デキル人へ一歩前進 お役立ちライブラリ

キレイのひみつ、元気の秘訣、おいしいごはん、リフレッシュ術など、皆さん
がちょっぴり気になるアレコレにお答えします!休憩時間や通勤などのスキマ時間にサクッと読めるお役立ちコラムです。

食べることで、生きる力を取り戻す
がんの夫を支えた「おいしい介護食」

「介護食」というと、噛まなくても飲み込める「やわらかな流動食」をイメージする方が多いかもしれません。介護食では必要な栄養素を摂ることを重視するあまり、「おいしさ」は後回しになりがちです。そんな中、料理研究家のクリコさんは、2011年、口腔底がんの手術によって噛む力を失った夫・アキオさんのために、“おいしい介護食”づくりをスタート。「食べることが大好きだった夫に、おいしく食べて、元気になってほしい」という一心から、試行錯誤を重ね、噛みやすく飲み込みやすいだけでなく、おいしさと食欲をそそる見た目にもこだわった介護食レシピを次々と考案してきました。
介護食という言葉すら知らなかったというクリコさんが、おいしい介護食のスペシャリストにーー。そこには、どんな道のりがあったのでしょうか。前編では、アキオさんの闘病を支えたおいしい介護食レシピが生まれるまでのストーリーと愛情あふれる介護食レシピをご紹介します。

食べる喜びを通して 夫の回復を支えたい

料理研究家のクリコさんと夫のアキオさんは食べることが大好き。同じものを食べて「おいしいね」と笑い合う、そんな幸せが当たり前の日常でした。
 
ところが、2010年、アキオさんは肺がんを患い、その手術から一年半後に口腔底がんが新たに見つかります。口の中を大きく切除する手術は成功したものの、下あごに麻痺が残りました。そのうえ残った歯は、下の左奥歯の一本だけ。食べるときは噛むというより、舌と上あごを使ってつぶすしかありません。
 
そんな状況にも弱音を吐くことなく、猛然と口腔リハビリに励むアキオさん。その姿から、「早く仕事に戻りたい」という並々ならぬ強い気持ちが伝わってきたそうです。
「職場が大好きな夫を、会社に早く戻れるように元気にしてあげたい。体力回復のためには食事をしっかりとらせなきゃ!」。クリコさんの中に使命感が湧き上がりました。手術後、幸いにも味覚が残っていることが判明。たとえ噛めなくても、食べる喜びを通して彼の回復を支えることができるかもしれない。“おいしい介護食”づくりに望みを託しました。
 
とはいえ、食べる能力が大きく損なわれた夫が、おいしく食べられる料理って一体どう作ればいいのだろう。右も左もわからず、まずは介護食づくりに必要な情報を集めようと意気込んだものの、最初から大きくつまずきます。
病院に退院後の食事について尋ねても、その答えは「やわらかいものなら何でもいいですよ」という一言だけ。近隣の書店でレシピ本を探しても参考になるものは見当たりません。当時、市販の介護食品はほとんど店頭販売されていませんでした。たまたま見つけた商品も種類が少なく、アキオさんの好みの味ではなかったのです。
 
一カ月の入院生活で7kg痩せてしまったアキオさんにとって、食事は体力を回復させるたった一つのよりどころ。「役に立つ情報やものがないなら、自分で考えるしかない!」。そう決意を新たにしたクリコさんですが、その道のりには多くの苦難が待ち受けていました。

夫の大好物のクリームシチューに 介護食のノウハウが詰まっていた

入院中の食事は、ミキサーにかけられた流動食がほとんど。しかも、20倍粥などのお世辞にもおいしいとは言えない食事ばかり。手術で、下の歯で残っているのは奥歯一本だけのアキオさんは、当時、一時間半かけても半分も食べきれない状態でした。食事をするだけで疲れ果ててしまっていたのです。こうして、食欲がどんどん減退していったアキオさん。「食欲を刺激するためにも、ハンバーグやとんかつなど見ただけで料理名ががわかるものを食べさせてあげたい」。クリコさんは、なるべく具材の形を残しながらも、やわらかく飲み込みやすいことを目標に、毎日の食事を考えました。
 
最初は勢いもよかったのですが、介護食づくりは思い通りに進まないことの連続。一日中キッチンでミキサーを回し、肉体も精神もクタクタに。そんな日々から抜け出すきっかけになったのは、アキオさんの大好きなクリームシチューをつくり、それを食べたアキオさんが「おいしい!」ととびきりの笑顔を見せてくれたことでした。そこには、どんな工夫がされていたのでしょうか。
 
