医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。
第72回 2009/04
在宅医療を充実させる支援を
問題山積の在宅看護・介護の分野。国立長寿医療センターでは、病院での治療を終えて在宅に戻る患者さんたちが、より医療を受けやすくするための在宅医療支援病棟を開設します。その意図や在宅看護・介護の問題点等についてうかがいました。
国立長寿医療センター研究所 研究所長室
在宅医療推進のための看護・介護研究プロジェクト
長寿看護・介護研究室長
大島 浩子 氏
"在宅医療推進のための看護・介護研究プロジェクト"は、今年立ち上がった運用上のプロジェクト名です。文字通り在宅医療を推進していくためのものです。
特に、長寿医療センターでは今まで在宅医療に取り組んでこなかった経緯があり、センターを上げて、在宅医療をどのように推進するかという研究プロジェクトです。
まずは在宅医療を、病院から地域に向けて地域から病院に向けた24時間365日、高齢者が最後まで安心して安全に安楽に在宅で過ごせるように支援しましょう、という考えです。それは在宅もそうだし、病院でもそういう目を持って在宅にお返しし、支援していきましょうということを課題としています。
ですから、病院、地域、在宅を支える訪問看護ステーションや介護ステーション、在宅医療支援診療所など、いろいろな機関・職種がありますから、そこの整備をしながら、いかに最期まで安全に安心に暮らせるようにするかを整備していく。そういうことを、ただ単に医療的な観点からではなく、看護の視点で、病気だけではなく、生活上どんな風に困るのかなどを看護で支え、ご家族にもケアをしていく、地域ケア提供者への支援方法など、その方法を考えています。
具体的に今取り組み始めているのは、当医療センターで4月から開棟する在宅医療支援病棟です。
現在は治療が終われば病院から在宅に返す、という取り組みが盛んです。このため、退院調整ナースや退院支援というかたちで、より早い時期に、ご本人が帰りたいという希望を持っていたり、帰れる状況であるうちにご自宅に帰りましょう、と勧めている状況があります。たとえ、がんの患者さんであっても、家族といっしょに最後を迎えたほうが生活の質が高まるだろうということで、どんどん帰っていくようになっています。
一方で、がんの方だけではなく、ご自宅に帰っても障害によっては長い経過をたどる方がいます。脳卒中の方などもそうですが、障害があって急性期に生死をさまよう状態から回復して、家に帰って、リハビリをし療養をしながら過ごす人はたくさんいらっしゃるわけです。このような場合、家庭でちょっと具合が悪くなって肺炎を起こしたり、つまずいて骨折し寝たきりになってしまったりするリスクがあります。しかし現在は一度自宅に帰したら、二度と病院に入院できないことが多いのです。バックベッドの確保が不十分だったり、再入院するとレスパイトケアだと言われたりして、あまり良い捉え方はされていません。
このような中で、もちろん在宅でも、地域の診療所の先生のお力や、訪問看護師のお力もありますので、点滴などたいていのことはできますが、やはり入院が必要な人もいることがわかってきました。在宅医療を進める上では、ご家族もご本人も、ちょっと入院して安心し必要な医療・ケアを受けたいとか、言葉は不適切かもしれませんが、家族の側からすると介護負担の部分で少し手が離れればありがたい、地域ケア提供者への支援など、という本音の部分も考えていく必要があるわけです。患者さんと家族、ケア提供者の調整や仕切り直しが必要となっています。
これまでですと、家族が介護に時間を割くのが困難なので施設に入ってもらおうということになり、そこから施設にずっとお世話になるということになりがちでした。そこを2,3日でも1週間でも、何かが悪化している場合もありますので、病院で適切な健康管理をしながら、また調整していくことが必要となっています。高齢者はどんどん機能が下がっていきますから、そういうところを診ながら、自宅でどういう風に暮らしていくかを調整する、そういうところをやっていこうという病棟が立ち上がり、診療や看護モデルの構築を図ろうとしているのです。
施設に入ってそのまま帰ってこれなくなるよりは、1週間でも3日でも病院に入院することで、状態が良くなってお帰りになり在宅で長く過ごせるのであれば、それも一つの在宅支援の方向性としてあるのではないかと考えております。
全国的に、訪問看護ステーションは頭打ちの状態です。一時はすごく増えたのですが、経営上の問題があったりして増えないのです。在宅での看取り、最期を迎えるためには訪問看護師ががんばらなければいけない状況です。
訪問看護の報酬は介護保険と医療保険から支払われます。地方の場合など、移動時間もかかります。山間部だったりすると、一時間くらい車を飛ばして訪問したりするので、一日に何軒も行けません。経営からみると、費用対効果の面で非常に厳しいわけです。
訪問看護ステーションの機能のひとつである療養通所介護は、たとえば呼吸器をつけている人や、未熟児で生まれて早く帰ってくる子どもたちを預かることもできます。障害が中・重度の人を地域で支えていくときに、通常利用しているなじみの訪問看護ステーションの看護師等が、医療処置と生活支援を提供し、ご本人にとっても外に出るということで、ある意味、社会参加の一つとしてそういう活動をする機会にもなります。また、ご本人が療養通所介護にいる間に、ご家族は自分の時間が持てます。家族にとってもハッピーですし、在宅療養を継続するうえで必要な支援のあり方の一つかと思います。とても必要なものなのですが、これも費用や設置基準が厳しくてクリアするのが難しいところです。今回の介護報酬改正で、療養通所介護も加算がちょっと上乗せにはなりましたが。地域での受け皿や支援する仕組みを徐々に整備している段階です。
訪問看護師自体も不足しています。これは増やすのがなかなか難しく、本当に答えが出ない状況です。潜在看護師の掘り起しも言われていますが、長く休業していて復帰する場合、今の医療はかなり進歩していますから、がんの人の症状のコントロールなども、10年前とはまったく違っています。ですから掘り起こしだけでなく、復職のためのサポートも必要だと思います。
訪問看護師が増えない原因として、報酬の面で報われないという大きな問題があります。訪問看護ステーションの7割は、24時間対応しています。訪問看護ステーションの規模にもよるのですが、携帯を持って24時間体制の当番というのが週に1回くらいまわってくるという形であります。24時間、いつ携帯が鳴って出動しなくてはいけないか気が抜けませんし、症状を判断するときに、病院であれば同僚がいたり、ちょっと判断に困れば当直の先生に相談することができるのですが、すべて自分ひとりで判断しなくてはなりません。その辺りを精神的に負担だと感じる看護師もあるようです。
でも、看護の正当な評価として、まずは報酬を上げることなのです。そこはこれからですね。現状を少しずつ反映させながら、診療報酬を改善し訪問看護の整備につなげていくとことも必要と思います。
病院から地域への流れと、地域での受け皿のところで、地域格差はやむを得ないのですが、その中でもその地域にあった方策を具体的に示していくことも大切だと思います。在宅は病院とは全く違い、生活の場です。医師よりは看護師のほうが生活支援の専門家であり、介護よりは医療をわかっている専門家として、看護師が障害や病気のある一人ひとりの生活に合った生活をどのように看ていくかが大事です。
訪問看護をどういうふうに発展させていくか、訪問看護ステーションだけでなく、いろいろなところと連携をとることが必要です。制度上は特養にも出向いていけるようになっていますので、そういう施設にも行って健康面を看ながら生活を支えていく力をしっかりつくっていかないとけないと思います。訪問看護ステーションを充実させていく、病院や地域ケア提供者、国がどのようにその支援をしていくか、連携をどうしていくのか、そこが一番の課題だと思っております
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