私たちの働き方改革

2022/12

看護記録の音声入力で業務を効率化 超過勤務を減らし、やりがいのある職場環境に

看護記録の音声入力で業務を効率化 超過勤務を減らし、やりがいのある職場環境に

学校法人 聖マリアンナ医科大学
聖マリアンナ医科大学病院

左から
看護部長 本舘 教子さん
看護師長 藤野 智子さん
看護師長 武田 理香さん
副看護師長 清水 美紀さん
看護副部長 堤 妙子さん

看護師一人ひとりがいきいきと働ける職場を目指して、聖マリアンナ医科大学病院看護部が取り組んでいるプロジェクトが「NHP(Nurse Happy Project)」です。中でも、音声入力による看護記録時間の削減は高く評価され、日本看護協会が開催している「看護業務の効率化 先進事例アワード」で、2019年に奨励賞を受賞しています。業務効率化に取り組んだ背景、音声入力を導入した経緯とその成果について、プロジェクトに携わった5名に話を聞きました。

「看護師がハッピーに、やりがいを感じられる職場」を目指して

本舘

2021年に創立50周年を迎えた聖マリアンナ医科大学は、大学の基盤強化を目指し、2017年度から7つの改革「イノベーション7」に取り組んでいます。そのうちのひとつが「看護の業務効率の徹底追及と無駄の排除」です。当院では、2023年1月に新入院棟のオープンを控えており、看護職員の適切な人員配置や看護業務の役割委譲が課題となっていました。そこで看護部が主体となってこの改革を行うことになりました。

例年の看護職員満足度調査によると、当院の看護職員は職場環境、超過勤務に関する項目に課題を抱えていました。そこで「看護師がハッピーに、やりがいを感じられる職場を!」をテーマに掲げ、「NHP(Nurse Happy Project)」として①看護業務の効率化、②看護業務の時間短縮、③看護動線の適正化、④看護業務の無駄の排除の4点を徹底的に追及することにしました。

その施策のひとつが、「看護記録の音声入力」です。NHPの推進にあたり、まずは看護師の業務量調査を行い、どんな業務がひっ迫しているのかを確認しました。そのうえで、KJ法(※1)で問題点を洗い出したところ、看護記録や入退院時の書類整備に時間を取られていることを、スタッフ自身が課題だと考えていることがわかったのです。そこで、看護記録の効率化に向け、音声入力を取り入れようと考えました。

導入にあたり、まずは院内にプロジェクトチームを作りました。オーナーを私、サブオーナーを看護副部長の堤が務め、藤野がプロジェクトリーダーを担当しました。さらにチームリーダーとして、より現場に近い副師長の武田や清水に加わってもらいました。そのうえで、超過勤務が特に多い部署、患者さんの回転が早く業務が煩雑な部署、そして新たに立ち上げたGHCU(General High Care Unit(一般総合的重症患者治療室))の3セクションを対象に、2018年から取り組みを始めることにしたのです。これらのモデル病棟で成功体験を積み重ね、ある程度目処が立ったところで、他病棟に取り組みを広げていこうと考えました。

※1 カードなどに情報を書き、グループごとにまとめることで問題解決策を考える手法

看護部長 本舘 教子さん

記録作業を行う時間の前倒しを目的に、音声入力を導入

藤野

当院は、設立当時の外科医の思いから、術後管理のために入室するICUやHCUを設置せず、術後の患者さんを各病棟でケアしていました。しかし、2016年9月に外科病棟の一部改修を機に、外科全般の患者さんが術後に入室するGHCUを開設したのです。

GHCUに配属された看護師は外科病棟の看護師ですが、今まで受け持ったことのない診療科の患者さんを担当することになります。そのうえ、患者さんが入室した翌日には退室していく慌ただしい部署です。超過勤務時間が60時間に達するスタッフもおり、看護師はみな疲弊していきました。

