今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第227回 2022/03

看護実践能力の向上とタイムリーなケアを叶えた タスクシフトの実践方法と成功の秘訣とは

日本看護協会が開催している「看護業務の効率化先進事例アワード」で、2021年の最優秀賞に輝いた東京都立小児総合医療センターの小児集中治療室(以下、PICU)看護部。診療補助業務や特定行為の実践により医師と看護師間のタスクシフトを行い、業務時間の削減や効率化などに成功しています。成果を生み出すためにこだわったポイントや、現場スタッフの様子について、取り組みを先導した新井氏とPICU看護師長の小松氏、猪瀬氏にお聞きしました。

取材日:2021年12月20日

看護師長
左:小松 由己 氏

副看護師長 クリティカルケア認定看護師  特定行為研修修了者
中:新井 朋子 氏

看護師長
左:猪瀬 秀一 氏

東京都立小児総合医療センター

「安全性」を第一に指導者と実施者を選定


[画像1]手順を学べる約3分の動画も作成
前編はこちらから
「看護業務の効率化先進事例アワード」最優秀賞受賞
医師、看護師間のタスクシフトによる業務効率化を実現


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新井 PICUでは、患者さんへのタイムリーな対応の実現や医師・看護師の業務効率化を目的に、「診療補助業務のタスクシフト」と「特定行為研修修了者による特定行為実践」を2020年から実施しています。特にタスクシフトは、医師との信頼関係のもとに行われますから実際に手技を行うスタッフがきちんとできなければ、任せてもらえなくなると思っていました。だからこそ、実施方法や計画は綿密に、私自身が自信をもてるようになるまでしっかりと考え、作り込みました。

まずこだわったのは、指導者と実施者の選定です。診療の補助業務では、集中ケア認定看護師、診療補助業務担当指導者、特定行為研修修了者である私の3名をリーダーとして立てました。小児の集中治療は処置も細かく、少しのことでも容体が急変しやすいため、慎重さを欠くことができません。だからこそ、取り組みの目的をしっかりと理解し、安心して任せられる人材を選定しました。この取り組みについて2人に話をしたときは、とても前向きに賛同してくれて、心強かったです。

また、取り組み実施者側にも実施規定を設け、「小児の集中治療に携わる看護師のクリニカルラダー(※1)」のⅣ(幅広い視野で予測的判断をもち看護を実践する)以上のレベルのスタッフのみ、実施可能としました。これも安全性を確実に担保するための判断です。
さらに、効率的な指導を行うために、医師の手順書をもとにしたオリジナルのマニュアル、指導者や医師による技術チェックを受けるための指導チェックリスト、手技の手順を確認できる動画(画像1)を作成しました。
 
猪瀬 動画は、集中ケア認定看護師のスタッフが作ってくれました。「診療補助業務のタスクシフト」である①動脈ラインポートからの採血 ②中心静脈/動脈ライン圧ライン交換 ③気管内チューブ固定テープ交換の3本分あります。3分ほどの長さで気軽に見ることができますから、スタッフの学習にも役立ったのではないかと思います。
 
※1 日本看護協会、日本集中治療医学会看護部会のラダーを参考に作成されたラダー

スタッフが前向きに取り組めるような工夫を


▲スタッフステーションの大型サブディスプレイにMDRPUの発生率や動脈ラインポートからの採血数などを表示
猪瀬 ほとんどのスタッフが今回の取り組みに前向きでしたが、「これは医師の仕事ではないか」という反応もゼロではありませんでした。そうしたスタッフには、強引に押し付けるのではなく「あなたはこうした業務ができるレベルにいるということだよ」とプラスにとらえてもらえるような伝え方をしました。
 
新井 「プラスにとらえてもらう」ために、勉強会も実施しました。例えば、気管内チューブ固定テープ交換は、チューブが抜けてしまうと大変なことになります。小児の場合は、成人と比べてチューブが短く、少し動いただけでも抜けてしまうため、かなりの緊張やストレスを伴う業務でもあります。もちろん、手技を行うスタッフには何度も練習をしてもらい、きちんと医師のチェックを経て実技に移ってもらうようにしていましたが、はじめは怖がるスタッフもいたのです。

そこで勉強会では、私たちがタイムリーにこの業務を行えば、医療関連機器圧迫創傷(以下、MDRPU)の発生率を減らすことができるはずだと伝えました。恥ずかしながら、気管内チューブ固定テープ交換を実施する前のMDRPUの発生率は、66%(※2)と非常に高かったのです。現状を伝え、「減らしていこうよ」と呼びかけました。加えて、看護師が行えばテープの交換時に口腔ケアを行うこともできます。「患者さんにとっても、自分たちにとってもよいタイミングに口腔ケアができ、MDRPUも予防できるなんて最高じゃない?」とお話しすると、後ろ向きだったスタッフも納得して取り組んでくれるようになりました。
 
猪瀬 こうしたMDRPUの発生率や動脈ラインポートからの採血数などの情報を、スタッフステーションに設置している大型サブディスプレイを使ってリアルタイムにフィードバックしていました。自分たちの現状を知ってほしかったですし、目に見える形でないと達成感を得にくいのではないかと思ったからです。
 
