今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第200回 2019/12

多忙な医師の負担を減らすために! 超高齢化社会を見据えた“救急往診サービス”とは

2030年における日本の総人口は、約1億2,000万人になることが予測されています。そのうち31.1%にあたる約3,700万人が、65歳以上の高齢者になる見通しです。あと10年で「国民の3人に1人が65歳以上」という超高齢化社会に備えるため、いま、国や政府、各地の医療機関が、総力を挙げて、医療需要の急増に対応できるような仕組みや体制の整備を推進しています。どうすれば最適な医療を届けることができるのか――。そのヒントを、高齢化社会を見据えた救急往診サービス「ファストドクター」の代表であり医師でもある菊池亮氏にお聞きしました。

ファストドクター株式会社 代表取締役
医師
菊池 亮 氏

ファストドクター

多忙だった勤務医時代が
未来の医療を考えるきっかけになった

「なにか医療の仕組みを変えるような行動を起こさなければならないのではないか」、そう思い始めたのは今から約7年前。整形外科医として大学の医局に勤務していたときのことでした。
 
当時、私が勤めていたのは、三次救急に力を入れている大学病院。整形外科と救急科が連携し、夜間・休日を問わず、連日、多くの数の患者さんを受け入れていました。途切れなくやってくる患者さんを診察しつつ、一晩で3件の緊急手術を行ったということも。とにかく多忙だったことを覚えています。それでもなんとかやって来られたのは、「いま処置が必要な、重篤な患者さんを救いたい」という強い思いがあったから。ところが実際は、「指を包丁で切って不安になったので救急車を呼びました」とか、「自力で通院するのが大変で救急車を呼んだ」など、緊急性が低い軽症患者さんも少なくなかったのです。
緊急性が低い軽症の患者さんが多く救急にいらっしゃると、患者さんをお待たせする時間が長くなり、患者さんにとっても医療従事者にとっても負担が大きいものです。
 
その後、郊外の病院に勤務したのですが、たまたま救急外来に搬送されてきた患者さんの緊急性が極めて高く、入院加療の目的で転院先を探したことがありました。しかし、なかなか見つからず、19件の病院に電話し断られ、20件目でやっと受け入れ先が見つかったという出来事がありました。受入拒否の理由のほとんどが「忙しくて手が離せないから」だったのですが、重症患者の対応を行うべき大病院が軽症患者の対応に忙殺されている現状は、非常に危険と感じました。「高度な医療を提供する大学病院が速やかに重症患者さんを受け入れられるよう、なにか新しい仕組みをつくらなければいけないのではないか」――。こうした思いが大きくなり、未来に向けた医療の形について考えるようになりました。

東京、大阪の大都市で、
75歳以上の後期高齢者が急増する

これからの医療を考える際、避けて通れないのが、「高齢化」に関する問題です。2030年には、「国民の3人に1人が高齢者」という、超高齢化社会が到来すると予測されています。ここで注目したいのが、「75歳以上の後期高齢者の割合が爆発的に増加する」と考えられているところです。2020年を過ぎた辺りから、65歳以上の高齢者は増え止まり、一方で、特に大都市部を中心に、75歳以上の後期高齢者が急増する見通しです。2010~2030年にかけて、全国で約700万人の後期高齢者が増加し、うち5割以上が首都圏を中心とした大都市部に集中すると予測されています。東京、大阪など、現時点で既に、介護福祉施設が不足した状態に陥っているところも少なくありません。
 
今後、大都市圏で多くの高齢者施設が広く患者さんを受け入れることが難しくなり、在宅での介護を余儀なくされる患者さんが増加します。なお、地方都市や過疎地域においては後期高齢者数の増加率は緩やかになる傾向で、後期高齢者人口が減少に転じる地域も少なくないと見られています。
 
以上のような背景から、まずは、もっとも医療介護需要が高まる都市部で、在宅医療の機能強化が必要だと考えました。

在宅医療を受けていない高齢者の
救急受診を支援することが急務

次に、高齢者による救急出動について見てみましょう。総務省によると、2018年の救急車による救急出動件数は約660万件。搬送人員数は約596万人。救急出動件数、搬送人員数ともに過去最多となっています。搬送人員数の内訳は、高齢者が約354万人(59.4%)、成人が約194万人(32.5%)、乳幼児が27万人(4.5%)となっており、実に約6割が高齢者だということがわかりました。また、全患者の約5割が軽症だということも明らかになったのです。このように適切な受療行動が取られていない理由はなぜなのでしょうか。
 
続いて、実際に救急車で搬送された高齢の患者さんについて確認してみましょう。実は、救急車で搬送された高齢患者さんのうち約80%は、「在宅医療を受けていない患者さん」だったことが分かっています。在宅医療を受けていない患者さんは、夜間・休日はかかりつけのクリニックが閉まってしまいますから相談できるところがない。さらに、近年は単身・夫婦のみ世帯が全高齢者世帯のうち約59%と増加傾向にあり、自力での通院が困難といったケースが少なくありません。結果として、通院の手段として救急車を利用する患者さんが多いのではないかと考えています。
 
救急出動件数の増加は、救急車の現場到着所要時間の延伸を招きます。現場到着所要時間の延伸は、緊急性が高い患者さんの初期対応に影響を及ぼし、例えば心肺停止の患者さんは、処置が1分遅れると蘇生率が10%落ちるとされ、治療の遅れは予後に直結します。救急車の現場到着所要時間は、この10年でおよそ2分延びています。
 
今後、在宅医療を受けていない高齢者の救急受診を支援することが重要になってくると考えています。

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後編はこちら↓
適切なトリアージで、“持続可能な医療システム”の構築に貢献する
 

菊池 亮氏
 
2010年 帝京大学医学部医学科卒業。初期研修終了後、同整形外科学講座、その後に同救急医学講座に入局。2016年にファストドクター株式会社を創業し、代表取締役に就任。
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