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2024/8

優れた看護を賞賛し、看護職を元気に! 「としこの部屋」大島敏子さんインタビュー

優れた看護を賞賛し、看護職を元気に! 「としこの部屋」大島敏子さんインタビュー

神戸大学医学部附属病院をはじめ、複数の病院で看護部長を務めてきた大島敏子さん。現在は、「フリージア・ナースの会」会長として看護師のセカンドキャリアを充実させるために社会貢献活動を行っている大島さんが、このたび“ナース・トーキング・エンターテインメント”番組「としこの部屋」を立ち上げました。2024年9月16日(月・祝)に第1回生配信を予定している大島さんに、チャンネル開設の背景、今こそ看護師に伝えたいメッセージについて、お話をうかがいました。

テーマは“看護職を元気に!”

このたび、YouTubeチャンネル「としこの部屋」を開設しました。コンセプトは、“看護職を元気に!”。毎回ゲストをお招きし、ラジオの深夜放送のように気楽に雑談したいと考えています。

新型コロナウイルス感染症が拡大してから、医療・看護界は大きく変わりました。ソーシャルディスタンスを保たなければならず、患者さんには“近づかない”“話さない”“接触しない”が当たり前。看護師にとっては三重苦であり、これまでベッドサイドで行ってきた看護を根本から見直さなければなりませんでした。

現在、新型コロナは5類感染症に移行しましたが、最近は自然災害も相次いでいます。こうした中、「Nursing-plaza.com」の運営元である株式会社ケアコムの池川充洋社長が、能登半島地震のお見舞いのため、石川県看護協会の小藤幹恵会長を訪問したそうです。小藤会長から話を聞き、「頑張りすぎて疲れている看護職に、何かしてあげられることはないか。素晴らしい看護を実践している看護職を元気づけたい」と思った池川社長からの連絡を受け、私もお力添えすることに。そして、全国の看護職を力づけるために、こうしてYouTubeチャンネルを始めることになったのです。

第1回は、チャンネル開設の発端となった小藤幹恵会長をゲストにお招きし、石川県の看護の現状と能登半島地震のその後についておしゃべりする予定です。ケアコムオフィス内のスタジオで配信を行い、終了後には懇親会も。私への質問、現地参加をご希望の方は、「としこの部屋」オフィシャルサイトのコンタクトフォームからお申し込みください。

大島敏子さん写真

今求められる、看護師の“雑談力”

アフターコロナの時代を迎えた今、看護界ではコミュニケーション能力の重要性にあらためて注目が集まっています。看護師にとって、患者さんとの雑談は信頼関係を築くための第一歩。普段から雑談を交わしていれば、患者さんは小さなことでも相談しやすくなるでしょう。それが、患者さんの心に寄り添う看護につながると信じています。

とはいえ、私が雑談の大切さに気づいたのは、看護師長として経験を重ねてからのこと。きっかけは、ある看護師と患者さんの会話でした。ある時、看護師がご年配の男性患者さんに、アイドルグループの話をしていました。「この間、コンサートに行ってきたんです」なんて話しているので、私は「無駄話ばかりして!」と内心いらだちを感じていました。そこで看護師が去ったあと、患者さんに「無駄話にお付き合いいただき、申し訳ございませんでした」と話しかけたところ、その方は看護師との雑談を楽しんでいるというのです。聞けば、その方のお孫さんは看護師が話題にしていたアイドルグループが大好きなのだそう。看護師から話を聴いておくことで、お見舞いに来たお孫さんとの話も弾むのだとか。傍から見ると無駄話のようでも、その看護師は患者さんの背景を知ったうえで、意味のある雑談をしていた。そう気づかされたのです。

また、ある看護師は、末期がんの患者さんがパチンコ好きだと知り、「元気になったらこのお店に行こうね」と近所のパチンコ店のチラシを渡したそうです。その方が亡くなったあと、奥様が病院に挨拶にいらして「夫はあのチラシを大事にして、枕の下にずっと入れていたんです。だから、お棺にも入れてあげました」と伝えられたそう。その看護師は「患者さんがそんなに喜んでくれていたとは」と涙ながらに、思い出を語ってくれました。

配信では、こうしたエピソードもお伝えしていこうと思っています。「一見無駄だと思われることも実は大事なことがあるんだよ」「みんなが実践している看護は素晴らしい。そのままでいいんだよ。続けていこう!」と看護職を認めて励ますことができたら、それが患者さんを回復させたり喜ばせたりすることにつながっていくと考えています。

