インタビューアーカイブ

2020/2

「患者第一」の〝医院〞が取り組む 未来型ホスピタルの病院改革とは(前編)

「すべては、患者さんのために」――。2019年4月、順天堂大学医学部附属順天堂医院 院長に就任した髙橋氏は、「患者第一」を掲げ、病院改革を先導しています。国際的な環境格付け基準LEEDを取得した「未来型エコホスピタル」、患者さんの要望に応じた多様な診療センターの設立。さらには、待ち時間の短縮を目的とした「医療費あと払いクレジットサービス(あとクレ)」の導入など、さまざまな病院再編事業を推進する髙橋氏に、徹底した「患者第一主義」を貫く同院の取り組みについてお聞きしました。

髙橋 和久

順天堂大学医学部附属 順天堂医院 院長

“医院”の理念に立脚した患者第一の病院改革を推進する

順天堂大学医学部附属順天堂医院は、今から約180年前、1838年(天保9年)に設立されました。我が国においていち早く西洋医学を取り入れたこと、また、日本で初めて看護師を採用した病院であることでも知られています。

創設の地は、かつて薬研堀(やげんぼり)のあった、東京都中央区東日本橋。ここで小さな医院として、その歴史をスタートさせました。医院とは、ただ病人を収容するのではなく、一人ひとりの患者さんに向き合い、治療し、ケアをするところです。こうした姿勢や創設時の思いを大切にするため、病床数が1,000以上の大病院であるにもかかわらず、現在も「医院」という名称を使用し続けています。

2019年4月、私が院長を拝命し、これを機に「Patient First」(患者第一)というモットーを掲げるようになりました。順天堂医院をはじめとする全国の特定機能病院が、先進的かつ最も安全な医療を提供するのは、もはや当たり前のこと。当然の使命として先進性と安全性を追求しながら、さらに、患者さんを第一に考えた、わかりやすく、不足や不満のない、心地よい医療を提供しなければならないと考えています。「自分が病気になったときに患者としてかかりたい病院をつくろう」、これを目標に、職員に繰り返し声がけをするなどしながら理念の浸透を図り、併せて、ハードとソフトの両面から医療を充実させる取り組みを推進しています。
すべては、患者さんのために。〝医院〞の理念に立脚した病院再編事業、病院改革を断行しています。

 

日本初、国際的な環境評価を取得した未来型のエコホスピタル

順天堂医院 B棟外観

 

順天堂大学のキャンパス・ホスピタル再編事業は、創立175周年を記念して行われた、全学的な取り組みです。2016年4月、本郷キャンパス内に、地上21階・地下3階建ての高層病院(B棟)が完成。ほかに2棟のビル(C棟、D棟)を建設しました。2019年には、新研究棟(A棟)も完成しました。

本事業の中核を担うひときわ大きなB棟は、「100年建築」「これからのモデルとなる未来型病院」「エコロジー建築の先進的な取り組み」をコンセプトに、清水建設と共につくり上げたもの。「せっかく新しい病院をつくるなら、日本一安全で日本一エコな、地球にやさしい病院をつくり上げよう」と、設計段階から綿密に相談をして建設を進めていきました。その最大の特徴が、エネルギーの使用量が非常に少なく抑えられる造りになっているところです。夏場のエアコン稼働を抑えられるような直射日光の入りにくい設計、トイレ洗浄用の水に井戸水を利用する仕組みなど……、人と環境に配慮した建築物になっており、非常に厳しい国際的な環境格付け基準として知られるLEED(Leadership in Energy and Environmental Design)のヘルスケア版GOLD認証を、日本の病院として初めて取得しました。

LEEDを取得しようと考えたのは、欧米のトップランクの病院の多くが地球環境に貢献する取り組みを行っており、LEEDなどの評価をしっかりと受けているから。こうした格付けは社会的な評価につながるとても重要なものです。厳しい基準をクリアするため多くの時間とコストを費やしましたが、これからの日本の医療機関に必要なことだと考えて取り組みました。世界の基準を知ることができ、価値のある挑戦だったと感じています。

患者さんの未来に寄り添った先進的かつ特徴的な病院建築が完成したことで、ハードの面から、「Patient First」にアプローチできるようになりました。B棟完成から約3年半、職員からも患者さんからも「機能的で使いやすい」「眺望がよく緑もあって心地よい」など好評を博しています。

 

各科横断の診療センターを設立し先端の統合型医療を提供する

患者さんやそのご家族を癒す屋上庭園

 

新棟の建設と共に力を入れているのが、各種のセンターです。2019年には、「足の疾患センター」と「脊椎脊髄センター」を開設しました。
足の疾患センターは、膝から下の病気すべてを対象とした診療センターです。例えば、「足に潰瘍ができているのだが、糖尿病内科に行ったらよいのか形成外科に行ったらよいのかわからない」「静脈瘤を診てもらいたいが、循環器内科なのか心臓血管外科なのか、どこへ行ったらよいか判断できない」などと悩む患者さんに、患者さん目線で、受診しやすい窓口を提供したいと考え立ち上げました。現在、形成外科、心臓血管外科、皮膚科、整形外科・スポーツ診療科、循環器内科などから足疾患治療の専門医が集結し、協力して治療を行っています。

米国には足の疾患を専門的に診る足病医(国家資格)が存在しますが、日本にはそのような仕組みがありません。高齢化が進む中、健康長寿を延伸するために「歩行」を維持することは、重要な課題の一つです。適切な知識と高い技術を併せもつ足病の専門センターは、今後の日本において、欠かせないものになっていくと考えています。

一方の脊椎脊髄センターは、首を含めた背骨を総合的に診療するセンターです。これまで背骨の病気は、主に整形外科と脳神経外科が、それぞれの科で診療を行っていました。ところが、どこまでが整形外科で、どこからが脳神経外科なのかといった線引きが非常に曖昧で難しく、患者さんや地域の医療機関からも、たびたび「どこを受診すればよいか、紹介すればよいか」といった問い合わせがありました。背骨の病気は、本来ならば、整形外科と脳神経外科が協力して診療しなければならないもの。脊椎は整形外科で診て、その中に入っている脊髄は脳神経外科で診て、密に連携を取りながら総合的に診療を進めることが好ましいと思われます。そう考え、整形外科医と脳神経外科医が一緒になって、同時に、外来や手術を担当する、脊椎脊髄センターを設立しました。これによって、整形外科・スポーツ診療科と脳神経外科の得意分野が統合され、すべての年代の患者さんの、すべての脊椎脊髄の病気に対応できるようになりました。

その他、東京都の委託を受けて、院内に「東京都難病相談・支援センター」を設置しています。もともと順天堂医院は、難病の患者さんが多いところです。その診療経験や技術を活かし、順天堂にかかっていらっしゃらない方を含めた、すべての難病の方の相談に対応しています。対応するのは難病相談支援員。難病特有のさまざまな合併症を考慮しながら一貫して検査や治療に当たっています。難病に特化した外来があるというのも、順天堂医院ならではの特徴と言ってよいでしょう。

今後も、時代の流れや患者さんの要望に応じて、さまざまな診療センターを適宜設立していくつもりです。より効果的に、わかりやすく、安全・安心な先端医療を提供してまいります。

後編はこちら

髙橋 和久

順天堂大学医学部附属 順天堂医院
院長

1985年、順天堂大学医学部を卒業。1994年、ハーバード大学医学部附属マサチューセッツ総合病院腫瘍外科学に留学。帰国後は順天堂大学医学部呼吸器内科学に所属。GCPセンター長、臨床研究支援センター長などを経て、2014年、副院長に就任。2019年4月より現職。

SNSでシェアする