私たちの働き方改革

2025/4

地域医療を支える海南病院 “まつり”を通して育む、職員一体のチャレンジ精神

地域医療を支える海南病院 “まつり”を通して育む、職員一体のチャレンジ精神

海陽町立海南病院

<お話してくれた方>
左から
事務長 川野 和彦さん
看護師長 岡山 佳代さん
主任看護師 和田 佳世子さん

徳島県最南端の町、海陽町で回復期医療を中心として地域住民の健康を支えている海陽町立海南病院。「地域まるごと笑顔にしたい」というスローガンのもと、経営改革の一環として2023年から「病院まつり」をはじめとする地域交流に取り組んでいます。職員、町民、県内の医学生の一体化を目指すこの取り組みは、新規患者の増加に加え、看護現場での連携や意思決定に多大な影響をもたらしているといいます。

同院事務長の川野和彦さん、看護師長の岡山佳代さん、主任看護師の和田佳世子さんに、プロジェクトを成功に導いたポイントや成果についてお聞きしました。

「町民に知られていない」現状を受け、地域と病院をつなぐまつりを企画

川野

急速な少子高齢化による海陽町の人口減に伴い、当院は新規患者数の減少、常勤医師の不足が深刻で、6年前に近隣病院との再編・統合を迫られる事態となりました。議論の末、病院の機能は現状維持することになりましたが、存続のためには人材確保や患者の受け入れ強化のための施策が求められていました。

さまざまな課題がある中で特に問題だったのが、町立病院である当院が町民の方々によく知られていないということでした。どんな医者や看護師がいて、どんな治療が受けられるのかが周知されていないために、町民の方の足が遠のいていたのです。そこで当院のことを住民の方に知ってもらうには何ができるかを考え、多くの意見が出たのが、「病院まつり」でした。

岡山

病院まつりを開催するきっかけとなったのは、2年前に当院で行われた地方創生医師団によるシンポジウムです。町民や医学生の方々が大勢参加したこのシンポジウムで、私たちは町民の方々の声を直接聞くことになりました。「海南病院に行ったことがない」「リハビリ入院できることを知らなかった」といった声の数々を受け、自分たちが置かれている危機的状況を突き付けられた気分でした。

川野

それまで地域交流に特化した取り組みはほとんどありませんでしたが、同じようにまつりを実施している志摩市民病院の先生からの勧めも後押しになりました。職員一同でできることとして「まずやってみよう」となったのです。

看護部主導でコメディカルを巻き込み、それぞれの得意分野を結集

川野

まつりを開催する目的は大きく二つあり、病院について知ってもらうこと、それからそれぞれの職員の熱い思いを伝えることでした。岡山師長と和田主任が先頭に立って職員を束ね、企画を進めていきました。

和田

最初はみんな「なぜ病院でおまつり?」という疑問があり、中には冷ややかな目を向ける人もいました。でも「まずやってみよう」という気持ちをもって、企画について各コメディカルの意見を聞いて回っていくうちに、次から次へとアイデアが出てきたんです。例えば、看護部では血管年齢測定、検査部門では血液型検査、放射線科ではイカやブリをレントゲンで見せる……など。「こんなことができたら楽しいよね」と想像したことが形を帯び始めてきた時点から、職員全員がまとまり出した感覚があります。

岡山

院内をどこまで開放するかについても当初は心配の声がありましたが、話し合って、とことんオープンにすることにしました。実際、まつり当日には外来をすべて開放し、薬局では薬剤師の体験、CTの操作室ではレントゲンの体験ができるなど、体験しながら病院の仕事を知ってもらうことを意識しました。看護部の血管年齢診断も大変人気で、職員総出で夢中になりました。同じような催しを行っている他の病院では一部のみ開放しているところが多いようなので、ここまで見せる病院は珍しいかもしれませんね。最終的に2日間の開催で、1000人もの来場があり、大賑わいとなりました。

川野

職員の出し物だけでなく、地域の婦人会がバザーを出したり、餅投げをしたり……病院のまつりというより地域まつりのような一体感ができたのも成功の秘訣かもしれません。

海陽町立海南病院で行われた海南病院まつりの様子

海南病院まつりで来場者から寄せられたメッセージ病院まつりの来場者からのメッセージ。「いつもありがとう」「地域医療の情報発信になってほしい」などさまざまな声が寄せられた

成功体験から職員に「やってみる」意識が定着 患者受け入れにも変化

和田

まつりに取り組んでよかったのは、一つの目標に向かって職員全員が自分のできることを出し合ってやり遂げたということですね。当日勤務の人も飾り付けを手伝うなど、本当におまつりのような一体感がありました。

岡山

普段接する機会が少ない病棟と外来の看護師や、他のコメディカルとの距離感もぐっと縮まって、意見が出しやすい雰囲気ができました。またこれがきっかけで、職員全員に「とりあえずやってみよう」という意識が浸透してきたと感じています。普段の業務で改善できそうなところはすぐに変えてみるという習慣がつき、意思決定のスピードが一気に上がったと思います。

和田

まず思いついたことを言葉にして、実現可能かどうかを精査していくことが増えましたよね。

川野

救急患者や入院患者の受け入れなど、かつては受け入れ体制が厳しいため断っていたところを可能なかぎり受け入れようという意識が全体に強まってきたのが大きいです。昨年から総合診療科を設置したことも相まって、新規患者の受診数が増え、収入増という効果が表れてきています。

和田

まつりを通して町民の間にちょっとした体の不調でも診てもらえるという印象が広まり、病院の敷居が少し低くなったのだと思います。地域の介護を担うケアマネージャーからの紹介や地域連携のご相談も増えました。生活の困りごとの相談や、急性期からの退院患者さんの受け入れなど、在宅復帰への中間施設としての役割を果たせている実感があります。

海陽町立海南病院看護部の皆さま“わくわくキュンキュンしながらやろうぜ”を合言葉に、地域医療と向き合う皆さん

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海陽町を走るDMV

海南病院の取り組みいろいろ

1. 総合診療科の設置
広範囲の疾患を診断・治療する「総合診療科」を2024年に設置。どの専門科で診てもらえばいいか分からないという方の相談にも乗る、町医者の役割を病院で果たすように。

2. WLBに合わせた柔軟な雇用体制
全国有数のサーフスポットである海陽町。同院には週1日、波乗りをしてから診察を行う“サーファー医師”も所属。柔軟な雇用体制と職場環境で、ママナースも多数働いている。

3. DMVのうたダンスを踊ってみた
海陽町を走るDMV(デュアル・モード・ビークル)の歌に合わせて職員全員がダンス! 「海南病院の職員を知ってもらうために踊っちゃいました」(川野さん)
「DMVのうたダンスを踊ってみた」動画はこちら!

施設名:海陽町立海南病院
住所:〒775-0202 徳島県海部郡海陽町四方原字広谷16-1
開設:1961年10月
病床数:45床(一般26床、地域包括ケア19床)※2025年4月時点
ホームページ:https://kainanhp.jp/
公式Instagram:https://www.instagram.com/kainanhosp/

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