看護の工夫をリアルタイムに届け、全国に拡大したい

看護職の皆さんも、ぜひメールやお手紙で番組に参加してください。日頃、看護の現場で行なっている小さな工夫を、リアルタイムに声にして全国の看護職に広げていけたらうれしいです。

2024年度の診療報酬の改定により、患者さんの身体的拘束の最小化が求められるようになったのはご存じでしょうか。この改定にともない、今多くの病院では身体抑制ゼロに向けた取り組みを行っています。そんな中、金沢大学附属病院では、急性期病院でいち早く身体抑制ゼロを実現しました。「患者さんを自分の親だと思って取り組んだ」といった些細な心がけでも、多くの看護師にとって参考になるはずです。「手を拘束されたら、体がかゆい時に掻くこともできないのかしら」と想像するだけでも、身体拘束を防ぐことにつながるでしょう。こうした工夫や働きかけを紹介していきたいのです。

また、昨今の医療・看護界ではパワハラが問題視されています。こうした現状を踏まえ、鳥取大学医学部附属病院の手術室ではピクトグラムを使った啓発ポスターを掲示し、「こういうハラスメント行為をしていないか」という意識を高めているようです。このような取り組みも、いち早く番組で紹介したいですね。

いくら優れた施策でも、論文にまとめ、学会に発表するとなれば、看護職の皆さんも身構えてしまうでしょう。ですが、この番組ではもっと気軽に実例を紹介し、リアルタイムに声にしていければと思っています。そして、「今あなたが実践している看護は素晴らしいですよ」と承認し、優れた看護を可視化したい。疲れ切っている看護職の良いところを見つけ、元気づけたい。「こうでなければダメ」「こうあるべき」という価値観をかなぐり捨て、“楽しきことはめでたけれ!”の精神で、皆さんの声を全国に届けたいと思っています。この番組を通じて「看護って楽しい!」とあらためて実感し、明日からの仕事のエネルギーにしていただけたらうれしいです。

YouTubeチャンネル「としこの部屋」キャプチャ「としこの部屋」では、さまざまなゲストを呼んでトークを繰り広げるだけでなく、視聴者とのインタラクティブなやり取りを通してメッセージを発信する

番組を通じて、看護職のつながりを深めたい

患者さんに対するケアの質を高めるには、全国の看護職がつながることも大切です。同じ看護師でも、急性期病院で看護に携わっている方と慢性期看護や在宅看護に携わっている方の間には深い溝があります。ですが、両者に優劣をつけられるものではありませんし、すべての看護はつながっています。看護職同士のつながりを深めるためにも、このYouTubeチャンネルを活用していただけたらと思います。

私は、患者さんや部下に育てられながら、長年にわたって看護に携わってきました。現在は看護師のセカンドキャリア支援を行っていますが、看護師を続けてきて本当に良かったと思っています。現在看護を仕事としている皆さんも、一人ひとりがやりがいを持って、楽しく仕事に臨んでほしい。「としこの部屋」がその一助となれば幸いです。

文:野本 由起

星アイコン

9月16日、“ナース・トーキング・エンターテインメント”が配信開始!

YouTube「としこの部屋」公式チャンネル
https://www.youtube.com/@としこの部屋

【第1回 生配信概要】
日にち:2024年9月16日(月・祝)
テーマ:「災害看護とNPO」
ゲスト:石川県看護協会会長 小藤幹恵氏

現場での工夫やお悩みなどは、「としこの部屋」公式サイトの「お問い合わせ」からご投稿いただけます。ぜひ、みなさまの声をお寄せください。

「としこの部屋」公式サイト
https://toshikos-room.com/

大島 敏子さん
NPO法人 看護職キャリアサポート
フリージア・ナースの会会長

横浜市立高等看護学院、関東学院大学経済学部卒業。横須賀北部共済病院で看護部長として10年看護管理、2005年から6年間、神戸大学医学部附属病院副病院長、看護部長を務める。2014年、NPO法人看護職キャリアサポート顧問となり、翌年、55歳以上の看護職の社会貢献を目指すフリージア・ナースの会会長に就任。2015年~2018年広島市立病院機構 看護総合アドバイザー、2019年~2022年日本看護連盟会長を歴任。現在は日本看護協会の認定看護管理者研修講師、講演会やアドバイザーなど、看護職の社会的評価を高めるために日本全国を駆け回る日々。

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