定期的な新卒採用を実現し、離職率はわずか2.8%
充足した人員体制を維持し続ける白扇閣の取り組みとは
2023/1/27
私たちの働き方改革
2023/5
株式会社Le-caldo(リカルド)
訪問看護ステーション トータルケア
<お話してくれた方>
代表取締役 若松 冬美さん(写真・中央右)
執行役員 持田 渉さん
看護師・助産師 向山 綾子さん(写真・中央左)
<スタッフ様>
事業部 電話対応専属部署リーダー 海野 翔大さん(写真・左)
事業部 木村 亮彦さん(写真・右)
埼玉県所沢市に拠点を置く株式会社Le-caldo(リカルド)は、24時間365日稼働するトータルケアを行う訪問看護ステーション「トータルケア」を運営しています。2022年、同ステーションでは電話対応専属部署を設置し、看護師がケアに集中できる環境を構築。この取り組みにより、日本看護協会が主催する「看護業務の効率化 先進事例アワード 2022」で最優秀賞を受賞しました。導入に至った経緯やその成果、そして同社の先進的な働き方改革について、代表取締役の若松冬美さん、執行役員の持田渉さん、看護師・助産師の向山綾子さんにお話をうかがいました。
若松
Le-caldoの訪問看護ステーション トータルケアは、2015年の開設以来、24時間365日、在宅医療を必要とするすべての方に医療・看護サービスを提供しています。企業理念は、地域社会のため、看護師のため、未来の日本のための「三つの看護の力」です。
現在、24時間365日対応している訪問看護ステーションはほとんどありません。届出を出してはいても、実際に患者さん宅に夜間訪問を行なっている事業所は4割前後*1。この現状を変えなければ、地域医療は広がりません。高齢化社会が進むにつれて在宅での看取り率はさらに高まるため、24時間365日稼働する訪問看護ステーションの需要はますます高まっていくでしょう。
こうした患者さんの潜在ニーズに応えるには、より多くの看護師が必要です。ですが、病院の労働環境は厳しく、看護師はつねに激務をこなしています。私も大学病院で看護師を経験しましたが、働き方改革が必要だと身をもって感じました。そのうえ、看護師の約92%は女性です。出産や子育てなどによりライフスタイルが変化していきます*2。ひとつの病院でキャリアを継続できず、ライフステージが変わるたびに転職を繰り返すようでは収入も下がってしまいます。そのため、私たちの訪問看護ステーションでは長く働き続けられるよう、自由な働き方を選べるようにしました。社員とパートという区分をなくし、どの看護師も時間給プラス訪問手当という給与体系で希望する時間に働けるようにしています。
▲代表取締役の若松さん
私たちの訪問看護ステーションで働く看護師は、週1日勤務やフルタイムの勤務など、柔軟な働き方をしています。また、全員に規定日数の夜勤を割り振りますが、その枠を他の看護師が買い取ることもできます。育児中で夜勤ができない方はその枠を売りに出し、他の人がその夜勤枠を買い取る。フェアな報酬体系なので、独身者とお子さんをお持ちの方が分断されることはありません。
また、私たちはスタッフが休む理由は聞きません。独身者でも、育児中でも、休みの価値は同じです。お子さんをお持ちの方が「子どもが風邪をひいたので」と休むのも、独身の方が「美容院の予約が取れたから」と休むのも自由。勤務管理は、アプリで働く希望時間帯を入力するだけでいいように、働きやすい環境を整えています。
地域社会のため、看護師のために看護の力を発揮することで、未来の日本も変わっていくはず。Le-caldoでは、こうした価値観に基づき、訪問看護ステーションを運営しています。
若松
働き方改革のために見直したのは、報酬体系だけではありません。業務の効率化を図る取り組みのひとつとして、2022年から24時間365日稼働する電話対応専属部署を設置しました。
訪問看護師のもとには、たくさんの電話がかかってきます。近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速していますが、看護師が患者さんやケアマネージャーなど地域の医療・介護関係者とやりとりする際に使うのはほぼ電話。口調や声のトーンから伝わる情報も多く、患者さんも安心感を得られるのではないかと思います。