「野菜を形が残るギリギリのサイズまで小さく刻み、舌と上あごでつぶせるほどにやわらかく煮て、ホワイトソースでとろみをつけました。そこに、普通の鮭よりもやわらかい鮭のハラスを7割程度まで火を通し、細かくほぐしてからシチューに混ぜたのです」(クリコ氏)
 
これを喜んで食べてくれたことで、小さく刻んで十分やわらかく煮れば、食材の形が残っていても食べられることや、アキオさんにちょうどいいやわらかさの程度、おいしそうな見た目で作るコツがつかめてきたそうです。中でも、とろみをつけることは、誤嚥を防ぐうえで特に重要なポイントだと強調します。
 
「介護食について調べていくと、小さく刻んだ食材を口の中でばらけないようにすることが重要だとわかりました。最初はピンとこなかったのですが、このクリームシチューを作った時に、ホワイトソースでとろみをつけると、細かな具材がコーティングされ、ごっくんと飲み込みやすくなったのです。なるほどこういうことかと腑に落ちて、介護食ってこういうものなんだと理解できました」
 
食材を小さく切って、形が残るくらいにやわらかく煮て、食欲をそそる見た目に気を配り、口の中でばらけないようにとろみをつける。クリコさんのクリームシチューには、おいしい介護食の大事なポイントが集約されていたのです。

~鮭のクリームシチュー~

【材料】
鮭ハラス切り身・・・・・50g
玉ねぎ    ・・・・・75g
じゃがいも  ・・・・・45g
人参     ・・・・・15g
白菜の葉   ・・・・・適量
塩      ・・・・・適量
水       ・・・・・135cc
コンソメの素 ・・・・・小さじ3/4
白ワイン   ・・・・・15cc
ローリエ   ・・・・・1/2枚
生クリーム  ・・・・・15cc
オリーブ油  ・・・・・適量
小麦粉    ・・・・・適量
白こしょう  ・・・・・少々
ナツメグ(粉) ・・・・・少々
ホワイトソース・・・・・120g
 
【作り方】
1. 鮭の皮と骨を取り除き、3等分に切る。バットに移し、塩(魚の重量の1%)を両面にふり20分おく。
 魚から出た水分をキッチンペーパーで拭く。
 
2. 鮭に薄く小麦粉をまぶす。フライパンにオリーブ油を熱し両面を6割程度さっと焼く。
 白ワインを加えてアルコールを飛ばす。食べやすい大きさにほぐしておく。
 
3. 玉ねぎ、じゃがいも、人参の皮をむき、7mm角に切る。じゃがいもは水にさらしたあと水気を拭く。
 
4. 白菜の葉先の緑色の部分を塩少々(分量外)を入れた熱湯でとろとろになるまで茹で、細かく刻む。
 
5. 鍋にオリーブ油を熱し、3の野菜を炒め,水、コンソメの素、ローリエを加え、野菜がとろとろになるまで煮る。途中、水分が減ったら水か湯を適量足す。
 
6. ホワイトソースを加えとろみがつくまで煮る。
 
7. 2のほぐした鮭を6の鍋に加え、生クリーム、白こしょう、ナツメグを加え、味を調え、器に盛りつける。4の白菜をトッピングする。
 
★魚は後で再加熱するので、2で焼きすぎないように注意しましょう。
★蕪、冬瓜、ホタテ、タラ、サワラなどの身がやわらかい食材で、バリエーションを楽しめます。

※『希望のごはん 夫の闘病を支えたおいしい介護食ストーリー』より転載
(著者:クリコ 発行:日経BP社)

加熱しても硬くならない、 肉と魚のベース素材を開発

クリームシチューの成功によって、あれほど苦労した介護食づくりが楽しいものに変わり、さまざまなアイデアや工夫が次々と浮かんできたと言います。
 
その一つが、「ふわふわシート肉」です。これは、ミキサーにかけた肉だねを薄切り肉に成形し、電子レンジにかけたもの。肉団子、生姜焼き、とんかつと、工夫次第でさまざまな料理に応用できる万能選手です。

~ふわふわシート肉~

【材料】基本の分量 (でき上り益180g)
ひき肉(牛、豚、鶏いずれか)   ・・・・・50g
じゃがいも(皮をむき、すりおろす)・・・・・40g
玉ねぎ(みじん切り)       ・・・・・20g
溶き卵              ・・・・・40g
生クリーム            ・・・・・12g
マヨネーズ            ・・・・・6g
酒                ・・・・・2g
塩                ・・・・・0.8g
麹(粉)             ・・・・・6g
※麹は、あらかじめミルなどで粉になるまで粉砕する。
 
