インタビューアーカイブ

2020/8

がん医療のリーディングホスピタルが考える〝よりよく生きる〞ための協働型医療とは(後編)

厚生労働省によると、2018年に亡くなった方のうちがんが原因で死亡した人は27.4%で、3.6人に1人ががんで死亡していると報告されています。そんな日本のがん医療を牽引しているのが、国立がん研究センター中央病院です。病院長の西田氏は“協働”をキーワードに、他職種や世界の病院、さらには患者さんとも連携しながら、臨床治験や支持療法などさまざまな研究に取り組んでいます。がん診療のリーディングホスピタルによる“よりよいがん治療”への取り組みや、「未来のがん医療」についてお聞きました。

西田 俊朗

国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 前病院長 / 国立がん研究センター理事長特任補佐

希少がんのネットワークづくりや克服へ向けた取り組み

前編はこちら

冒頭でも述べたように、私たち国立がん研究センター中央病院は、がん医療のリーディングホスピタルを目指しています。リーディングホスピタルとしての重要なミッションが、アンメットメディカルニーズのある領域の問題を解決する、つまり希少がん難治がんの治療に取り組むことです。2014年に希少がんセンターをつくり、同時に希少がんの相談支援にあたる希少がんホットラインを開設しました。そして今、これらを発展させ希少がんの全国ネットワークづくりを始めました。

最初に行ったのが、それぞれの希少がんのワーキングチームをつくること。さまざまな医療機関と連携し、「この希少がんの専門施設はここにある」ということを明らかにしていきました。現在は、全国各地に存在する専門施設と患者さんをつなぐ仕組みをつくっているところです。具体的には、九州、近畿、東北などの各地域に一つ、ハブとなるような病院を置き情報提供することで、希少がんの患者さんが住み慣れた地域で、専門施設にかかり診断治療を受け相談に乗ってもらえるネットワークをつくろうとしています。ハブとなる病院が機能すれば、地域に近い専門施設を紹介するなどのきめ細かなケアができますし、患者さんが専門外の病院で不正確な診断を受けてしまうような事態も防げることでしょう。また、希少がんの新しい治療法の開発にも努めています。例えば、日本でも年間80例ぐらいしかないといわれている小児の目のがん(網膜芽細胞腫)の場合。確立した治療法がなかったため、中央病院で行った臨床試験で、動脈から抗がん剤を入れる治療法を開発しました。この治療の成績がとてもよく、今や世界中に広まっています。

さらに今は中央病院を受診している希少がんの患者さんをもっと組織的にレジストリし、遺伝子診断等をして、バイオマーカーに応じて臨床試験を立てる、マスターキープロジェクトというものも進めています。このような取り組みを、京都大学や九州大学など、全国の臨床研究中核病院と一緒になって普及させようとしています。

西田 俊朗氏

1987年、大阪大学大学院医学研究科博士課程を修了。米国Tufts大学医学部で研究員を務めた後、大阪大学医学部第一外科へ。その後、大阪大学医学部附属病院教授、大阪警察病院副院長・外科系統括部長、国立がん研究センター東病院病院長、同センター中央病院病院長などを歴任し、2020年より国立がん研究センター理事長特任補佐に就任。

中央病院は、研究開発病院です。新しい医療をつくるという使命があり、新しい医療をつくるには、その基盤として今現在、最もよいと考えられる標準医療を提供していなければなりません。最良の標準医療を提供しつつ、最適なケアを提供し、そのうえでゲノム医療のような新しい医療に向き合い、新しい治療や薬を届けていく――。これからもがん治療の最前線で、常に挑戦を続けていきたいと思っています。

 

医療とは人対人で成り立つもの ケアの質を向上させることも欠かせない

よりよい医療を提供するには、看護やケアの質を上げることも欠かせません。ケアの質を上げるには、業務の効率化を図り、患者さんと向き合う時間をつく
ることが必要です。私は、特にケアの領域には、未開発の部分、効率化できる部分が、まだまだ数多く潜んでいると思っています。例えば、入院時のオリエンテーション。レジメンで入る内科の患者さんなど入退院を繰り返す人に、毎回、同じ説明をするのは、看護師にとって
も患者さんにとっても負担の掛かる行為ですよね。細かいことですが、こういう〝非効率〞を一つずつ効率化していくことが必要なのではないかと考えています。また、ケアの領域には、エビデンスがないものが多く、それもまた問題だと思っています。ひと昔前の経験に基づく常識がまかり通っていたり、昔からの慣習として続いている業務が存在していたり……。いっそのことエビデンスのない業務や、予後に関係のないことは省いてしまい、患者さんと話す時間をつくったほうが、QOLは上がるかもしれませんよね。医師の世界でも、当たり前だと思ってやっていたことがエビデンスによって無駄だったと判明したということが何回もありました。エビデンスに基づくケアができれば、もっと効率的に質の高い効果のあるケアができるようになる。看護には大きな可能性があると考えています。

また、ケアの部分でも協働が鍵になると考えています。例えばホテル等の宿泊施設や化粧品メーカーなどの一般企業と協働し、接客のノウハウやクレーム対応のメソッドを取り入れることで、ケアの質がグンと上がる可能性があるんじゃないかと思うのですよね。

医療は、やはり人対人の接触ですから。ここの質が上がることで患者さんの満足度が上がり、QOLが上がって、それが最適な治療につながっていくとよいと考えています。

今後は、国際展開にも力を入れていく予定です。希少がんは、文字通りまれながんであり、日本だけで臨床試験をしようとしてもなかなか結果に結びつかないのです。まずはアジア圏で体制をととのえたいと考え、シンガポール、台湾、韓国、香港(中国)、そして日本で早期開発のグループをつくりました。これから、先述したマスターキープロジェクトも海外を巻き込んで展開して行いたいと考えています。強いリーダーシップを発揮して、アジア、そして世界へ。そう遠くないうちに、世界の病院トップ10に入ることを目指しています。

西田 俊朗

国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 前病院長
国立がん研究センター理事長特任補佐

1987年、大阪大学大学院医学研究科博士課程を修了。米国Tufts大学医学部で研究員を務めた後、大阪大学医学部第一外科へ。その後、大阪大学医学部附属病院教授、大阪警察病院副院長・外科系統括部長、国立がん研究センター東病院病院長、同センター中央病院病院長などを歴任し、2020年より国立がん研究センター理事長特任補佐に就任。

SNSでシェアする