今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第210回 2020/10

SNS、YouTubeとどう付き合うべきか 看護師による情報発信はどこまでOK?

「外科医けいゆう」のペンネームで、医療情報サイト「外科医の視点」、「Yahoo!ニュース個人」、Twitter、YouTubeなど多くのWebメディアで医療情報を発信する、消化管外科医師の山本健人氏。看護師をはじめとする医療従事者がインターネット上で情報を発信する際、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。何気ない書き込みで患者さんを傷つけたり、不信感を抱かせたりしないよう気を付けるべき点、看護師ならではの情報発信について、アドバイスをいただきました。

取材日:2020年9月10日

京都大学大学院医学研究科、消化管外科
山本 健人 氏

外科医の視点

ニュースやドラマの解説で、
医療への理解を促進

前編はこちら
不確かな情報が飛び交うコロナ禍 看護師が正しい医療情報を得るには?

私は、医療情報サイト「外科医の視点」、Webサイト「Yahoo!ニュース個人」「時事メディカル」、YouTubeチャンネルなどで患者さんに役立つ医療情報を発信しています。「外科医の視点」では長く読み継がれるようなコラムを書き、「Yahoo!ニュース個人」では時事性の強い記事を書くなど、サイトによって扱うテーマを分けています。
 
「外科医の視点」では、医療ドラマに関する解説も執筆しています。医療ドラマは視聴率が高く、人気のあるジャンルです。ドラマで扱われた病気を解説したり、劇中の手術を実際の手順と比較したりすれば、読者もその症例について理解が深まるのではないかと思いました。例えばドラマの中で腹膜炎の患者さんがいたとしたら、ドラマの手術シーンを解説しながら、腹膜炎の原因、治療方法を説明します。ドラマを観た人に関心を持っていただけますし、より頭に入りやすいのではないでしょうか。
 
また、ドラマを介して医療現場について理解を深めてほしいという思いもあります。医療現場は年々複雑化し、治療や検査の種類、薬の数も増えています。そのため、医療に関わるスタッフも、専門分野がどんどん細分化され、分業が当たり前になりました。手術を行うにも、医師、看護師だけでなく臨床工学技士、放射線技師、理学療法士、作業療法士、薬剤師などさまざまな職種のスタッフが関わります。どの職種も対等で、代わりのきかない存在です。
 
しかし、患者さんの中には昔の医療ドラマのように、医師がヒエラルキーのトップに立って統率し、それ以外のスタッフはお手伝いさんのような存在だと捉えている方もいます。すると、大事なことを医者にしか告げず、相談の機会を失うことに。医療現場は分業制であることを知れば、患者さんも「これは薬剤師に聞こう」「これは看護師に相談しよう」と判断できるのではないかと思いました。時事性の高い医療ニュースの解説も、医療ドラマの説明も、すべては患者さんのため。患者さんが得をするような情報発信を心掛けています。

ささいなひと言が医療不信を招く
命に関わるからこそ、情報発信は慎重に

SNSの普及に伴い、近年は看護師からの情報発信も増えています。看護師は看護の専門家です。医師では伝えられない情報を発信することは、とても有意義だと思います。
 
その反面、注意してほしいことも2点あります。ひとつは、患者さんの個人情報の取り扱いです。「今日の外来でこんなことがあった」「昨日の手術はこうだった」と個人を特定できそうな情報を発信すると、患者さんは「これは自分のことだろうか」と心配になりますし、医療従事者の守秘義務にも抵触します。患者さんへの直接的な愚痴を書き込んだり茶化したりするのは論外ですが、たとえ善意からでも「こういう患者さんがいて大変だった。みなさん気を付けましょう」と体験談を語るのも避けたほうがよいでしょう。患者さんが病院にかかる時、「目の前の看護師や医師が、自分のことをSNSに書き込むかもしれない」と思ってしまうと、医療全体に対する不信感につながりかねません。実体験を例に挙げるのではなく一般論として発信するなど細やかに配慮し、医療不信を招く事態は避けてほしいと思います。
 
もうひとつは、情報検索する患者さんの不安に配慮することです。本人や家族が病気になると不安になるあまり、前のめりで医療情報を収集します。しかも命に関わる病気であれば、すがるような思いでネット検索する方も大勢います。発信する側もその点を強く意識して、情報を扱うべきではないかと思います。同じ病気、同じ症状の方でも、必要な治療や検査、重症度は一人ひとり異なります。「この病気の方にこういう治療をしたら劇的に回復した」などと安易に発信してしまうと、「私は同じ病気なのに治療を施してもらえない。この先生は信用できるのだろうか」と不信感を抱く可能性があります。あくまで論文やガイドラインなどの出典を明示し、一般論として発信する必要があるでしょう。