とはいえ、患者さんの処置を行っている最中や、患者さんやご家族とシビアな話をしている時に電話が鳴ると業務が停滞し、看護師と患者さん双方のストレスになります。現場の看護師から「どうにかならないか」という声が上がったため、コールセンターを設置し、電話対応のタスクシフトを行いました。
持田
そもそも私たちの訪問看護ステーションでは、掃除や洗車などの業務を看護師以外のスタッフにお願いしています。看護師が不足しているので、看護以外の仕事を看護師にさせるのは避けたほうがいい。電話対応もその一環です。
若松
この取り組みにより「看護業務の効率化 先進事例アワード2022」で最優秀賞を受賞しましたが、これはささやかな工夫にすぎないと思っています。ただ、医療現場では、こうしたちょっとした取り組みさえなかなかできないのも事実です。看護師は真面目な方が多く、日頃からリスクを避けるよう指導されているので、環境の変化を恐れる傾向があります。そのため、現場の抵抗にあい、改革が進まないケースも多いのでしょう。そこで私たちは、あえて現場の同意は取らず、経営サイドでコールセンターの導入を決めました。
導入にあたっては、とにかくスピードを重視しました。導入前から「リスクがあるかもしれない」「こういう場合はどうしよう」と考えても意味がありません。運用しながら、その都度起きるトラブルに対応し、リスクマネジメントを行うほうがスムーズです。実際、開設から約1年経ちますが、現在まで問題はほとんど起きていません。
▲コールステーション導入で、看護業務に集中できるようになった
持田
コールセンターの導入にあたり、最初に決めたのは「患者さんや多職種からの問い合わせ、新規のご依頼、求人関係などすべての電話窓口をコールセンターに集約する 」という方針でした。また当初は、コールセンターで受けた電話はすべて折り返すようにしていました。「電話によって看護師の業務を中断しない」という目的は、これだけで十分に達成できます。そして、受けた電話の中から、その場で回答していい問題か、医療知識が必要な案件かを選別する仕組みをつくりました。
若松
新たに採用した電話対応スタッフは、約10名。常時1~2名のスタッフが各事業所で電話対応しています。また、スタッフの質を担保するため、看護師が中心となって電話対応マニュアルを作成しました。「体調に関する相談は必ず看護師に連絡する」「緊急訪問の依頼は、看護師の空き枠を確認し、対応できる看護師に連絡する」など、お問い合わせ内容に応じた手順を細かく記しています。
電話を受けたスタッフが、その場でお問い合わせに回答するケースもあります。その筆頭が、新規のご依頼です。私たちはこれまで7年間訪問看護ステーションを運営してきましたが、患者さんを断ったケースは1件もありません。こうした新規案件は、コールバックではなくすぐに回答すべきです。ケアマネージャーは、何件も電話して受け入れ先を探すため、その場で回答が欲しいはず。「こんな大変な患者さんも引き受けてもらえるのか」と安心していただければ、地域医療連携もまた一段と深まるでしょう。
となると、私たちが抱える患者さんの数も増えていきますから、看護師の採用にも力を入れています。
向山
とにかく、電話の窓口をコールセンターに集約することを徹底しています。例えば、看護師からケアマネージャーに「福祉用具に不具合があります」といった電話を一度でも入れると、以降は看護師に直接電話がかかってくることもあります。しかし、コールセンターの設置により、こうした電話も看護師にはかかってこなくなりました。
若松
患者さんからの電話も同じです。看護師が指定の訪問時間に遅れる場合、個人の電話からその旨を連絡すると、その着信履歴をもとに、患者さんが看護師に直接電話をかけてしまうケースもありました。そのため、看護師にも「患者さんからの電話には出ず、必ず代表電話にかけ直してもらうように」と伝え、電話はすべてコールセンターが受けるようにしています。
持田
また、情報共有システムを構築し、電話対応スタッフが看護師のスケジュールや位置情報を確認できるようにしました。例えば、患者さんから「あとどれくらいで家に来ますか?」という問い合わせを受けた場合も、電話対応スタッフが到着時間をお伝えすることが可能です。看護師からのコールバックが必要なお問い合わせについては、看護師の携帯電話にLINEやショートメールで速やかに連絡できるようにしています。
▲ライフスタイルに合わせて柔軟に働ける環境が整っている
