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2020/4

全ての看護師に必須なスキル「臨床看護マネジメント」とは

「マネジメント」と聞いて、皆さんはどのようなイメージを持ちますか? 看護部長や看護師長などの看護管理者に必要なもので、中堅や新人看護師には全く関係のないものだと考えている方も多いかもしれません。 「マネジメントは看護師になった瞬間から必要である」と語るのは、一般社団法人日本臨床看護マネジメント学会の理事長である嶋森好子氏。今回は、「マネジメント」という視点から考える看護師の課題や、学会でも注力されている「マネジメントスキル・ワークショップ」についてお聞きしました。

嶋森 好子

一般社団法人 日本臨床看護マネジメント学会 理事長 / 岩手医科大学 看護学部長

質の高い看護の提供に欠かせない
「臨床看護マネジメント」

私たちが考える「マネジメント」とは、現状から問題を検討し、導き出した課題を解決するための道筋を明らかにすることで、戦略的に目的を達成する一連の行為のことです。このような前提のもと、看護における「マネジメント」とは、今置かれている環境の中で、どのような看護が求められているかを見極め、提供できる看護の人材や人数、他職種との連携を考慮しながら、最も質の高い看護を提供する方法を考えることです。

例えば、ICUと慢性期病棟で求められるマネジメントは異なります。ICUは、重症の患者さんを担当する分、急変する可能性も高いことはもちろん、確かな知識や技術が求められることも多く、慢性期よりもより緊張感をもってケアすることもあります。とはいえ、慢性期に比べると患者数は少なく、1人が担当する患者数は1~2人という場合が多いので、より集中してケアに取り組みやすくなります。一方、慢性期病棟では、5~10人の患者さんを1~2人で担当することもあります。多数の患者さんのニーズを常に見極めながら、優先度を考えつつ対応しなければならず、集中して丁寧にケアに取り組むというマネジメントより、臨機応変に対応するマネジメントが求められます。

また、1人の患者さんをケアするために、8時間勤務で3交代と考えれば、少なくとも3人の看護師と連携を取らなければなりません。もちろん、医師や薬剤師などの他職種との連携も不可欠です。ケアに携わる全ての職種とスムーズに連携すること。これも「マネジメント」のひとつです。

 

マネジメントに必要不可欠である
「考える力」、「伝える力」が不足している

私はこれまで、東京都済生会向島病院や京都大学医学部附属病院で看護部長として働いてきました。働いた病院の病床数は多いときで1000床以上でした。看護師として、また、看護管理者として多くの現場を長年見てきた中で、昨今の看護師に特に不足していると感じているスキルがふたつあります。

ひとつ目は、「意識的に自分で考える力」です。例えば、日々の業務の中でAかBかという選択を迫られたとき。「なぜAにしたのか」と理由を聞いても、「上司がこうしているから」、「先輩がAにしなさいと言ったから」と、ほとんどの看護師が答えます。自分が行った選択に、自分の考えが伴っていないのです。

ふたつ目は、「提案する力、伝える力」です。重複になりますが、最近は「意識的に自分で考える」ことが苦手な看護師が多いように感じます。上の人に言われた通りに業務をこなすことで、自分で考える力はもちろん、自分の考えを整理し、言語化して伝える力が弱いように思います。結果的に、問題を上手に解決することもできていません。

看護の仕事に選択や決断はつきものです。それが時に患者さんの命に関わることもあるのが看護師の仕事です。自分で考え、判断する力がないと、いざ決断をせまられたとき、いつになっても上司や先輩の意見がないと怖くて決めることができなくなってしまいます。患者さんに最適な看護を提供するために、現場をマネジメントしていくにはこの2つの力は必要不可欠なものです。

 

「マネジメントスキル・ワークショップ」に注力
組織から病院、そして地域全体のケアの質の向上へ

こうした現状を踏まえ、当学会で注力しているのが、2011年から開催している「マネジメントスキル・ワークショップ」です。講師には、洗剤や化粧品など日用品の世界的なシェアで知られるP&Gで、製品開発やブランディング部門を担当されて、優れたマネジメントのノウハウをお持ちの高田誠さんを迎えました。ワークショップのコーディネーターは、当学会の研修担当理事で東京都看護協会の会長でもある山元恵子さんで、ファシリテーターとして、このワークショップに参加経験のある、様々な病院の看護部長や看護担当副院長等が参加しています。

ワークショップでは、特に看護師に不足している「伝える力」、「考える力」に加え、マネジメントのためのマインドと“目標管理”や“ナレッジマネジメント(暗黙知を形式知へ転換)”等、様々なツールを使って「マネジメントスキル」を身につけます。最終的には、様々な人や組織と「協働する力」を学び、5の力が身につくように支援します。例えば「伝える力」では、まず、実際に自分が困っていることや解決したい問題を自分なりに整理し、グループのメンバーに伝え、ディスカッションを通して考える力を学びます。次に、グループのメンバーを上司に見立てて、考えた解決策を伝え、上司が、理解し解決のために動くように伝えられるかどうかについて、グループディスカッションを通して学びます。

このワークショップには、看護管理者はもちろん、中堅の看護スタッフ、さらには薬剤師や臨床検査技師、医療事務の方が参加することもあります。病院の全職員対象の研修として実施する事例も増えてきました。

金沢医科大学病院では、数年に亘ってワークショップを開催していますが、参加した師長さん達が、以前よりも、お互いにケアの方法や人材育成などについて提案し合えるようになったそうです。一昨年からは、地域内の他の病院の管理者の参加も募り研修を開催しています。まずは自らを変えることで組織が変わり、その動きが病院全体、さらには地域へと広がっていき、結果的に地域全体の臨床看護マネジメント力が底上げされ、ケアの質の向上にもつながっていくと期待しています。

後編では、臨床看護マネジメントのさらに先である「臨床医療マネジメント」という視点についてお伝えします。

 

嶋森 好子

一般社団法人 日本臨床看護マネジメント学会理事長
岩手医科大学 看護学部長

1968年川崎市立看護学院卒業。川崎市立川崎病院、東京都済生会向島病院等を経て、1999年日本看護協会常任理事。2002年より京都大学・医学部附属病院看護部長などを歴任。

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