による広島大学病院の組織改革とは(後編)

広島大学病院の起源は、原爆が投下された昭和20年。以来被爆地ヒロシマの医療を現代まで支え続けてきました。平成30年4月に病院長に就任された木内良明氏が、高度最先端医療の研究と開発を目指してまず取り組んだのが「院内の組織改革」。「大学病院は常に“変化”していかなければならない」と語る木内氏に、現在の広島大学病院が抱える課題と、それに向けた組織改革の具体的な内容についてお話をお聞きしました。

木内 良明

国立大学法人 広島大学病院 病院長

ベンチマークで判明した無駄使い
材料費では年間億単位の損失も

前編はこちら

組織改革のために、次に私が取り組んだことが財務状況の見直しです。全国の国立大学病院では、「HOMAS2(University HOspital Management Accounting System)」という病院管理会計システムを利用しており、診療科や中央診療部などの部門別の収支や患者別の収支を計算することができます。また、国立大学病院間のベンチマークが可能となり、診療における材料比率や診断群別の収支構造など、他大学と比較することができるようになっています。

ベンチマークを見ると、当院の経常収益は毎年、全国で2番目から4番目を推移しており、比較的上位に位置していますが、支出額の総計や原価率、人件費、材料費などは際立って悪い成績です。人件費率が高いのは、清掃スタッフや栄養管理部のスタッフなどのほとんどを、外部委託をせず病院で雇用しているため、ある程度は致し方ないと思っています。しかし一方で、材料費は約10億円となっており、全国で断トツのワースト1位というのは問題です。例えば、寝具のレンタル料金がベンチマークの2倍から3倍になっていました。これら問題点の原因を副病院長が探ったところ、100万円以上の購入には病院長の決済が必要ですが︑それ未満は各部署で自由に購入できるという、当院の購入システムに問題があることがわかりました。また、通常は定価の7割から8割で購入するものも、当院では10割もしくはそれ以上で購入していることがあり、定価から2割引きしただけでも2億円が浮きますから、ずいぶんと経常利益が変わっていたはずでした。

そして、もう一つ注目すべきが、栄養管理部が出している年間6,000万円程度の赤字です。当院の食事は、バリエーションが豊富で、とてもおいしいと患者さんからの評判は高いです。しかし、食材費が圧倒的に高く、「食事を提供するたびに赤字なのではないか……?」と、言いたくもなる収支状況でした。これは昔ながらの体制で、見直されることなく今日まで来てしまったところに原因があることがわかりました。要するに、材料費も食材費も、無駄使いし過ぎだったのです。

こうした問題点は、本来ならば経営会議などで表面化してくるものだと思いますが、当院の近年の収益は右肩上がりで好調だったため、問題として認識されてこなかったという点にも、当院の課題がありました。

 

具体的な解決策をもって組織改革を進行中!

浮き彫りになったさまざまな課題を改善していこうと、現在は少しずつ改革を進めているところです。栄養管理部の課題に対しては、古い慣習を見直すことにしました。そして、これまであいまいだった人事権を病院長がもち、副病院長を監督者として、現場のトップに調理師と栄養管理士を配置するという組織変更を行い、これからの変化を見ていくことにしました。材料費に関しても可能な限り無駄使いを減らしていこうと頑張っています。

直近の目標は、国立大学病院の中で最下位にある支出額を減らして、順位を真ん中あたりにまで上げていきたいと考えています。黒字になって収益が上がれば、最先端の医療機器を取り揃えて、優秀な人材をどんどん集めることができます。そうすることでよい相乗効果が生まれ、確実に病院のレベルアップにつながっていくはずです。そして、ひいては職員や患者さんにどんどん還元できるように成長していきたいと思います。
ただし、大学病院という組織上、看護師さんは看護部長に人事権があり、事務部は事務部長が、事務部長は大学本部に権限があるため、病院長がガバナンスを効かせられるところはかなり少ないというのが本音です。これは、どの大学病院でも同様だと思いますが、それだけに病院長発信の改革はどうしても進捗が遅くなってしまいます。ですから、取り掛かれるところから素早く動き、どんどん結果につなげていきたいと思います。

 

大学病院のあり方にも変化が起き
街の病院全体が大きな大学病院のような地域に

私が、病院長就任後から積極的に組織改革に取り組んできたのは、大学病院は常に〝変化〞していかなければならないと考えているからです。「変化しないのは、後退することと同じ」といった言葉は、どんなビジネス書にも書いてありますし、ヘレン・ケラー氏や松下幸之助氏も同様の言葉を残しています。10年同じことをやっていては、絶対にいけない。気になることがあれば、能動的に変えていく。これは、大学病院にも求められていることだと思うのです。

特に、大学病院のあり方もこれからどんどん変化していくと思います。私が考えているのは、大学病院を単体で捉えるのではなく、地域の病院全体が大きな大学病院のようなスタイルに変化していくべきではないかということです。例えば、クリティカルパス委員会や倫理委員会などの組織は、すべての病院それぞれに置くのではなく、広島市に一つだけ設ければよいのではないかと思います。今は、病院ごとに弁護士や外部委員に委託して、書類作成や対応をしてもらっていますが、広島市全体で共通化していけば、経費も節約できますし、弁護士代も不必要に発生しなくなります。

広島駅の裏手にある「広島がん高精度放射線治療センター」が、平成27年より稼働しています。ここでは、地域の医療機関で検査や診断を行い、放射線治療が必要になった患者さんを集約して、高精度な治療装置で体に負担の少ない治療を提供しています。このような機能をもつセンターは、地域の病院が一つの大きな大学病院のようになるよいきっかけだと思います。

まずは広島大学病院が変化できるよう、小さな仕組みの変更、大きな組織改革といったところからスタートし、患者さんにとって最適な医療を提供することはもちろん、働く人にとっても最高の病院を目指していきたいと考えています。これからも変わることを恐れず、前に進み続けたいと思います。

木内 良明

国立大学法人 広島大学病院 病院長

昭和58年広島大学医学部医学科を卒業後、同学医学部にて助手を務める。
平成2年にアメリカのイェール大学へ留学、帰国後に国立大阪病院、
国家公務員共済組合連合会 大手前病院での勤務を経て、
平成18年より広島大学視覚病態学教室(眼科)教授。平成30年4月より現職。
眼科学の第一人者として、特に緑内障や小児眼科分野で活躍している。

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