新井 スタッフのモチベーション向上のためにも、数値的な成果を伝えることは必要だと思っていました。しかし、それを継続的に発信していくのは、本来の業務の忙しさの中では難しく感じていたのです。そうした中で、猪瀬さんがエクセルなどをうまく活用し、データの取り方や集計方法をシステム化してくれたおかげで、みんなで協力しながら、手間がかからない形でデータを取り続けることができました。
 
猪瀬 大型サブディスプレイに映し出されたデータを見た先生方が、「助かるよ」と私たちに声をかけてくれたこともあり、スタッフのモチベーション向上にも大きな効果があったと思います。

※2 集計期間:2020年4月~6月
<計算式> MDRPUインシデント件数/5mm以上の挿管チューブ使用数

 

業務時間の削減、患者へのタイムリーなケアを実現

新井 数値的な成果として、診療の補助業務のタスクシフトで年間181.9時間の医師の業務時間削減を達成しました。特定行為は、「気管チューブ位置の調整」や「人工呼吸管理がされている患者への鎮静薬の投与量の調整」など計12行為を実践し、トータルで239時間の医師の業務時間削減を実現しました。診療の補助業務と特定行為実践で、合わせて約420時間削減できたことになります。

タスクシフトにより、課題の1つでもあった看護師の医師を待つ時間が減り、約8割の看護師が、取り組み後のアンケートで「タイムリーな処置を患者に提供できた」と回答しています。また、MDPRUの発生率は2020年11月時点で16.6%となり、取り組み前から約50%減らすことができました。さらに、看護師の超過勤務時間の削減にも効果があり、2018年度には一人あたり3.4時間/月だった超過勤務時間を2020年度には2.0時間/月まで減ったのです。医師や看護師、患者さんにとっても意義のある取り組みだと感じています。

特定行為の実践でも印象的だったできごとがありました。PICUの患者さんは、意識がない子がほとんどですが、たまたま意識があるお子さんがいたのです。ラウンドをしていた際に、苦しそうな顔をしていることに気がつき「もしかして苦しい?」と確認すると、筆談で「苦しい」と伝えてくれました。呼吸器の設定を確認したところ、変更した方がよいと感じたのです。特定行為区分には、人工呼吸器の「侵襲的陽圧換気の設定の変更」があるため、先生に「呼吸器の設定が合っていないので、変えようと思う」と一声かけたうえで対応。すると、笑顔で「楽になりました」と紙に書いて伝えてくれたのです。その時の笑顔は今でも忘れられません。

実施規定をアップデートしながらタスクシフトの拡大を目指す

猪瀬 タスクシフトを通して、医師とのコミュニケーションが増え、連携も強化されたように思います。今回の取り組みを機に「PICUだから働きたい」という、スタッフのやりがいにもつながったらうれしいですね。
 
新井 患者さんのデータに医師と看護師の目が入るため、見落としなどもなくなりました。最近は看護師からも「この処置をしなくて大丈夫ですか」「このデータが気になるのですが」など積極的に医師に声をかけるようになっており、「患者さんを一緒に診ていると感じ、ありがたいです」と言ってくださる先生も多くいらっしゃいます。
 
小松 現場のスタッフの意識も向上していると感じます。タスクシフトの実施にはラダーのレベルに達する必要があるため、そのレベルを目指してがんばっているスタッフもいますからね。現場全体のモチベーションアップにも非常に効果的な取り組みだったと感じています。
 
新井 実は、取り組みを経て実施規定を少し変更したのです。これまでは、診療補助業務の実施には「小児の集中治療に携わる看護師のクリニカルラダー(※1)」のⅣ以上のレベルのスタッフのみが実施可能でした。しかし、今回の結果を受けて安全性が担保できることが実証されたので、①動脈ラインポートからの採血のみ、ラダーのレベルをⅢ-2まで下げることにしました。
 
小松 現在、PICUには62名の看護師が在籍しており、最終的には全体の約40%が診療の補助業務に参加してくれています。特定行為研修修了者は新井さん1名ですので、研修への参加を希望するスタッフが増えてくれたらうれしいですね。

今後は、新井さんがお話したように、実施状況などを随時見直し、アップデートしながら診療補助業務のさらなる拡大を目指してしていきたいと思っています。もちろん、特定行為研修修了者を活用してさらなるタスクシフトにも取り組み、業務改善の推進にも注力していきたいですね。

看護業務の効率化先進事例アワードとは?

日本看護協会では看護職がより専門性を発揮できる働き方の推進や看護サービスの質の向上を図ることを目指し、厚生労働省補助金事業として、看護業務効率化先進事例収集・周知事業を実施しています。その取り組みのひとつが「看護業務の効率化先進事例アワード」です。過去の先進事例も紹介されていますので、ぜひチェックしてみてください。

https://kango-award.jp/index.html

東京都立小児総合医療センター
 
[住 所] 〒183-8561東京都府中市武蔵台2-8-29
JR中央線・武蔵野線西国分寺駅から徒歩15分。
[規 模] 敷地面積180,257㎡(多摩メディカルキャンパス内)
    建物面積9,016㎡
[開 設] 2010年3月
[病床数] 561床(一般347床 結核12床 精神202)
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