【作り方】
1. じゃがいもと麹以外の材料をフードプロセッサーで粉砕する。
 粒がなくなったら、じゃがいもと麹を入れて攪拌する。

 
2. バットにラップをピンと張り、7×15cmの型紙をテープで固定。
 スケールにのせゼロ表示にしラップを広げ、50gを計量。

 
3. 型紙に合わせて肉を包む。
 肉だねを型紙の形に合わせるのではなく、ラップを型紙に合わせて、しっかり折りたたむのがコツ。

 
4. 折りたたんだものを平らなもので上から押さえ、肉だねを均一の厚さにのばす。
 
5. 600Wの電子レンジで1枚につき50秒加熱し、そのまま冷ましてから調理に使う。
 
6. 冷凍するときは生の状態で保存。使う時は、600Wの電子レンジで1枚1分20秒加熱。

※『誤嚥を防ぐ! 噛む力が弱った人のおいしい長生きごはん』より転載
(著者:クリコ 監修:日本大学歯学部摂食機能療法学講座准教授 阿部 仁子 発行:株式会社 講談社)

さらに、この考え方を魚介にも応用し、「ふわふわえびすり身」を開発しました。やわらかいえびのすり身にミキサーにかけた干しえびを混ぜて、その生地をえびの形に整えて、きめの細かいパン粉をまぶして油で揚げたら、「ふわふわえびすり身のフライ」の完成。さながら、えびフライのような見た目と味わいで、アキオさんにも大好評だったそうです。
こうした加熱しても硬くならない肉と魚介のベース素材が、クリコさんのおいしい介護食レシピの柱になっています。
 
これだけではありません。夫に栄養豊富な野菜をたくさん食べさせたいと、毎食欠かさず数種類の野菜を食卓に出していたクリコさん。茹で野菜をミキサーやフードプロセッサーにかけてピュレをつくり、さまざまな料理に活用していました。そのピュレを冷凍保存するようにしたことで、調理時間が劇的に短縮され、心にゆとりが生まれたそうです。
 
おいしい介護食づくりが軌道に乗り、アキオさんの体力は順調に回復。退院後の5ヶ月間で元の体重に戻り、念願の職場復帰を果たしますが、その後、肺がんが再発し、帰らぬ人となりました。

~えびすり身・ふわふわ♡えびフライ~

まずはえびフライの元となるえびすり身のレシピからご紹介。えびすり身を多めに作って冷凍しておけば、他のレシピにも代用できるので時短にもつながります。


▼えびすり身
【材料】(でき上り約90g/えび4本分)
むきえび   ・・・・・50g
はんぺん   ・・・・・25g
酒      ・・・・・5g
マヨネーズ  ・・・・・4g
麹      ・・・・・3g
干し桜えび  ・・・・・1g
 
【下ごしらえ】
麹と干し桜えびは、ミルなどで粉になるまで粉砕する。
はんぺんは1.5cm角に切り、熱湯で2分ゆでてキッチンペーパーに取り、水けを切り冷ます。
 
【作り方】
1. えびを細かく刻み、麹以外の材料とフードプロセッサーでなめらかになるまですりつぶす。
 最後に麹を入れて攪拌する。
 
2. えびの形に成形。スケールに皿をのせ、ゼロ表示にする。1を絞り出し袋に入れ、約8cm長さの棒状に数回絞り重ねる。1本22gになるよう、半量を絞り出したところにえびの尻尾(分量外)を置き、はさむように残りを絞り出す。
 
3. 600Wの電子レンジで2本ずつ30秒加熱する。
 冷凍する時は加熱後冷ましてジッパーつき保存袋に入れ、空気を抜いて冷凍保存。

▼ふわふわ♡えびフライ
【材料】
えびすり身          ・・・・・88g
<衣>
小麦粉            ・・・・・適量
溶き卵            ・・・・・適量
細かいパン粉         ・・・・・適量
干し桜えびの粉(作り方2参照)・・・・・パン粉の1/5量
揚げ油            ・・・・・適量
<トッピング>
ベビーリーフ/レモン/ケチャップなどを適宜
 
【作り方】
1. えびすり身で1本22gのえび形を4本作る。2本ずつを600Wの電子レンジで30秒加熱し、そのまま冷やす。えびすり身またはえび形を冷凍保存してある場合は、解凍する。
 