そんな中、NHPのモデル病棟として、GHCUが選定されたのです。早速、どのように業務改善を進めていくかを検討していたところ、「記録業務が勤務時間外の17時以降に行われている。もっと前倒しできるのでは」という提案があがりました。そこで、スマートフォンを使った音声入力の導入と可動式パソコンの活用に取り組むことにしたのです。実は、15年ほど前にも音声入力をテスト導入しましたが、当時は音声認識の精度が低く、本格的な活用には至りませんでした。ですが、技術も進化しており精度が向上したため、あらためて試してみることになりました。

トライアルを始めたのは、2018年1月頃から。夏には、3部署で11台のスマートフォンを導入しました。

看護師長 藤野 智子さん

ちょっとした隙間時間を活用し、音声で看護記録を入力

清水

私はプロジェクトメンバーに加わったものの、実を言えばITが苦手なタイプです。当初はスマートフォンの使い方もよくわからなかったため、実際の運用にあたってはITまわりに精通している若手看護師に協力してもらいました。スマートフォンを使って看護記録を音声入力すると言っても、慣れないうちはうまく使いこなせません。そこで、どんなシチュエーションで使うと効率的か、彼女に実践してもらったのです。周囲の看護師にも「意外と簡単に使えるんだ」と理解してもらったり、動画を撮って活用法を広めたりしました。

逆に、ITが苦手な看護師にも協力してもらいました。看護師の中には、電子カルテをキーボードで入力するのが苦手な人もいます。そこで音声とタイピングで、電子カルテの入力にどれくらいの時間差が出るか計測し、「音声入力のほうが断然早いね」と周知を広げていきました。

音声入力は1分間に270文字、タイピングは60文字入力できるというデータもあるそうです。約4.5倍の差があるため、記録時間の短縮につながるのは確実でした。

看護副部長 堤 妙子さん

清水

実際に使ってみると、見守りが必要な患者さんをトイレの前で待つ間や、エレベーターを待つ間など、ちょっとした隙間時間でも手軽に看護記録を残せることがわかってきました。導入当初は、「患者さんの個人情報を扱うため、音声が周囲に聞こえないか心配」という意見もありましたが、小さな声でも認識することがわかり、幅広い場面で活用できるようになりました。

武田

スマートフォン1台あれば、いつでもどこでも入力できるので、「思い出し記録」もなくなります。勤務時間外に記録していた頃は、「あの患者さん、午前中はどんな様子だったかな」と思い出しながら入力していました。その分、時間もかかりましたし、記憶をさかのぼるので精度も下がっていたのです。でも、音声入力ならその場で話しながら記録できますし、入力時間も短縮でき、記録業務の時短につながりました。

藤野

音声入力導入後の業務量調査では、それまで時間外に集中していた記録の時間が分散され、主に午後に2双性の山を示すように変化しました。また、しばらくすると、午前中にも音声入力の使用が増加し、隙間時間をうまく活用することができるようになっているのだと思いました。課題として上がっていた「17時以降に集中していた記録業務」の改善につながったと感じましたね。

資料提供:聖マリアンナ医科大学病院

偶然の出来事から音声入力の便利さを実感。活用が広がる結果に

清水

とはいえ、音声入力が浸透するまでには時間がかかりました。看護師は「勤務時間内は患者さんのそばでケアをするものだ」という意識が根強く、以前は看護記録をつけるのは17時以降が「当たり前」で、勤務時間中に記録をするなんて考えたこともありませんでした。日中、ナースステーションで記録をしている看護師を見ると、「勤務時間中なのに何をしているんだろう」と違和感を覚えることもあったほど。また、スマートフォンに向かって話しかけることにも恥ずかしさがあり、抵抗を感じる看護師もいました。そこを乗り越えるのに苦労しましたね。

