1領域の看護分野において、熟練した技術と知識を用いて水準の高い看護を実践する認定看護師。自衛隊中央病院 看護部看護主任の吉ノ薗道子氏は、感染管理認定看護師として260名を超える新型コロナウイルス感染症患者に対応しつつ、院内感染防止に努めています。清潔・不潔のゾーニングや防護服の着脱法など感染防御のテクニック、患者さんや看護師のメンタルケア、第2波に対する心構えなど、最前線で新型コロナウイルスと闘う、認定看護師ならではのアドバイスをうかがいました。
2020/7
1領域の看護分野において、熟練した技術と知識を用いて水準の高い看護を実践する認定看護師。自衛隊中央病院 看護部看護主任の吉ノ薗道子氏は、感染管理認定看護師として260名を超える新型コロナウイルス感染症患者に対応しつつ、院内感染防止に努めています。清潔・不潔のゾーニングや防護服の着脱法など感染防御のテクニック、患者さんや看護師のメンタルケア、第2波に対する心構えなど、最前線で新型コロナウイルスと闘う、認定看護師ならではのアドバイスをうかがいました。
自衛隊中央病院 看護部看護主任 感染管理認定看護師
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当院では、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客や武漢からの帰国者など、一時は100名を超える新型コロナウイルス感染症患者を3つの病棟で受け入れました。もともと感染症用ではなかった一般病棟も使用したため、清潔と不潔のゾーニングをゼロから考えることに。私も感染管理認定看護師として、医師と話し合いながらゾーニングについて徹底を図りました。
各施設は、病棟ごとに形状や特性が異なります。ひとつひとつ病棟を回りながら、感染管理の基本に基づき「ここに未使用の防護資材を置こう」、「エアロゾルが発生する患者さんは、二重扉の内側へ」とエリアを区分し、テープなどを使って目に見える形でゾーニングしていきました。
患者さんの食事の配膳はどうするか、着替えた服はどうやって洗濯するか、病室の掃除はどうするか……。未曽有の事態ですから、課題は山積み。昔、感染管理を共に学んだ同期と「自分たちの病棟の感染対策法」の情報交換もしながら、ICT(感染制御チーム)があらゆる業務を一から見直し、細部までルール化していきました。タイベックスーツ(防護服)もエボラ出血熱用のものとは異なるため、どのような着脱方法が適しているか一から検討し、オリジナルのスタイルを採用しています。一般的にはN95マスクを最後に外しますが、当院ではキャップが最後。理由は、先にキャップを外した場合、髪の長さによっては汚染されているマスクに髪が触れる可能性があるためです。細かいことですが、実情に即してキャップとマスクを外す順番を変えたのは、当院なりのこだわりです。感染症患者受入訓練をはじめ、これまでに培ってきた感染管理の知識と経験が役立ちました。
また、マスクやタイベックススーツの着脱時に鏡を見ることも徹底しています。マスクやフェイスシールドがきちんと顔にフィットしているか、タイベックスーツから肌が露出していないか、鏡に映してしっかり確認することが、感染リスクの低減につながるためです。感染管理認定看護師として、こうした指導にも力を入れました。
現在(2020年6月17日取材時)、当院は、病棟も落ち着きを取り戻しつつあります。当時を振り返っての反省点は、看護の“質”。当初は切迫した状況を乗り越えるのに必死だったため、看護の質を担保するためのカンファレンスもできませんでした。患者さんにきめ細やかに対応できたか。亡くなられた方の思いを汲み取ることができたか。ご遺族に対するケアは十分だったのか。私たちもひっ迫した状態ではありましたが、患者さんやご家族にもっと目を向けることができたのではないかという思いに駆られています。