向山
このように電話対応専属部署を設置した結果、訪問先でケアをしている時に電話が鳴らず、看護に集中できるようになりました。以前は、排泄ケアを行う時などに「電話が鳴ったらどうしよう」という緊張感を常に抱えていました。また、電話がかかってくるたびに、まず電話を取るべきか、取らずにおくかという小さな選択を迫られていたのです。それすら、ケアの集中力を削ぐには十分な二択ですし、積み重なればストレスになります。もちろん、ケアの手を止めて電話に出れば、集中力は完全に途切れることになってしまいます。
ですが、電話対応専属部署が一次受けを担ってくれるようになったため、今では私の電話はほとんど鳴りません。コールバックが必要な電話のみ、「折り返し電話してください」というメッセージとともに相手の電話番号が送られてくるようになったのです。患者さんやご家族からも「電話が鳴らなくなったよね」「ケアが中断されることがなくなってよかった」という言葉をいただきます。
コールセンターの設置による業務効率化について検証したところ、看護師ひとりあたり、1日90分の業務時間を削減できたという結果も出ました。月平均22時間あった時間外勤務時間が月8.5時間まで削減され、1日あたりの訪問件数も増やせることに。柔軟な訪問スケジュールを組めるようになりました。
▲看護師・助産師の向山さん
向山
他にも、Le-caldoでは情報共有カンファレンスの廃止など、さまざまな働き方改革に取り組んでいます。私はもともと助産師として市中病院などで働いており、長年“仕事にライフスタイルを合わせる働き方”をしてきました。しかし、3人目の子どもを妊娠し、こうした働き方に限界を感じるようになったのです。病院勤務では夜勤がマストですし、保育園が閉まってしまう日曜・祝日も出勤せざるを得ません。シッターに子どもを預けることもありましたが、仕事を続けるためのコストと収入のバランスが取れなくなってしまいます。もはや「仕事にライフスタイルを合わせる」のではなく、「ライフスタイルに働き方を引き寄せる」しかありません。そこで、柔軟な働き方を求めてLe-caldoに転職したのです。
「自由に休みをもらいたい」という思いで入社しましたが、実際に働いてみると「仕事や子育てなどの生活時間を自分でデザインする」という印象を受けました。しかも、仕事に対する意識も変わり、自分の看護に対して責任を強く感じるようになりました。訪問看護は、病院のように1日に何度も患者さんと顔を合わせるわけではありません。しかも、訪問先へひとりでうかがい、ケアを行います。「1週間に一度しか訪問しないのだから、翌週まで患者さんが安全かつ快適に過ごせるようにしたい」と、患者さんの爪を切ったり、つまずかないよう室内の荷物を片づけたり、注意深く考えて看護を行うようになりました。
若松
今後は、こうした24時間365日対応する訪問看護ステーションのパッケージをフランチャイズ化し、全国に広げていきたいと考えています。独立開業したい看護師、地域に根差した社会貢献事業を検討している他業種の企業からは、すでに大きな反響をいただいています。自宅での看護を求める患者さんはもちろん、フルタイムで働きたい方、出産してトーンダウンした働き方を望む方、週1日の隙間時間で働きたい方など、看護師の幅広いニーズに応える勤務先として訪問看護の役割はますます重要になっていくのではないかと思います。
<参考データ>
*1 一般社団法人 全国訪問看護事業協会「訪問看護ステーションにおける24時間対応体制に関する調査研究事業」
*2 厚生労働省「令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」
施設名 | 株式会社Le-caldo 訪問看護ステーション トータルケア |
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住所 | 〒359-1141 埼玉県所沢市小手指町1-36-5 |
事業開始 | 2015年 |
事業内容 | 訪問看護ステーション「トータルケア」の運営、保育園・学童一体型施設 リカルドキッズガーデンの運営 |
ホームページ | https://lecaldo.co.jp |
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