副看護師長 清水 美紀さん

武田

そんな中、音声入力が一気に広まるきっかけがありました。当院の看護部では、先輩と後輩がペアになって患者さんを受け持っています。ある時、日勤の先輩看護師が、朝に出席しなければならない会議があるのを忘れていて、後輩の看護師に共有事項を伝えることができないと大慌てしたことがありました。その時、「そうだ、音声入力で伝えればいいんだ」とひらめき、観察項目や必要なケアや処置を記録の下書きとして、音声で入力しました。後輩看護師はベッドサイドを回る際、その下書きに沿ってケアや処置を行い、観察したことを記録の下書きに追記していき、安全かつ安心な状態で患者さんをケアすることが出来ました。
この出来事をきっかけに、朝の情報収集前に先輩から後輩へ音声入力で共有をするという習慣ができました。その結果、業務開始15分前までは病院に出勤しないというルールも生まれ、超過勤務のさらなる削減にもつながりました。

看護師長 武田 理香さん

患者さんだけでなく、看護師の幸福も追求

藤野

NHPでは、看護記録の音声入力のみならず、他にも約90項目に及ぶ業務改善を行いました。例えば、勤務中に1時間半~2時間ごとに業務リーダーとスタッフはハドルミーティングを行い、看護師個々の残務量を確認し、業務量の均等化を行うようにしました。お互いに助け合い、チームとして、みんなで超過勤務時間を減らすための取り組みですね。

こうしたさまざまな業務改善策を取り入れた結果、翌年には、取り組み前に比べて、月一人あたりの超過勤務が3時間削減されました。

こうした取り組みにより、職員満足度の調査結果にも大きな影響が生じました。NHPを始めた2017年と2018年を比較すると、「やりがい」や「患者ケア」「患者ケア時間の充足」といった項目の満足度が大きく向上しました。超過勤務が減ったにもかかわらず、患者さんのベッドサイドで過ごす時間は減らず、逆に増えていることがわかったのです。

 

資料提供:聖マリアンナ医科大学病院

清水

業務改善に取り組んでいる間は、通常の仕事に加えて業務量調査もしなければならず、とても大変でした。でも、あるスタッフが「今はすごく大変だけど、今後の後輩たちを働きやすくするためだから頑張ります」と言ってくれたのです。その言葉を聞いて、私たちも頑張らなければと思いました。

藤野

働き方を変えるのは大変ですし、どこから手をつけたらいいのかわかりません。ですから、不満を言いながらもそのままのやり方を続ける病院が多いのだと思います。しかも、トップダウンで「変えなきゃいけない」と言うだけでは不十分。看護師たちが改革の必要性を理解し、「こういうやり方をするといいよ」と広めてくれなければ働き方は変わりません。現場で働く看護師も含めて問題点を洗い出し、業務改善してフィードバックをして……というサイクルを回しながら、より働きやすいやり方に変えていくことが必要だと思います。

本舘

私の究極の目的は、看護師の幸福を追求することです。看護師は、「患者さんのために」という使命感から、自分を犠牲にして仕事に打ち込む傾向があります。でも、ケアする看護師も、ケアされるべき存在。患者さんだけでなく看護師も尊重し、人間としての幸福を追求すべきです。そう考えると、働き方改革に取り組む意義も見出せるのではないでしょうか。

施設名学校法人 聖マリアンナ医科大学 聖マリアンナ医科大学病院
住所〒216-8511 神奈川県川崎市宮前区菅生 2-16-1
開院1974年2月
病床数1,175床(一般1,123床、精神52床)
診療科総合診療内科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、腎臓・高血圧内科、代謝・内分泌内科、脳神経内科、血液内科、リウマチ・膠原病・アレルギー内科、腫瘍内科、神経精神科、小児科・新生児科、消化器・一般外科、呼吸器外科、心臓血管外科、小児外科、乳腺・内分泌外科、脳神経外科、整形外科、形成外科、皮膚科、腎泌尿器外科、産科・婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線診断・IVR科、放射線治療科、病理診断科、麻酔科、リハビリテーション科、緩和ケア科

※2022年11月現在 聖マリアンナ医科大学病院ホームページより抜粋

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