今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第224回 2021/12

「食べることは、生きる源」 医療・福祉の現場を取り巻く食事介助の課題とは

看護師・介護士の業務のひとつである「食事介助」。その「食」が患者さんにとってどれだけ重要な意味をもっているのか、考えたことはありますか? 「今、医療・福祉の現場では食べることが軽視されている」と語るのは、20年以上食事介助の在り方を追求し続けてきた、看護師の小山珠美氏です。「口から食べることの意義」にいち早く気づき、NPO法人 口から食べる幸せを守る会理事長も務める小山氏に、経口摂取の必要性と、「食事介助」における医療・福祉現場の現状についてお聞きしました。

取材日:2021年11月19日

NPO法人 口から食べる幸せを守る会 理事長
看護師
小山 珠美 氏

NPO法人 口から食べる幸せを守る会

「食べられるはずの人が食べられない」
医療の現場で感じた違和感が活動の原点に

私が食事介助を追求し始めたのは、今から約25年以上前、胃ろうなどの人工栄養技術が普及し始めた頃です。当時は日本の高齢化が進展し始めており、高齢者の患者さんが増えてきていた時期でもありました。その際、目につくようになったのは誤嚥性肺炎を発症するリスクを懸念し、人工栄養を選択するケースの多さでした。口から食べられそうな方でさえ、食べさせていないという実情に疑問を覚えたことが、食事介助を学ぶ大きなきっかけとなりました。
 
活動を始めてから約10年後、愛知県看護協会からのオファーで摂食・嚥下障害看護認定看護師教育課程の主任教員を担当しました。その中で研修生と共に急性期病院で実習する機会があったのですが、そこで目にしたのは、いつまでも経口摂取を開始しようとしない現状でした。以前から「急性期から、食べる支援に取り組むべき」と常々考えていた私は、これを機に急性期の病院で、早期に経口摂取に取り組むことができる仕組みを作らなければならないと実感。それまで急性期病院で働いた経験がなかったため、当時勤めていた神奈川リハビリテーション病院から東名厚木病院に転職し、9年間実績を積み重ねていきました。
 
活動を続けるうちに、病院外の方からもご相談をいただくことが増えていきました。こうした方々も救いたいという一心で、2013年に設立したのが、NPO法人 口から食べる幸せを守る会です。看護師として働くかたわら、講演活動や、食事介助の技術指導を行い、困難症例にも対応できる人材育成に力を注いできました。

「食べることは生きる活力になる」
口から食べることにこだわる理由とは

そもそも、なぜ「口から食べること」が重要なのでしょうか。私は食べることは生命の源であると思っています。誰でも、おいしいものを食べると元気が出ますよね。病気になれば、これまで当たり前だった食事ができなくなってしまうこともあります。そんな中、全く食べられない状態から、少しでも食べられるようになればどうでしょうか。「明日はもう少し食べられるかもしれない」。そんな生きる活力を生むのです。
 
同時に、「口から食べること」には医学的なメリットもあります。私が「早期の」経口摂取にこだわる理由はここにもあるのです。人間の体は、使わなければどんどん機能が低下していきます。食事を目で見て、においをかいで、味わい、「おいしい」と感じる。このように五感や感情を刺激することは脳の活性化にもつながるのです。実際、早期から経口摂取に取り組んだことで、うつろだった方が目を開けられるようになったり、話すことが困難だった方が「おいしいよ」「喉が渇いたよ」と話したりすることができるようになった事例は数多くあります。

正しくない食事介助法が掲載されている教本も
適切でないことに「気づけない」という現状

活動を始めた当時に比べれば、医療の現場において経口摂取へのとらえ方は前向きになっていますが、まだまだ「食べること」に重きをおいていないと思いますし、食事介助という技術を軽視していると感じます。
 
私は食事介助とは、自力で安全に食事をすることが困難な人を、安全、安楽にサポートし、自立やQOLの向上を支援していくことだと考えています。ただ食べ物を口の中にいれればよいというわけではないのです。しかし、介助の現場で目にするのは、適切な食事介助とは程遠いものばかり。特に介護の現場は非常に課題が多いと感じています。例えば、ご自身で食事をしているご利用者の位置がテーブルから離れており、遠いところに手が届かず苦しそうに食事をしている姿。ご利用者の顎が上がってしまうほど高い位置から食べさせており、誤嚥の危険性を高めているような姿。右利きの方を左側から介助し、食べづらそうにしているご利用者の姿。お世辞にもおいしそうに見えない食事……。私から見れば問題だらけの現場ですが、介助者もその周りの人も、何が間違っているのかに気がついていないのです。
 
