インタビューアーカイブ

2019/8

要介護者と介護者家族に最善な生活を提供 ケアマネージャーに求められるスキルとは

もし、大切な家族に介護が必要になってしまったとき、皆さんの大きな支えとなってくれるのがケアマネージャー(以下、ケアマネ)です。今回は、Nursing-plaza.comでも人気のコンテンツ、「こちら、ナース休憩室別館」の著者である小林光恵さんをインタビュー。小林さんの新刊『介護はケアマネで9割決まる!』を元に、要介護者の生活をプランニングするケアマネの働き方に注目しました。これからますます活躍の場が広がるケアマネには、どのようなスキルが求められるのでしょうか。

小林 光恵

作家・看護師

介護は外注の時代へ!
“外側”から支える介護のプロの力

前編はこちら

厚生労働省によると、要介護認定者数は平成28年度の時点で633万人(平成30年度 公的介護保険制度の現状と今後の役割)。介護保険制度が始まった平成13年度からその数は約2.9倍になっており、要介護者の人数は確実に増加しています。

こうした急速な高齢化と介護者の増加を見越して作られたのが、「地域包括ケアシステム」ですよね。老老介護や、親から離れて暮らす子どもの増加で、家族内で介護の問題を解決してきた時代から、今や介護は、外注の時代へと移り変わりつつあります。

さらに、昨今注目されているのが、夫や息子などの「男性介護者の孤立」です。男性は女性に比べて、介護の方法を人に聞いたり、愚痴を言ったりすることが苦手な人が多いため、結果的に孤立してしまい、自分一人で介護問題を抱え込んでしまう傾向にあるようです。そして、介護疲れで要介護者を手にかけてしまったというつらいニュースに接することがありますね。こうした問題にも、「介護のプロ」が積極的に関わっていく必要があります。

 

要介護者と介護者家族の状況に合わせた
“柔軟な提案力”が必須!

ケアマネに求められるスキルとして重要なものの一つは、「提案力」だと思います。要介護者やその家族は、給付額や要介護認定など介護保険制度の仕組みをわかっていない人がほとんど。だからこそ、ケアプランは、ケアマネの提案力が大きく問われます。さらに言えば、情報収集力も必要でしょう。介護保険は頻繁に改正され中身が変わりますし、医療・介護・福祉にまつわる種々の情報も、日々更新されていきますから、ケアマネ自身も、更新された情報はできるだけ把握し、常に自身の情報をアップデートさせておく必要があると思います。

さらに言えば、柔軟な提案力も大切でしょう。人間はずっと同じではいられませんし、要望や状況は変化していきます。例えば、介護者家族が少し疲弊している、あるいは疲弊しそうと感じたならば、例えば要介護者のショートステイ利用やデイサービス増回の検討などを提案して、「家族の休日」を作ってあげるような視点も大切です。

担当した要介護者と家族の様子をよく観察して、最善だと思われるケアプランを作り、提案していく力が重要です。

 

要介護者や介護者家族を理解した対応が
心の支えとなることも

ケアマネは、要介護者が過ごしてきた時代や背景、文化などを理解しておくことも重要だと思います。特に、現在の高齢者は時代の大きな移り変わりを何度も経験しながら、地域に伝わる習わしの中で生きてきた方々が多いです。例えば民俗学や文化人類学の関連書物などから、さまざまな習わしにふれておくことだけでも、要介護者や介護者家族の価値観の理解につながることもあるでしょう。自身の価値観のみで判断するのではなく、生きてきた時代や地域の違いなどから生じるさまざまな価値観を配慮しながら、物事を判断できることを目指すことがベストだと思います。

また、ケアマネの声掛けが介護者家族を救うこともあります。
私の友人から聞いた話です。彼女の友人は、義母の介護を献身的に行っていましたが、義母の認知症が進行してしまい、排泄が自身で調整できなくなり、家じゅうの掃除でへとへとの日々になってしまったそう。これ以上自宅で介護することは難しいと考え、義母には施設に入ってもらい、最期は施設で看取りました。その際、ご近所さんからは、「あそこの嫁は、最期まで見なかった」と陰口を叩かれたそうです。担当されたケアマネからの「排泄の門打で施設への決断をされる方が多いです。どうしたって無理なものはありますよ」という一言にとても救われた、と話していた、と聞きました。

多くの介護者家族に接しているケアマネにかけられた言葉だったからこそ、気が楽になったのだと思います。

これからの時代、ケアマネはますます重要な職業になっていくでしょう。現在ケアマネとして働いている皆さんは、苦しいことも多いかもしれませんが、日本の介護を支えているご自身の仕事への誇りを保ちながら、これからもがんばっていただけたらうれしいです。

また、「地域包括ケアシステム」の充実に向けて、医師や看護師などの医療従事者も、ケアマネの役割について理解を深めておくのはとても重要なことだと思います。医療や介護は多職種連携の時代です。「医療」「介護」としてくくるのではなく、要介護者に関わるケアチームのメンバー同士が、互いの仕事を理解しておくことも、今後はより大切になってくるのではないでしょうか。

小林 光恵

作家・看護師

茨城県生まれ、東京警察病院看護専門学校卒業。看護師として東京警察病院、茨城県赤十字血液センターに勤務。その後編集者を経て独立。現在は執筆を中心に活動している。
マンガ『おたんこナース』、日本テレビ系列『ナースマン』原案本の著者。著書に『死化粧(エンゼルメイク)最期の看取り』(宝島社文庫)、『ナースのおしゃべりカルテ』(幻冬舎文庫)、『12人の不安な患者たち』(集英社文庫)、『ナースのための決定版エンゼルケア』(学研メディカル秀潤社)、『こちら、ナース休憩室』(PHP研究所)等多数。

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