患者、看護師、医師、
それぞれに向けた看護師ならではの情報発信とは

以上のような注意点をクリアすれば、看護師からの情報発信はとても有意義だと思います。専門知識を活かし、話題の医療トピックについて解説するのもいいでしょう。例えば、安倍元総理が辞任する際、潰瘍性大腸炎の悪化を理由に挙げていましたので、私も「Yahoo!ニュース個人」でこの難病について解説しました。同じテーマを消化器病棟の看護師が書くのも面白いと思います。
 
また、看護師から看護師への情報発信も大きな意味があります。看護師の多い大病院なら先輩に相談したり、ノウハウを共有したりできますが、小さい病院ではそうもいきません。疑問に思ったことを聞けず、看護の悩みを相談する相手もいないため、辞めてしまう看護師も。そんな人が、SNSで先輩看護師とつながることができたらとても素晴らしいことだと思います。「病棟で医師に情報を伝える時は、こういう点に気を付けよう」「患者さんのケアはこうするとスムーズです」など、現場に即したアドバイスを送ることで業務も円滑になるのではないでしょうか。
 
あまり見たことのないケースですが、看護師から医師に向けて情報発信するのもいいかもしれません。多くの医師は医学には長けていますが、看護学については知識がありません。医療現場で看護師とどのように分業するか、どうすれば看護師とうまく協働できるかを伝えれば、医師にとっても勉強にもなりますし、患者さんのメリットも最大化できるはずです。

ひとりで発信できることには限りがある
信頼できる専門家の窓口を目指して

インターネットの普及拡大に伴い、医療情報を取り巻く環境は大きく変わりました。とはいえ、人によって何を情報源とするかは異なります。ネットしか見ない人、新聞しか読まない人も大勢います。ですから、私たちも幅広いメディアで情報発信をすることが重要です。また、情報の交通整備をする必要性を感じ、1年ほど前から20人程度の医師で構成される「発信する医師団」というグループに所属しています。
 
例えば、テレビ番組である病気について専門家に語ってもらう時、テレビ局のスタッフが誰を呼べばいいのかわからないことがあるはずです。そんな時、窓口になる団体があれば、適切な医師に話を通すことができます。それによって、専門外のコメンテーターが不確かな情報を拡散するリスクも減るでしょう。医療は専門分野が細分化されていますから、ひとりですべての領域に答えることはできません。私自身も、外科や消化器科については専門知識がありますが、例えば脳腫瘍や骨折のことはわかりません。信頼できる専門家が集まり、メディアと専門家の橋渡しをすることで、正しい情報発信に努めていきたいと考えています。
 
また、最近では動画で情報収集する人が増えています。そのため、今やYouTubeにも医療系動画が増え、「がん」関連の言葉で検索すると信頼性の低い怪しげな動画がたくさん表示されます。医療情報発信が重視されている米国からは、学会などによる優れた英語の動画が多数公開されていますが、日本は大きく遅れを取っています。今後5G時代になり通信速度が上がれば、動画から情報を得る人はますます増えるでしょう。私自身も個人でYouTubeチャンネルを開設していますが、ひとりの力ではできることが限られます。予算と人員を投入し、学会や公的機関を中心とした動画コンテンツも増やしていくべきだと考えます。
 
ありがたいことに、今年から私が在籍する日本外科学会で広報委員を務めることになりました。個人で経験を積むことで獲得したノウハウを、大きな組織での情報発信に役立てていければと考えています。
 
看護師は看護の専門家であり、医師とは違う専門領域を持っています。現場で培ったノウハウをさまざまな形で発信していただければ、医療業界、ひいては患者さんにとって大きな価値を生むのではないかと思います。

山本健人氏

2010年、京都大学医学部卒業。複数の市中病院勤務を経て現在、京都大学大学院医学研究科、消化管外科。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで、医療情報サイト「外科医の視点」を運営するほか、「時事メディカル」「Yahoo!ニュース個人」などのWebメディアで連載。TwitterなどのSNS、YouTubeでも情報発信にも意欲を見せる。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方(幻冬舎)」「もったいない患者対応(じほう)」「医者と病院をうまく使い倒す34の心得(KADOKAWA)」など。
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