そもそも、食事介助の技術に対する教育は、看護も介護も自ら学ぼうとしなければ得られるものではありません。看護の場合、点滴や胃ろう、経鼻経管をしている患者さんの管理方法といったものが中心です。経管栄養から経口摂取を進めていくための方法や、誤嚥性肺炎発症のリスクが高い人への食事介助はほとんど学んでいないと思います。「目の見えない方には食事内容の説明をして口に入れましょう」や「自分で食べられる人はできるだけ自力で食べられるよう介助しましょう」という説明があるくらいでしょう。
介護にいたっては、食事介助を対象者の心身の状況に合わせて介助するという教育はほとんどされていないと思います。実際、間違った食事介助方法が紹介されている介護の教本やサイトを目にしたこともありました。正直、腹立たしさを覚えるほどです。

複雑化する要介護者の増加を見越し、
現場だけではなく、国の施策を変えていくことも必須

このように、食事介助の正しい教育が行き届いていないにも関わらず、介護される側である患者さんやご利用者の状態が重度化しているということも課題でしょう。高齢者は単一疾患ではなく、がんや脳卒中、呼吸器疾患や骨折の後遺症、重症化した認知症……というように複合疾患の方がほとんどです。さらに昨今は、社会的にも最後まで食べ続けさせたいというご家族が増えてきており、できるかぎり経口摂取を取り入れていくという風潮に変わりつつあります。加えて、内閣府の令和二年版高齢社会白書によれば、2036年には、高齢化率は33.3%にもなるといわれています。つまり、難しい食事介助の患者さんやご利用者は今後ますます増えていくわけです。だからこそ、介助する側である看護師・介護士は、積極的に正しい食事介助を学び、スキルアップをしていくことが必要不可欠だといえます。
 
しかし、課題は現場だけにあるわけではありません。私は、国や自治体にこそ「口から食べることへの支援」をもっと重視してほしいと感じています。今の診療報酬、介護報酬では、時間をかけて食べさせるよりも、時間をかけず、点滴や経鼻経管で栄養を与える方が、加算がつくという仕組みになっているのです。これは、大きな課題だと思います。お金がもらえるから丁寧にやるというわけではありませんが、国や自治体が「人生の最期まで、おいしく食べられるように」ということに着目してくれれば、医療・福祉現場の「食」の在り方は変わっていくはずです。そのために、私も声を上げ続けたいと思っています。

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後編では、食事介助への心得や取り組み方、また、これまでに10,000人以上を介助してきた小山氏の印象に残っているエピソードをうかがいます。

後編はこちらから↓
経口摂取という選択肢をあきらめない 「多職種」の専門性を活かし、チームで食事介助に取り組む

小山 珠美氏
NPO法人 口から食べる幸せを守る会 理事長
看護師
 
【職歴】
1978 神奈川県総合リハビリテーション事業団 神奈川リハビリテーション病院 看護師
1987 同事業団 厚木看護専門学校 看護第一学科 専任教員
1995 同事業団 七沢リハビリテーション病院脳血管センター 看護師長
2001 同事業団 神奈川リハビリテーション病院 看護師長 
2005 愛知県看護協会 認定看護師教育課程「摂食・嚥下障害看護」主任教員
2006 社会医療法人社団 三思会 東名厚木病院 
2013 NPO法人 口から食べる幸せを守る会を設立
2015 JA神奈川県厚生連伊勢原協同病院 摂食機能療法室 現在に至る
 
著書に『口から食べる幸せを守る』(主婦の友社)、『口から食べる幸せをサポートする包括的スキル 第2版 KTバランスチャートの活用と支援』(医学書院)など。看護師としての仕事に従事しながら、全国各地で講演、研修を開催。2022年度にはガイドブック付の食事介助ビデオの販売も予定しており、適切な食事介助技術の普及を目指し精力的に活動している。
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