今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第180回 2018/04

増え続ける高度不妊治療を取り巻く現状・課題、そしてこれから(前編)

日本は、世界随一の不妊治療大国だと言われています。高齢のため妊娠しづらくなってしまった人、病気や体質によってそもそも妊娠が困難な人、なんらかの事情で精子に異常がある男性などなど……。さまざまな背景を抱えた多くの患者さんが、今、不妊治療専門クリニックの門を叩いているのです。晩婚化・晩産化の進行や「卵子の老化」に関する認知度の高まりなどで、今後ますます増えるであろう高度不妊治療、その課題とこれからについて、日本屈指の高度不妊治療専門病院である加藤レディスクリニックの加藤恵一院長にお聞きしました。

加藤レディスクリニック 院長
加藤 恵一 氏

加藤レディスクリニック

1日600人の患者が訪れる、国内屈指の体外受精専門クリニック

加藤レディスクリニックは体外受精に特化した不妊治療専門クリニックです。薬を極力使わない身体にやさしい治療を目指しているところや、独自の採卵針を用いた無麻酔での採卵、土日祝日を問わず365日開院している点などが特徴で、「患者さんの負担が少ない自然に近い治療で質の良い卵を採り、しっかり培養して移植を行う」ことで結果を出してきました。1993年の開院以来、5万人を超える赤ちゃんが当院の治療により誕生しています。
 
現在の1日の受診者数は約600人、毎日約20人の患者さんが新たに治療をスタートしています。2016年には当院での治療の結果4,172人の赤ちゃんが生まれており、国内で生まれた体外受精の赤ちゃんの、実に約1割が加藤レディスクリニックの治療で誕生したことになりました。

晩婚化・晩産化によって高まり続けている「不妊治療の機運」

このような環境で日々体外受精に触れていて感じるのが、患者さんの増加と治療に対する熱の高まりです。日本の体外受精の総治療周期数は、すでに40万周期を超えました。ここ数年で治療周期数がグッと増えた主な理由は、おそらく患者さんの平均年齢が上がったところにあるのでしょう。日本産婦人科学会が発表している2015年のデータによると、40歳、41歳の患者さんが、もっとも多くの周期、治療に取り組んでいることがわかります。2007年のデータでは37歳辺りの患者さんが多かったことが示されていますから、約10年で、平均年齢が3歳上がったことになりますよね。年齢が上がれば当然妊娠しにくくなりますから、治療周期数が増えるのは必然と言えるのではないでしょうか。
 
もうひとつ、不妊治療が一般に認知され、治療できる施設が増えて、昔より比較的簡単に治療を受けられるようになったことも影響しているのではないかと思います。国内の治療施設は2018年現在、だいたい600~700カ所ぐらい存在していると見られています。東京だったら山手線の各駅に1つぐらいの割合で治療ができる病院があるわけですから、いまや体外受精は特別なことではなくなってきているのでしょうね。
 
不妊治療は、晩婚化・晩産化といった社会的な背景やマスコミの取り上げ方もあって、今、ちょっとしたブームのような状態になっています。一方で、盛り上がっているからこその問題点や課題も少なくありません。一時の流行やブームに左右されることなく、高い技術で、確かな治療を。長く治療に携わってきた者として、今こそ、粛々・淡々と治療に向き合わなければならないと感じています。

専門病院が増えすぎたことによる弊害も目立ち始めた

前述した通り、国内の不妊治療施設は右肩上がりで増え続けています。クリニックが増えすぎたことで生じているのが、「病院間の格差」。確かな技術力を持つクリニックもたくさんありますが、一方でレベルの低い病院も増えており、その差がどんどん開いているなと感じています。
 
技術力の低い病院がやってしまいがちなのが、力のない受精卵をたくさん凍結してしまうこと。薬で卵巣を刺激し、受精卵をたくさん作って、妊娠する力が弱い受精卵を凍結し、そして複数個同時に移植してしまう。当院にもよく「前の病院で『妊娠しそうにない卵なので、2個戻しましょう』と言われ、複数胚移植を行ったがダメだった」という患者さんがいらっしゃるのですが、そもそも「2個戻さなければならないような妊娠の確率が低い受精卵」を凍結しているということに、自信のなさが表れているような気がします。いくら受精卵がたくさんできても、それが良くない卵だったら意味がありません。良くない卵がたくさんあることで何周期も移植に費やしてしまい、あっという間に、半年、1年が経過してしまったということにもなりかねない。また、可能性が低い卵だから廃棄するということもよく聞きます。卵をたくさん採ることを目指すのではなく、まずは卵を育てる技術を徹底的に磨いて、自信を持って移植できる「良い卵」のみを凍結することを目指していただきたいなと思います。
 
また、やたらと多くの検査を行い、患者さんの不安を煽る病院にも疑問を感じています。AMH、着床不全検査、不育症検査など、不妊に関わる検査はいろいろとありますが、「必要ない検査」というのも少なくありません。必要ある検査を見極めて行い、結果についてしっかりと説明する、こうした当たり前のことができない病院は、厳しいようですが淘汰されるべきだと思いますね。

徹底した培養士教育で、「良い卵」を育てる技術を磨き上げる

私たち加藤レディスクリニックがもっとも力を入れているのが、「良い卵」を育てること。そのため、培養士の教育はかなり厳しく行っています。入職してから3~4年間は研修期間となっており、先輩培養士のもとで卵を育てる技術を徹底的にマスターし、技術の習得が確認できたら初めて実践デビューをするような仕組みを作っています。
 
もちろん、実践デビューのあとのチェックも欠かしません。一人ひとりの培養士の顕微授精の成績を日単位、週単位、月単位で確認し、基準を下回っていた場合は再教育を行っています。ただし、数字だけを見て判断することがないよう気を付けているんですよ。たまたま厳しい条件が続いて結果につながらなかったということもありますから、その辺は、周囲の人の目を通してよく見て、適切に判断するよう心掛けています。
 
また、顕微授精の際は、精子を1000倍の顕微鏡で観察するようにしています。一般的には400倍に拡大して観察することが多いのですが、当院では、より正確に、素早く、精子の形態や動きを捉えるため、高精度の顕微鏡を採用しているのです。そのほか、受精卵を培養するインキュベーターと呼ばれる機器から、培養中の受精卵を取り出すことなく観察できる最新の機器を導入し、より安定した培養環境を実現することができるようになりました。
 
培養士の技術や設備によって、確実に体外受精の結果は変わってきます。まずは刺激の少ない方法で生命力のある卵を採卵し、採れた卵を高い技術力を持つ培養士と安定した環境によって「良い卵」に育て上げる。これが、高度不妊治療においてもっとも大切なことだと考えています。
 
後編では、体外受精にまつわる具体的な取り組みについてお話しいただきます。

加藤恵一氏

2000年金沢大学医学部卒業、
        金沢大学医学部産科婦人科学教室入局
2001年国立金沢病院勤務
2002年国立病院東京災害医療センター勤務
2005年New Hope Fertility Center勤務
2007年加藤レディスクリニック勤務
2011年加藤レディスクリニック診療部長
2013年加藤レディスクリニック院長に就任
 
―所属学会等―
日本受精着床学会 理事
日本A-PART 理事
日本産婦人科学会 専門医
日本生殖医学会 専門医
臨床遺伝専門医
American Society for Reproductive Medicine
European Society of Human Reproduction and Embryology  など
 
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