しかも、当時はまだ新型コロナウイルスに関する情報が少なく、患者さんの不安も今よりはるかに大きかったはずです。「酸素の供給量を増やしますね」とひと声かけただけでも、患者さんは「病状が悪化しているんじゃないか」と疑心暗鬼に陥ります。私たちは「この方は軽症だから心配ない」と思っていても、患者さんご本人は「どうして私には治療してくれないんだろう」と不満を抱えるものです。ニュースを見て「自分は死ぬのではないか」と涙を流す方、偏見のまなざしを怖れて「職場復帰が怖いんです」と口にする方もいらっしゃいましたが、私たちには傾聴することしかできません。未知の感染症に罹患した患者さんは、想像を絶するほどのとてつもない恐怖を感じていたのかもしれません。こうした患者さんの気持ちに、もっと寄り添うことができるのではないかと考えています。
また、こうした非常事態では、患者さんだけでなく看護師のメンタルケアも重要だと痛感しました。「自分も罹患するかもしれない」という緊張感を抱え、先の見えない中で勤務するのは、たとえベテラン看護師であっても大きなストレスです。緊迫した状態の中で働くため、興奮と不安から神経がたかぶり、「家に帰っても眠れない」と話す若手看護師も少なくありませんでした。それでも、お互いに助け合おうと、「私がやります!」と率先してシフト変更や夜勤を申し出てくれました。認定看護師は、看護師の相談に乗ることも役割のひとつと考えていますが、若手のやる気に甘えてしまい、十分相談に乗れていなかったかもしれません。
ストレスを感じると、疲労が溜まり、眠れない状態が続くことがあります。その結果メンタルに影響が現れたり、体調を崩しやすくなる人もいます。3月に入ってからは院内のメンタルサポートチームが朝礼に立ち会って言葉をかけてくれたり、面談をしたりしてくれましたが、今思えばもっと早くから介入してもらうべきでした。「みんなを追い詰めてしまったな。苦しかっただろうな」と、看護主任として深く反省しています。
今回の経験を経て、若手看護師にアドバイスを送るとしたら“しっかり寝ること”に尽きます。十分に睡眠を取れば、メンタルの落ち込みを防ぐことができるはず。普段の業務でも、元気のない後輩には「ちゃんと寝られている?」と必ず聞くようにしています。大変かもしれないけれど寝る。頑張ってでも寝ることを大切にしてください。
新型コロナウイルスの第1波は落ち着きましたが、第2波が来る可能性も少なくありません。そうした中で大切なのは、やはり手指衛生とマスクの装着という基本の徹底です。感染が広がるのも、マスクを外して食事をしたりするとき。「自分はマスクをしなくても大丈夫」と考えるのではなく、「すでに罹患しているかもしれない。まだ無症状だけど、2日後には症状が出るかもしれない。そのときには、すでに多くの人にウイルスをばらまいているかもしれない」という意識を持ってマスクを装着していただければよいでしょう。「何のためにマスクをつけているのか」、しっかりと考えて行動する必要があると思います。
正しい情報を届けるため、当院では手指衛生、マスクやガウンの着脱方法をYouTubeで動画配信をしています。特別な方法ではなく、私たちが普段やっていることをそのまま動画にしました。当院より立派な取り組みをしている病院も、きっとたくさんあるはず。今後に備えるためにも、お互いに情報交換できたらいいですよね。
新型コロナウイルスに限らず、この先、未知の感染症が蔓延する可能性も十分考えられます。だからこそ、この経験をもとに今後のためのマニュアルを作るつもりです。今回のように多くの患者さんを受け入れたとき、どうすれば院内感染を防げるか。想定外の事態が起きたときに、発想を変えて柔軟に対応するには何が必要か。課題や反省点も含めてしっかり記録を残し、感染管理認定看護師として今後に備えて態勢を整えていきたいと思います。
自衛隊中央病院 看護部看護主任 感染管理認定看護師
1995年より、看護師として自衛隊中央病院に勤務。手術室看護師、高等工科学校勤務を経て、病棟に配属。2017年、感染管理認定看護師の資格を取得。新型コロナウイルス感染症患者の受け入れに際し、ICT(感染制御チーム)の一員として院内感染防御の指揮を執る。
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