2. 干し桜えびをミルやフードプロセッサーで粉末にする。パン粉に対し1/5量混ぜる。
 
3. 1に小麦粉、溶き卵、2の順につけ、180度の油でさっと揚げる。
 
4. 皿に盛りつけ、ベビーリーフとレモン、ケチャップを添える。

※『誤嚥を防ぐ! 噛む力が弱った人のおいしい長生きごはん』より転載
​(著者:クリコ 監修:日本大学歯学部摂食機能療法学講座准教授 阿部 仁子 発行:株式会社 講談社)

介護食づくりの原動力は、 夫への愛と社会への怒り

おいしい介護食づくりという難題に挑み、アキオさんを支え続けたクリコさん。その原動力は何だったのでしょうか。
 
「病院ではまったくごはんを食べなくなり、陽気な夫の顔から笑顔が消えてしまって、すごくショックでした。でも退院後は、毎食希望を込めて作ったごはんを『おいしい、おいしい』と食べてくれて、少しずつ体重が増えて、体力もついてきて。気がつくと笑顔が増えていたことが、一番の原動力になりました」
 
そう話すクリコさんですが、介護食づくりの原動力は、夫への愛だけではなかったようです。
 
「介護食づくりを始めた当初、役に立つ情報やものに出会えず、一日中キッチンで試行錯誤を繰り返すことになり、目の前の作業に追われていること自体に憤りを感じ始めていました。高齢化社会にあって、なぜ介護食の分野はこれほど情報やサービスがないんだろうと。こうした社会に対する怒りも、大きな原動力になりました」
 
では、退院前に病院側からどのようなアドバイスがあると、家庭での介護食づくりをスムーズに進められるのでしょうか。試行錯誤しながら、自ら開拓してきたクリコさんに、今の思いをお聞きしました。
 
「病院では『やわらかいものなら何でもいいですよ』と言われたのですが、退院直前は普通のお粥を食べるのも四苦八苦していたので、やわらかければいいということでは到底ないだろうと感じていました。実際にやわらかく茹でた里芋が口の中でツルツルと滑って飲み込めないのを見て、十分加熱しても食べられないものがあることを知りました。さらに調べると、細かく刻んだ里芋は、勢いよく喉を通っていくので、誤嚥や窒息につながる恐れがあることもわかって。そういった命に関わる誤嚥や窒息の危険性について、最初に詳しく教えていただきたいですね。介護中の家族は不安で頭がいっぱいなので、冷静に判断できないところがあるんです。だからこそ、具体的な調理の工夫についても、ていねいなアドバイスをいただけるとありがたいです」
 
おいしく食べることは、生きる力を取り戻すこと。クリコさんの介護食レシピには、家庭だけでなく、看護師さんや介護士さんが職場で活用できそうなアイデアにあふれています。後編では、おいしい介護食づくりのポイントや、病院や介護施設で取り入れられる調理の工夫を紹介します。

おすすめ書籍

『希望のごはん 夫の闘病を支えたおいしい介護食ストーリー』

著 者:クリコ
出 版:日経BP社
 
口腔底がんを患い、食べる楽しみを失ってしまった最愛の夫のため、「美味しい介護食」づくりに励む著者。本書では、工夫あふれる介護食レシピはもちろん、愛する夫との心温まるストーリーを掲載。「介護食」のイメージが変わる、高齢化が進む現代でぜひ読みたい一冊です。

料理研究家・介護食アドバイザー
クリコ

本名は保森千枝(やすもり ちえ)。
1988年 自宅にサロンスタイルのイタリア料理研究教室
    「Cucina Curiko クチーナ・クリコ」を開講。
2009年 和食料理教室開講。
2011年 口腔底がんの手術により噛む力を失った夫に
             おいしく食べて、元気になってほしいという願いを込めて、
             独学で介護食づくりを始める。
2014年 介護食アドバイザーの資格取得。

「簡単においしく」「家族と同じ献立」「好みの味つけ」「美しい盛りつけ」をモットーに、介護食づくりを提案。その経験を生かし、講演会や料理講習会で活躍中。著書に『希望のごはん』(日経BP社)、『誤嚥を防ぐ! 噛む力が弱った人のおいしい長生きごはん』(講談社)。Webサイト「やわらかい・飲み込みやすい、クリコ流ふわふわ希望ごはん」を運営中。

UP DATE 2019/06/13

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