インタビューアーカイブ

2020/9

看護の基本はいつの時代も変わらない withコロナ時代の看護の在り方(後編)

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、生活様式だけでなく看護の提供体制も変化しつつあります。withコロナ時代の看護の在り方、どんな時代も変わらぬ看護の基本について、日本看護協会会長の福井トシ子さんにうかがいました。

福井 トシ子

公益社団法人日本看護協会 会長

オンライン診療、訪問看護 変化する看護の提供体制

前編はこちら

看護の基本は変わらないものの、看護の提供体制にはすでに変化が生じています。例えば、これまで患者さんと会話するときは、基本的に正面から向き合っていることが多かったと思いますが、飛沫感染を引き起こさないためには、横に並んで対応する等、看護師と患者さん双方が感染リスクを抑えるよう行動することが必要になります。

ICTを活用すれば看護師がベッドサイドにいなくても体温、呼吸状態などを遠隔でモニタリングすることが可能になりました。こうしたシステムを導入することで、濃厚接触を避けることも可能になっています。看護師が安全を保った状態で感染患者さん一人ひとりに寄り添ったケアを提供することができます。こうしたシステムをすでに導入している医療機関もあります。

また、厚生労働省が4月にオンライン診療の規制緩和を行ったことから、新型コロナウイルス感染症が収束するまでの期間に限り、初診からオンライン診療を行えるようになりました。対面診療を避けたい方も診療を受けられるとあって、利用者が増加しています。それにより、オンライン診療と対面診療を併用するなど、患者さんの受療行動が変わりつつあります。患者さんが1カ月に一度遠隔でオンライン診療を受けるとしたら、次の診療までの間、患者さんと共にケアをととのえる環境をつくるのが看護師の役割です。在宅の患者さんを訪問し、セルフケア能力が下がっていないか、療養環境が悪化していないか、病状が悪化していないかといったことを確認する。どのように患者さんにアクセスすべきか、どうやってフェイストゥフェイスでケアすべきか、看護師もしっかり考えていかなければならないと思います。

感染リスクを恐れる外来の患者さんは、ワクチンができて新型コロナウイルス感染症が収まらない限り、なかなか通院を再開しようとはしないでしょう。外来で働く看護師もただ患者さんを待つだけでなく、訪問看護ステーションと連携して利用者にケアを届ける等、患者さんとどう関わっていくべきか考える必要があります。患者さんを動かすのではなく、自分たちが動いたり、リモートを活用したりする。「withコロナ」「afterコロナ」時代は、看護の提供体制が変わっていくのではないかと思います。

 

第二波に備えてもう一度体制の見直しを

第二波に備え、日本看護協会では医療現場に対していくつかの提案をしています。

  • 感染対策のマニュアルを作りましょう
  • 感染者が来院したときのシミュレーションをしましょう
  • 医療物資の備蓄を十分に確保しましょう
  • 組織内で話し合いを進め、有事の際に困らない体制をととのえましょう

看護職の皆さんには、今後もこうした点に積極的に取り組んでいただきたいと考えています。また、事態が長期化するほどメンタルヘルスへの影響も懸念されます。

  • 看護師のメンタルケアについて十分な体制がととのっているか
  • 看護管理者もメンタルケアを受けられる環境になっているのか

といった点も再確認していただければと思います。お困りのことがあれば、日本看護協会に相談してください。体制づくりのアドバイスをいたします。要望の声等も、ぜひ日本看護協会までお寄せください。

 

看護職の地位向上を目指す「Nursing Now キャンペーン」

2020年は、看護の基礎を築いたナイチンゲール生誕200年にあたります。また、世界保健機関(WHO)が制定した「看護師と助産師の年」でもあります。このような節目の年を迎えるにあたり、WHOと国際看護師協会(ICN)が連携し、「Nursing Now キャンペーン」を展開しています。看護職への関心を深め、地位の向上を目的とした世界的なキャンペーンです。本来であれば、制定30周年を迎える5月12日の「看護の日」に向けて、大々的なイベントを開催する予定でした。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い延期となりましたが、2021年までキャンペーンを継続し、人々の健康の向上に貢献できるよう行動していきたいと考えています。

看護の発展は、国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の17の目標のうち、以下の三つの目標に貢献します。

目標3:すべての人に健康と福祉を

住民の健康を支える看護モデルの確立

目標5:ジェンダー平等を実現しよう

可能性の拡大:より自律した専門職へ

目標8:働きがいも経済成長も

看護職のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の推進

コロナ禍においても、看護の力で健康な社会をつくるべく、大きな目標を掲げて活動を続けていきます。看護職の皆さんにも「Nursing Now キャンペーン」の主旨を理解したうえでご参加いただき、皆さんの力で看護の機運を高めていただきたいと願っています。

Nursing Now キャンペーンについてはこちらから

福井 トシ子

公益社団法人日本看護協会 会長

【略歴】
2005年3月 国際医療福祉大学大学院博士後期課程修了
東京女子医科大学病院、杏林大学医学部付属病院総合周産期母子医療センター師長、
同院看護部長などを経て、2017年6月から現職
【資格】
看護師、助産師、保健師、診療情報管理士、経営情報学修士、保健医療学博

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